18 ①・“藍”の『ウヴァル・エリスサノ』+ウヴァル 戦①
ここは、城内にある長廊下。そこでは1人の女性が必死の形相で駆け走っていた。
「何年も前の記憶だけど。信じるしかない」
彼女はアンドロ・マリウス。
マルバスによって救われた彼女は、今、城内を走り回っている。
その目的はとある一室を探すこと。
彼女は何年も前の記憶を頼りに、部屋を探し走っているのだ。
「せめて、あの人を逃がす。私の復讐に巻き込んだ彼女を救う。それがせめてもの恩返し」
そして、彼女はとうとう見つけたのだ。記憶の片隅にある部屋を……。
「あった!!!! あそこが専用医務室!!」
彼女が向かう先には専用医務室という看板があった。
この場こそが彼女が探し求めていた部屋である。
専用医務室。そこは虹武将のためだけの治療を行う部屋。
数々の強敵と闘うというのは、自身の体の損傷も激しい。そのため、虹武将には特殊な医務室が与えられている。
「さて……」
部屋の中は薄暗い。広い部屋だが、そこはまるで実験室。さまざまな薬や器材などが散乱し、怪しげな液体が泡を立てながら熱せられている。
しかし、アンドロ・マリウスにとっては部屋の中にある物が重要なのだ。
「あの薬品を探さないと……」
彼女が探し求めている者は薬である。その薬は瀕死状態に陥った際、身体の傷の再生を異常な程に高めてくれるという奇跡の薬である。
「奇跡の薬……。あの人の回復に使ってもらわなきゃ」
その奇跡の薬をアンドロ・マリウスはマルバスに与えるつもりなのだ。出血多量と闘いの疲労によって、危機的な状況下であるマルバス。そんな彼女への恩を返すために、アンドロ・マリウスは薬を手に入れようというのだ。
もちろん、その薬をアンドロ・マリウスは見たことがない。なので、必死に一つずつ探していくしかない。
「ふぅーん、突然走り出したと思ったら、そういうことね。ナルナル」
「……って、その声はやつがれちゃん!? なんで着いてきたの!?」
「やつがれはスターちゃんですよ。やつがれとしては、急に飛び出していったあんたが気になったのですよ。でも、主人を救うために動いてくれたのですね。ヨキヨキ」
「いやいや、そうじゃなくて。あなた、マルバスさんを置いてきたの!?」
「いえいえ、ご心配なく。それより早く、奇跡の薬品とやらを探すのでしょう? セカセカ」
「……そうね!! 手伝って!!」
さて、さっそく始まった。アンドロ・マリウスとスターちゃんによる奇跡の薬品探し。
マルバスの重傷を治すため、彼女たちは奇跡の薬品を探すのだ。
その薬品の在り方に関する頼りはアンドロ・マリウスの過去の記憶にしかない。
「それで、薬品のしまった場所は?」
「知らない」
「薬品の名前は?」
「知らない」
「薬品の材料は?」
「知らない」
「薬品の色は?」
「知らない」
「薬品の形状は?」
「知らない」
そう、奇跡の薬品についてはアンドロ・マリウスの過去の記憶にしかないのだ。
奇跡の薬品についての情報が何一つない。スターちゃんとしては驚くどころか呆れ果てている。
「……使えねぇ。ムダムダ」
「じゃあお前!!
数年ぶりに訪れた我が家のことや家族の作業を全部覚えてるのかァ?」
しかし、薬の在り方を知らないアンドロ・マリウスもしかたがないのだ。彼女がこの城にいたのは幼い頃。アンドロ・マリウスが濡れ衣を着せられ国外追放になっての長い年月、彼女は一度もこの城に訪れていないのだ。記憶を忘れているのもしかたがない。
困り果てるアンドロ・マリウスとスターちゃん。
このままではマルバスの命も危ない。
一刻も早く、奇跡の薬を探し出さなければならないのに、何も動き出せていない。
どうしようもなくなってしまった。
「もう片っ端から薬品を盗むしか。あわあわ」
「落ちついて。それっぽいのを探すしかない。時間がないんだから」
このままでは無駄な時間だけが刻一刻と経過していく。
焦るアンドロ・マリウスとスターちゃん。そんな2人に1人の女性が声をかけてきた。
「おやおや~。なにか困っているねぇ〜。
あーしも手伝おうかい〜?」
その女性。青色のゆるふわショートの髪型で、右目は黒き漆黒、左目を眼帯で隠していた。
その服装は浴衣。セイヨウキヅタの柄がよく似合う。また、その身長から魅せる美脚。
「あーしはねぇ。『虹武将“藍”。友情の『ウヴァル・エリスサノ』ってもんだよ。さぁ、あんたら仲良くしようぜ」
スターちゃんとアンドロ・マリウスとが対面した最後の虹武将。その名はウヴァル・エリスサノ。
奇跡の薬を求める2人と対するウヴァル。
急がねば。もうすでにマルバスに残された時間は少ないのだ。




