17①・『プルトン・マーベラ』という英雄+お祝いの場にて
「やつがれの心臓、飛び出たわ。ドキドキ」
ここはとある城内の一室。
部屋にいるのは3人の女性。
大怪我を負いながら気絶しているマルバス。
そのマルバスを連れて塔の上から飛び降りたアンドロ・マリウス。
そして、その2人を隣の建物から飛び移って助けたスターちゃん。
「……ありがとう」
塔の上から飛び降りた2人をスターちゃんは抱え、窓ガラスを突き破ってくれたのだ。
その際、スターちゃんの驚愕はピークに達したようで、今息をきらしながらアンドロ・マリウスに文句を言っている。
「あんた、やつがれがいなかったら死んでますよ。てか、そこの主人を連れてなかったら、やつがれは助けませんし。
あんた、未来見えてんの? それとも、鉄砲玉なの?」
「いえ、なんとなくなんとかなれーって思いながら飛び降りた感じですね。アハハハ」
「なんだ。ただのバカか……。超ムカつく……ムカムカ」
スターちゃんは怒りが溢れ出そうなのを抑え込む表情で、マルバスの手当を行っていた。
だが、マルバスは目覚めない。マルバスはかろうじて生きてはいるが、大量出血と打撃によって意識が危険な状態なのだ。
「あんたもバカですね。マルバス……。なんでこんなになるまで。アワアワ」
「ああ、私のせいです。私を助けに来てくれた方なんですよね」
「そうです。あんたのせいです。あんたが復讐なんてしようとしなければ……。あんたが絶望したままでいてくれたら」
「…………」
「でも、悪いと思ってるなら良いです。そもそも、頼みを受けたエリゴル人にも責任はある。
ですが、これにて我々モルカナ国はあなたを救い出しました。あとはもう何も手を貸しませんので」
スターちゃんはマルバスの手当を行っている最中なので、アンドロ・マリウスの方に顔を向けることはしない。
おそらく、彼女は怒っているのだ。主人をひどい目に合わせた元凶に怒っている。
そのことをアンドロ・マリウスも汲み取った。だからこそ、彼女は早々とこの場から立ち去るつもりなのだ。
「わかってる。ありがとうございました。モルカナ国。
あなた達のことは忘れませんし、決して口には出しません。
あなた方の手助けがなければ、私はここまで来れなかった。でも、ここからはモルカナ国とは関係を絶ちます。
あとは私がどうなろうと私の運命。私の復讐には巻き添えにはいたしません」
アンドロ・マリウスは部屋を出る前に、2人に向かって深々とお辞儀を行う。
スターちゃんは何も言わない。何も言わずに、アンドロ・マリウスの立ち去る音を聞いている。
だが、その最中、アンドロ・マリウスが完全にドアを閉める直前。
「 待っ」
絞り出すような声。かろうじて聞こえるほど細く折れそうな声。
その声の主はマルバス。彼女は虚ろな眼と今にも閉じそうな口ではあったが、少しだけ意識を取り戻したのだ。
おそらく、僅かな意識の覚醒。
これにはスターちゃんも驚き、2人とも彼女の側に駆け寄る。
「よかった。意識が!!」
「私の恩人!!」
駆け寄る2人の顔をマルバスの瞳が追う。顔を確認したからかマルバスは少し安堵の表情を浮かべると、そのままとぎれとぎれに語り始めた。
「……復讐は成功……させろ。載冠の……儀を……潰」
アンドロ・マリウスはマルバスの手を握りしめながら、彼女へと宣言する。
「わかってる。私は必ず、儀式をぶっ壊すから!!」
それを聞いて、マルバスは再び安堵したような表情を浮かべたが、その後意思を保ち、何かを伝えようとしていた。
「確信した……奴の名を聞いた……ベリアルがある夜言ってた」
「奴? それは誰なの?」
「オレが参加した本来の理由……。奴がいるという情報だ……。そいつだけは絶対……」
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一方、その頃、僕『エリゴル・ヴァスター』はフレンドちゃんと合流後、“お祝いの場”に来ていた。
ここは載冠の儀を祝うために大陸中のありとあらゆる権力者が集まったパーティー会場である。
アンドロ・マリウスちゃんを捜していたら、いつの間にかたどり着いてしまったのだ。
もちろん、ご馳走に惹かれたのではない、と言っておく。
「なぁ、フレンドちゃん。色々な国の王族がいっぱいだ」
「パラダ国王、竜遺大国、超薬領、妙医国、原動王国、貿易王国、凶王国、火熱国、ハグルマ王国、樹海王国、スノー大国、賭代国、騎士団国、クラクラ国、ユヴァ国、浜海国、星読国……。
まだまだいますよ。うひゃーー。どれも王子や夫妻や国王やら社長やら」
たどり着いてしまった先で僕らが目にしたのはたくさんの権力者たちだ。
大陸中の王族やブランド企業の社長や有名芸能の方もいる。
その数はおそらく、100を超える組織からの客人たちだろう。王族だけでも、大陸にある国の半数近くの権力者が、この場に勢ぞろいしているのだ。
「「(我ら、場違いすぎる……)」」
僕とフレンドちゃんは輝かしい権力者オーラに圧倒されて、ご馳走すらつまみ食いすることができない。
目を向けることができない状況なので、僕らは机の影に隠れて、耳だけで周囲の様子を伺ってみる。
だが、ここから起こることはほんとうに偶然の奇跡だった。
なにかアンドロ・マリウスちゃんに関する情報でもないかと、権力者たちの話を盗み聞きしていたのだが……。その中でとある声が耳に入ってきたのだ。
「あらまぁ、あなたはもしや。あの“蝕の獣骨”事件や“無敵軍隊ザーマ”事件、そして先日“魔王軍部隊”を退けたという【青年英雄】『プルトン・マーベラ』デマス?」
「【青年英雄】だなんて。お恥ずかしい。ぼくはただ困っている人々を助けただけですよ。ペロシュガ国婦人殿」
なにやら談笑している声。しかし、僕はその声に聞き覚えがあった。その声のトーンや話し方を知っていたのだ。
僕は机の影からちらりと顔を出して見る。
そこにいたのは『フォカロル・ハーデス』。違いがわからないほど彼はその男にソックリな人物だ。
『プルトン・マーベラ』と名のる青年は僕の目に『フォカロル・ハーデス』として映ったのである。




