17②・Master漏洩=『グシオン・ユニバーサル』+お祝いの場にて
お祝いの場。
そこは大陸中から載冠の儀を祝うために訪れた権力者たちが居座るパーティ会場。
そんなパーティー会場に忍び込んだ僕とフレンドちゃんが見たのは『フォカロル・ハーデス』に似ている男、青年英雄『プルトン・マーベラ』。
「あの顔。僕は忘れない。あいつだ。でもなんで……」
なぜフォカロルがこの場にいるのだろう。
フォカロル・ハーデスは、犯罪組織【闇星】の幹部の一人。
この場にいるべき人間ではないはずだ。
「ちょっと……フレンド。顔を出しすぎでしたよ。バレちゃいますよ」
「わかってるよフレンドちゃん。でもさ、あいつなんだ。なんであいつが帝国に……」
その時、僕は思い出した。前に出会った男のことを……。そいつは『シャックス・ウルペース』。同じく【闇星】の幹部である彼は言っていた。『同僚の様子を見に来た』と言っていた。
まさか、それが真実だとすれば、あそこにいるフォカロルに似た男の正体はやっぱり……。
「いや、でもなんで。あいつ、なんで権力者に混じっているんだ。なんで、青年英雄だなんて呼ばれてるんだ? あいつの目的は?」
「落ち着いてくださいよフレンド。冷静に冷静に。フレンドの目的にあいつは関係ない」
「そうだけどさ…………いや、わかった。落ち着くよ」
「それで良いのですフレンド。いいですか?
もし、あいつが何者であれ、ここで騒ぎを起こしてはいけません。フレンドが犯罪者になっちゃいます。モルカナ国の罪人だけでなく、大陸中の大罪人に……」
そうだった。相手が闇星だからと過剰に考えすぎていた。
闇星の火行の使者『パイモン・アモエヌス』との戦いの舞台となった【アンビディオ】でだって、パイモンは何も暗躍していなかった。
それと同様に今回も水行の使者が何の暗躍もなしにプライベートで訪れていると祈っておこう。
何事もあいつが問題を起こさなければいい。
そうすれば、僕も罪を重ねなくて済むのだから。
今は問題を起こさないことが最重要だ。
僕にはフォカロルを倒す理由がない。
命令されたわけでも、人質を取られているわけでもない。
ただ、恨む理由はある。あいつが生きているってことはやっぱりキユリーは……。あの日から出会えなくなっているキユリーはもう……。
「…………くそ、キユリー…………キユリー」
涙が落ちそうになる。
ダメだ。僕が我慢すればするほど、涙と怒りがこみ上げてくる。
僕が大好きだったキユリー。彼女と別れたのはフォカロルとの戦いに僕らを逃してくれてからだ。
今、すぐ近くにキユリーの仇がいるのに、近づけないのが最も悔しい。
「静かに。だまりなさいフレンド」
「でもよ、フレンドちゃん……あいつは!!!!」
「フレンド、キユリーが死んだと決めつけないで。フレンドだけは私の前で絶望的にならないで。フレンド、キユリーは生きている。信じるの。
今、我らがすべきは弔い合戦?
今、優先順位を間違えたら、全ては崩れ去る」
「…………!?」
その言葉にハッと気付かされる。フレンドちゃんだってつらいのだ。
無表情のフレンドちゃん、でも握り拳は抑えきれていない。フレンドちゃんだって、キユリーとは少しだけ仲が良かった。
フレンドちゃんだって、キユリーのことが心配なのだ。
でも、ここでフォカロルを殴りに行けば、今回の目的は果たされない。それどころか最悪の結果になるかもしれない。
友の敵に手を出さないことが最善なのだ。
「ああ、ごめん。僕はアンドロ・マリウスを助けるんだ。それが目的なんだ。今、優先順位をはっきりさせたよ」
「そうね。よかった。偉いよフレンド」
「…………でもさ。フレンドちゃん。
場所を移動してもいいかな?
ここにいたら、優先順位が揺らいじゃう…………んだ」
「ええ、そうね。権力者たちの場にいる意味はない。妹ちゃんは自分の足で探しに行こう」
僕らは隠れていた机から、ゆっくりとゆっくりと、離れていく。
音を出さないように……誰にも気づかれないようにお祝いの場から立ち去ろうと思っていた。
しかし、僕らは息を殺す。
動き出そうとした瞬間に僕らの隠れていた机が揺れる。
まるで誰かが机にのしかかってきたようだ……。
「情報国Master漏洩殿。あなたの瓦版はいつも拝見させて頂いている。
そこでいかがです? 【青年英雄】の特ダネでもお話しましょうか?」
その声はプルトン・マーベラ。いや、フォカロル・ハーデスだ。偶然か、それとも分かっているのか。僕らの側でフォカロルは語ろうというのだ。特ダネを……。
「「 」」
僕らは息をひそめる。無駄かもしれないが、他の連中にバレるよりはマシだからだ。
そして、プルトンは語り始める。
そんなプルトンの話を聞く男。
黒髪にオールバック、そしてゴツいサングラスと腕には古傷。そして手にはメモ帳とキャンディー風のペン。
彼がMaster漏洩こと『グシオン・ユニバーサル』は情報国の最高指導者である。情報国は大陸中の情勢や事件を収集し、それを瓦版という形で公表している。情報国はどんな情報でも集めようとする、情報に飢えた野獣だ。
みんなが彼らの情報を待ち望んでおり、みんなが彼に情報漏洩するのを恐れている。
この大陸で、彼ほど必要とされ彼ほど嫌われているというバランスの保てた者はなかなかいないだろう。
「是非ィィィとも聞かせ願おうかァ。君らの情報が我らの財産であり財源なのだからねェ」
「そうだな〜。最近の話題から行おうか。
ぼくはね、あの御伽話とされている【ボヌムノクテム】にいたんだ」
「【ボヌムノクテム】ってあの伝説上の国ですか。そこは不老不死の桃源郷……まさかあなたも」
「いやいや、僕は不老不死になんてなれなかったさ。でも、そこで奇妙な怪物に出会ったんだよ。人語を喋る牛みたいな怪物さ」
人語を喋る牛みたいな怪物……。その言葉に僕の意識は向けられる。おそらく、それはキユリーを指しているのだろう。
僕らの側で彼はキユリーの話を語ろうとしているのだ。




