20・一方的な想い+ウヴァル 戦③
ウヴァルによって洗脳されてしまったスターちゃん(つちの)。そのスターちゃん(つちの)を処分するために突然現れた同じくスターちゃんの『みずの』『きの』『かの』『ひの』。
『つちの』としては、4人が現れたことに内心驚いているようで、4人の側から離れるように後ずさりを行いながら、4人の目的を尋ねている。
「処分? なぜ?」
つちのの質問に4人のスターちゃんはそれぞれ顔を見合わせ、そして4人でシンクロしながら答え始める。
「「「「やつがれたちはスターちゃん。みんなのスターである我らが1人に固執してはならないのです。あなたが脱退するのなら、我ら5人でスターなんだから、別れの機会は大事でしょ?」」」」
「へぇ、わざわざお別れの儀式を開いてくれるのかい。だけど、やつがれは生きていく。お前らを裏切っても!!」
「「「「確かに、あなたが一番暴れん坊。でも、数の差じゃこっちが上よね」」」」
スター同士で睨み合っている。スターちゃん5人衆というユニットの解散の危機である。
一方、その様子を見ていたウヴァルとしては、せっかく洗脳できた味方が、扱えない状況だった。
「これは、修羅場だねぇ~。あーしの護衛ができねぇな。これはこれは困ったねぇ〜」
これでは、ウヴァルを守るものはいない。護衛であるスターちゃん(つちの)は既に取り込み中。
アンドロ・マリウスとウヴァルは直接対決をしなければならなくなっていた。
アンドロ・マリウスとウヴァルは、一旦スターちゃんたちを無視して、お互いに敵意を向けて睨み合う。
「……よくわからないけど。これであなたを守る盾はいないわ!!」
「こりゃ、まずいね。できれば、あーしは、あんたを傷つけるつもりはないんだよ。だから、仲間割れしてほしかったんだけどね〜ッ!!」
ウヴァルの剣とアンドロ・マリウスの剣とがぶつかり合う。
先に攻撃を仕掛けたウヴァルの手に握られている剣は彼女独特の剣。それは、彼女の度重なる怪しい実験に耐え抜いた彼女だけが扱える剣である。
「なに、この剣!?」
一度、お互いの剣がぶつかると、アンドロ・マリウスはその違和感に気づいた。
刃と刃がぶつかったような感覚はある。
だが、ウヴァルの剣の刃が異質だったのだ。
「この刃、柔らかい!?」
ウヴァルの剣の刃がまるで、ヒモの途中が硬いものにぶつかり、輪ができるように曲がる。
そして、その曲がった刃がアンドロ・マリウスの額に突き刺さろうとしていた。
「!?!?」
この至近距離からではアンドロ・マリウスは避けられない。首を曲げようにも間に合わない。
このままでは、アンドロ・マリウスの頭がスイカ割りのスイカのように真っ二つにされてしまう。
「しまッ!?」
「おっとっと〜」
だが、そのことに気づいたウヴァルは一瞬焦り、アンドロ・マリウスを一瞬で蹴り飛ばす。
さいわい、ウヴァルの蹴りによってアンドロ・マリウスの額に刃が刺さるということはなかったが……。アンドロ・マリウスは蹴り飛ばされて、転がりながら、勢いよく棚にぶつかってしまう。
「────────ッカッ!?!?」
アンドロ・マリウスは本棚に激突し、中に並べられていた本が彼女の体を埋め尽くす。
その姿を見て、ウヴァルは頭を掻きながら、苦笑いを浮かべる。
「殺しちゃダメだもんね。危ない。危ない」
「それで痛めつけるのか……そりゃヒデぇよ」
「安心しなよ。抵抗しなけりゃもう何もしない。でも、抵抗はさせないよぉ〜」
「ッ!?」
その時、ウヴァルの両手から伸びてきた赤い糸がアンドロ・マリウスの全身を拘束し始める。
「あーしが心を操るだけだと思ったかい?
あーしはもちろん糸を操れるのさ」
ウヴァルの両手から放たれた糸はアンドロ・マリウスの両手足を梗塞し、彼女は動けなくなってしまう。
「これが3位の力……虹武将の3位……!!」
「どうするんだい?
あーしの剣もあーしの術も、破れていない。それでもまだ諦めないつもりかい?」
「当たり前だァ!!!!」
成すすべもなく動けないアンドロ・マリウス。相手と直接戦うという戦術を行わないというウヴァルとは戦闘の相性が悪かったのだ。
しかし、彼女の闘志は消えていない。
だが、ウヴァルとしては、闘志を未だに持ち続けているアンドロ・マリウスのことが気に食わないらしい。
「ハァ、殺すなって指令が出てなきゃ楽なのに。でもまぁ、侵入者は殺せるからねぇ。お前の目の前で全員死刑にしちゃうよ」
「やってみろ。その瞬間、私はこの拘束を引きちぎり、お前を後悔させてやる!!」
「かわいい口だけは立派だねぇ〜。でも、正義は勝つんだ。それは揺るぎないのさ」
「正義? それは私だ。未来へと歩む私だ!!」
「はいはい。そりゃすごい。
────ん? これは?」
そろそろ反対側の戦闘も静かになってきた。
スターちゃん(つちの)とスターちゃん4人との戦闘。
それが果たして、どうなっているのか。戦闘拘束中のウヴァルとアンドロ・マリウスは知らなかった。
───漂ってきた異臭。
血なまぐさい気分の悪くなるような臭い。
その臭いを彼女らが戦闘中に感じることはなかった。それほどまでに集中しきっていて、臭いに意識を向けていなかったのだ。
だが、ウヴァルによるアンドロ・マリウスの拘束が終わり、ウヴァルが一安心した際にその違和感をようやく感じ取ったのである。
───────────────
処分。4人のスターちゃんはそう言った。
一人への愛を抱いた者への罰。スターちゃん5人衆の掟。
その掟に背いた罪人の末路である。
「─────────ッ──────────ッ」
音が聴こえない。その声が音となる前に途切れている。その叫び声は耳にすることができない。
だが、その悲痛さを客観視で感じることはできる。
床も壁も赤黒い。水風船が爆発し、部屋に中身を撒き散らしたかのようだ。
クチャクチャ。
ガシガシ。
ギシギシ。
不思議な音が聴こえてくる。
力を込めすぎた。でも、しかたがない。それは、裁きだ。
「─────」
ヤツは、裁きを受け入れる。ヤツラは裁きを与える。
四肢は数を減らし、腹は赤く染まる。
他者への愛を感じた原罪。愛を自分の中に生み出した素材。
ヤツラは愛を知らず。ヤツラは愛を求める。
ヤツラは愛情の生まれ方を知らず。
でも、食べたい。でも、食べちゃいけない。
それなら、禁止しよう。それを破れば頂こう。
それがスターちゃん5人衆の掟。
永遠に続く、輪廻のように。愛を味わい、愛を知り、そして愛が消える。それを繰り返す。
ヤツラはそれを理解している。いつか自分も誰かを愛すると理解している。
でも、やめられない。この味は中毒だ。
愛という中毒だ。
「ありがとうつちの、ありがとうつちの」
感謝しながら頂いていく。感謝を呟きながら頂いていく。
ヤツラは愛を知らない異形。
それ故にヤツラは愛を取り込む。




