18 ②・絆崩壊+ウヴァル 戦①
遅れてしまい、大変申し訳ございませんでした
スターちゃんとアンドロ・マリウスの前に現れたウヴァルという虹武将を名乗る女性。
「オォ〜お嬢様じゃん。あーしのこと覚えてないか。もう十数年も昔だからねぇ〜」
馴れ馴れしい態度でアンドロ・マリウスの頭を撫でようとするウヴァル。アンドロ・マリウスはその手を弾き払い、剣の刃を向ける。
「ウヴァル!! 邪魔をしないで」
「それは、兵士の物だねぇ〜。どこで盗んで来たんだい?
昔はそんな〜悪いことをする子じゃなかったのにねぇ〜」
「ウヴァル。私はあなたと争うつもりはない。私は奇跡の薬を求めてきたのよ……」
「そうかい。そうかい。それならこの部屋にあるよ。奇跡の薬は使用中だが、まぁ余るだろうね」
ウヴァルが指を指した先には、カーテンに覆われた部屋。そこに映るのはベッドに横たわった人影。
その人物は、ウヴァルの言葉に反応して、カーテンを開けて、ウヴァルへ向けて文句を口にしてきた。
「なに敵に教えているのだ。馬鹿者!!」
その人物はクロケル。ウヴァルと同じ虹武将であり、赤羅城の自爆に巻き込まれたはずである。
しかし、クロケルの体は少しの傷が目立つのみで、四肢が弾け飛ぶなどの怪我を負っていない。
もちろん、ウヴァルと赤羅城が闘ったことは本人たちとアガレスしか知らず。
アンドロ・マリウスにとっては、彼女が怪我を負っていることに驚いてしまった。
「あなた、なんで!? 怪我を!?」
「あっ!? お嬢様!?
なぜ、逃げ出しておられるのです」
お互いにお互いがいることを驚き合う2人。
そして、このままでは2対2の闘いとなってしまう。
そうなれば、アンドロ・マリウスたちに勝ち目はない。1対1では勝てるような相手ではないのだ。
しかし、ウヴァルはクロケルに近づき……。
「だめだよぉ〜病人なんだからね。寝てないといかんでしょうがーー!!!!」
「!?!?!????」
病人の頭を蹴りあげる。
ウヴァルの足がクロケルの顔を蹴り上げ、クロケルが部屋の奥へと蹴り飛ばされる。
クロケルは手も足も出ないままに、棚にぶつかってそのまま気絶。
「──」
「おっとっと。力入れすぎたね~。ごめんよ〜後で治してあげるから。恨みっこなしさ」
こうして、クロケルの再出番は幕を閉じ、人数は3人へと戻る。
ウヴァルと睨み合うアンドロ・マリウスたち。
3人が出会って数分が経過しているが、アンドロ・マリウスは何かを思い出したかのように慌てている。
そして、スターちゃんに向かって、注意喚起を行った。
「気をつけて、スターちゃん。あいつは敵だ。いいかい、敵なんだ。見ただろう? 今の行動を」
「…………」
「偉いね。お嬢様、よく覚えてたね。
そのとおり、あーしは付喪人だよ。
あーしは【糸の付喪人・“赤い糸”】。あーしは“初対面の相手と仲良くなる”ようにさせちまうのさ」
ここで、ウヴァルの能力が彼女自身の口から明かされた。
それは、強制的に絆を作る能力。初対面の印象を操作してしまう能力。
それは、ただ人に傷を負わせるものではない。それは、殺傷力もない。
だが、その能力は恐ろしい。それは命を奪わない。命を奪わない代わりに心を奪うのだ。
「さて、スターちゃんとやら。あんたにはあーしがどう見える?
親友かい? 恋人かい? 幼なじみかい? 恩人かい? それとも神かい?
あーしとあんたとの絆はどうだい?
あーしはこの能力で、偽装・暗殺・潜入・処刑・組織崩壊・敵国滅亡。なんでもしてきたよぉ〜?」
その能力は何でもさせることができる。ただ、彼女の印象を知っている者には効かないという弱点を持っているが……。一度能力が決まれば、その術は一生解けることはない。
一般人が手足となり、敵が仲間割れをし、悪が服従する。
彼女自身の能力には、直接危害を与える攻撃力はない。しかし、彼女の味方を強制的に作ることができるのだ。
ウヴァルにとっては友情であり、他人にとっては絆の亀裂。
永続的な洗脳。それこそが彼女の能力なのである。
そして、スターちゃんにはもう遅かった。アンドロ・マリウスの注意を聞くには遅かった。
スターちゃんとウヴァルの初対面はなんの情報もない状態での出会い。つまり、能力からは逃れられることはできなかったようだ。
「──ウヴァルちゃん。イエーイ」
スターちゃんの態度が突然変貌し、ウヴァルと一緒にハイタッチを行う。
「もー、心配したんだよ。ウヴァルちゃん。せっかく、ひさびさに会えたんだしー。甘えたいなー、やつがれは」
「はいはい。今宵も君の手が必要だからねぇ〜。実験に付き合ってくれたまえよ?」
「うん!! なんでも言って。やつがれ、全部こなしちゃうから。ウヴァルちゃん大好きだから。
ウヴァルちゃんのおかげでやつがれは生きていけてる。ウヴァルちゃんはやつがれの運命の人だもんね!!!!」
スターちゃんのキャラ崩壊。スターちゃんはウヴァルの能力で絆の度合いをいじられてしまっている。
おそらく、スターちゃんがウヴァルに抱いた初対面の印象が運命の恋人へといじられているようだ。
「そんな……スターちゃん。あなたはもう」
アンドロ・マリウスはその場で落胆した。もうすでに、スターちゃんの心はウヴァルに奪われてしまっている。2対1では勝てない。スターちゃんを敵に回してしまっては、マルバスへの顔向けができない。
全ては、アンドロ・マリウスがマルバスを救おうと決めてしまったから。恩を返そうと躍起になっていたから。
スターちゃんにウヴァルのことを伝え忘れていた。みんなにウヴァルのことを伝え忘れていた。
その責任を感じ、後悔の念から立ち上がることができないアンドロ・マリウス。
そんな彼女をウヴァルが気遣うわけがなかった。
「じゃあ、スターちゃん。そこのお嬢様にオシオキをお願いしてもいいかい?」
「ああ……。ねぇ、あいつは。ウヴァルちゃんになにかしたの?」
「あーしの尊敬する人物の妹さんだが、反抗的でね。ちょっとだけ、載冠の儀終了までの間だ。
帝王様は『帝王の座は余だけの物。帝国は余と共にあるべき』と仰ってたからね。
少しだけ、反抗的な態度を叩き直すんだよ〜」
「わかった。ウヴァルちゃん。あいつを直せばいいのね!!」
スターちゃんは落ち込んでいるアンドロ・マリウスの近くへと駆け寄る。
「…………」
「……………」
「……ねぇ、ごめんね。あんた。ウヴァルちゃんの命令なの。ウヴァルちゃんの尊敬する人の命令なの。
ね、消えよっか。ウヴァルちゃんに姿を見せないでね。やつがれとウヴァルちゃんとの関係だから。
やつがれたちの時間を奪わせちゃダメだよ?
だからね、消えよ? ね?」
スターちゃんの心は完全に堕ちてしまっているようである。




