8①・蹴り上げた一撃+釘野郎 戦②
今宵は実験として0時にあげてみました。明日は元通り夜の2時に投稿します。
釘野郎との再戦。
バティンのお陰で釘野郎の頭の釘を失っても、両腕釘があるかぎり、僕に不利なのはかわりない。けれど、この短刀とこの瞳だけあれば勝てる。
そんな作戦を思い付いちゃったのだ。
短刀を構えて、釘野郎に向かって走る。
刀の戦い方なんて知らない。普通の学生だった僕に戦闘経験があるわけがない。
それでも、この釘野郎を倒して、バティンに復讐する。その想いだけで僕は走った。
短刀を降りかざす。
狙うは釘野郎の体にこの短刀を突き刺すこと。
釘野郎の両腕釘に注意しつつ、動かねばならない。
「…………ッ!!」
まず、釘野郎の心臓を狙う。
短刀の刃先を奴の心臓付近めがけて、放つ。
しかし、その短刀は釘野郎の右手釘により防がれた。
短刀を下から押し付けて、軌道をずらされたのだ。
短刀は空を刺し、間合いは狭すぎるほどに近づいた。釘野郎の頭の釘がないから、この時点で怪我をすることはなかったけれど……。
もう一方の右手釘が僕の体に狙いを定められる。
二刀流でもない僕がもう一撃を防ぐことは不可能。避ける以外に選択肢はない。
このままなにもしなければ、僕の体に鉄パイプの穴くらいの大きな穴が開けられてしまう。
「ほら、避けねぇとこのまま突き刺すぞ~」
釘野郎がそう言って右手釘を放つ。
だが、避けない。僕はこの場から逃げない。
分かっているんだ。
武器はない?
攻撃の手段がない?
ならば、やることは1つしかないだろう。
「フンッ!!」
おもいっきり、蹴りあげる。足で蹴りあげた。(※よい子も悪い子も真似しないでください)
僕はヒーローでも英雄でもない。命が惜しい1人の男である。
宣教師らしからぬ行為であることは分かっているし、人としてもちょっとダメな攻撃なのは分かっていた。
だが、見物人やバティンを怪我させて、僕を殺そうとして来た真犯人だ。
容赦はしないし、躊躇はしない。それが僕だ。
「ハゥゥウウウウウググ!?!?!?」
釘野郎が初めて苦痛の表情を浮かべた。
頭の半分が折れた釘なので、実際の表情がどうかは分からないが、苦しそうに呻き声をあげたということは効果があったのだろう。
釘野郎の動きが止まる。
その隙に、僕は短刀を握り直す。
「人間相手はまずいけど、人外相手ならいいよね。お前はたくさんの人を傷つけた怪人なんだからな。そして、死ねぇぇぇ!!!」
立ったまま動かない釘野郎の心臓めがけて、僕は短刀を突き刺そうと……。
「ヤベッ……」
したのだがやめた。やめました。
この状況ならトドメをさせるには充分なはずなのは明らかだ。だが、やめた。
僕は突き刺そうとしていた短刀を握り、釘野郎の側から離れる。
その避難距離は数メートル。
全速力で戦闘不能な釘野郎の側から離れた。
その時である。
釘野郎の体から無数の釘が放出。
四方八方に無数の釘が発射されて突き刺さっていく。大量の槍のように地面に突き刺さっていく。
あれをくらってしまえば、バティンのように怪我をおってしまう。そうなってしまえば、釘野郎と戦うことすらできなくなる。
それはまずい。
なので慌てて、原告席の裏に逃げ込む。
「…………クッ」
頭を抱えながら原告席の裏で釘が全て落ちるのを待つ。
ダダダダと原告席にも突き刺さっていく釘達。
やまない。雨のように釘の音がやまない。
この釘の嵐の中で「バティンは無事だろうか」と心配になる。
地面に横たわって動いていなかったバティンも怪我を更におってしまっているのではないだろうか。もしかしたら死んじゃってるのではないか。
バティンのことは生きていると信じるしかない。
音がやんだ。釘が発射し尽くされた。
どうやら原告席に釘が貫通していないようだ。つかの間の安心である。あと1回くらいは防げそうだ。
「…………」
そっと、原告席に隠れながら、釘野郎の様子を伺うために顔を出す。
釘野郎はその場から動いていなかった。
奴はあの場所に立ったまま動かない。
なので、僕はゆっくりと原告席から立ち上がる。
「…………」
「…………おい、エリゴル・ヴァスター。てめぇの作戦ってのはこれのことか?」
僕が原告席から姿を見せると、釘野郎は低い声で怒りを押し殺しながら僕に対し質問を投げ掛けてきた。
作戦?
ああ、先程の蹴りのことだろうか。
「チガウヨ。あれは偶然だよ」
あれは作戦ではない。
だが、あれほど釘野郎にダメージを与えたのなら採用もありかもしれない。
あと6回くらい蹴りあげてもいいかも……。
そんなことを僕が考えていると、釘野郎は落胆したようにため息をつきつつ、僕を指差してきた。
「はぁ…………まぁ、それが嘘でも本当でもどうでもいい。俺は決めたぞ。
俺はもう依頼なんてどうでもいい。あの【青目の男】の依頼などどうでもよくなったわ」
依頼などどうでもよくなった。
まさか僕を狙う気がなくなったということだろうか。
それならば、ありがたい。このまま休戦してバティンを保護することもできる。
だが、違った。少しも釘野郎の怒りは収まってはいなかった。
「依頼は“貴様の首を綺麗な状態で持ち帰る”という物だったが、やめた。
……お前を確実に潰す。刺し潰す。貴様の身体中全てを蜂の巣のようにボコボコに穴を空けてやる。依頼なんて知るか。苦痛を与えて生きながら殺してやる。
俺は完全に怒ったぞォォォォォ!!!!!」
叫ぶ。耳を塞ぎたくなるくらいの大声で釘野郎は叫んだ。そして、釘野郎は怒りのままに叫び、僕に向かって駆け出してきたのである。
釘野郎は釘を飛ばしてこない。怒りに背を押されて、自らの手で僕を刺し殺すつもりのようだ。
だからこそ良かった。遠距離攻撃がこの作戦の一番の弱点でもあり、今の僕には対処できない攻撃であったからだ。
僕は釘野郎から逃げることなく、逆に奴に向かっていく。
このまま攻めても問題はないはずだ。
そう判断した僕は短刀を握りしめて、奴に傷をつけるために振るおうとする。
しかし、釘野郎の右手釘が僕を襲う。
釘の先の先端部を使うのではなく。胴部をバットのようにして、僕の腹部に振ってきた。
今日の朝に姉メイドから受けた攻撃のような一撃。
「ウッ……!?」
思わず声が出る。
その隙をついて左手釘の攻撃が僕の体に向けて放たれる。
これは先程の僕の蹴りあげた攻撃を行うときと同じパターン。
一撃目を捨てて、二撃目で決める。
左手釘の攻撃が体に向かって迫る。
しかし、問題はない。
僕も先程の釘野郎のように攻撃を避ければよいのだ。
迫り来る左手釘を横から短刀で押し、軌道を変える。
釘野郎の左手釘は僕の胴体をかわし、空を刺す。
そして、そのまま攻める。攻める。攻める。
僕が防御に徹しないように、攻撃に徹する。
自分の体を守ろうとはしない。
ひたすら、ただひたすら、釘野郎に一撃を与えようと攻める。
それを釘野郎はさばく。さばく。さばく。
「「死ねぇぇぇぇ!!!」」
釘野郎はどうか分からないけれど、僕は必死だった。
本当は怖い。本当は辛い。「何を寝そべっているんだバティン!! 起きて闘え」と叫びたくなる。
だけど、ここまで闘えるのは確証があるからだ。
────この時間までは絶対に生きているという確証が……。
【今回の成果】
・弱点蹴り☆が決まったけど、結局釘野郎は強すぎたよ




