14 ・マルバスと登り+ご対面
3人の無知な兵士に案内されて、マルバスがやって来たのはお城のてっぺんにある塔の中。
長々と続く螺旋階段の前に3人はマルバスを運んだのである。
「「「この先に妹様はいますよ」」」
「ああ、この先か。ご苦労」
「「「あの、それでですね……我らがサボってたことは」」」
「ああ、言わない。
でも、あんたらの勇姿は後世に語り継ぐから」
「「「後世に語り継ぐ〜〜〜!!」」」
その言葉で兵士の身体は喜びに揺れる。風に吹かれる風船のように心が沸き立っている。
まるで溶けそうなくらい全身の力が抜けてしまう3人。それはもはや出世という夢を堪能しているかのようだ。
「うわぁ…………」
マルバスも若干引き気味になりながら、何度も何度も3人の方をチラ見する。だが、何度見ても3人が追ってくる素振りはない。疑われてはいない。
「うん、それじゃ」
マルバスはとりあえず3人に別れを告げてから、長い長い螺旋階段を登り始めた。
マルバスが螺旋階段を登り始めて10分後。
「まだ……なのか?」
全速力で駆け上がっていたにも関わらず、視線の先はまだ道が続く。
日雇い侍からの傷がまだ癒えていないマルバスは、体力の限界を感じ始めていた。
「嘘ついた…………いや、あの反応からしてはないか」
足取りは次第に重くなっていく。
「くそっ。せめて3人の言うとおり、医務室に行くべきだった」
マルバスは一度その場に立ち尽くす。今、連続で足を踏み出せば、意識が朦朧として倒れてしまうところであった。
「はぁ……」
いや、彼女はもう倒れてもおかしくない状態である。倒れてしまう限界量の血はもう流しきっている。
それでも、階段を登ろうとするのは彼女の強い意志ゆえ。
だが、さすがのマルバスももうダメだった。
意識がさらに朦朧とし、体のバランスが崩れかける。
それでもマルバスは最後の力を振り絞り、足を一段前へと動かし、断末魔のように叫んだ。
「アンドロ・マリウスーーーーッ!!!!!!!!」
彼女の叫びはまたたく間に螺旋階段を巡り、その響きを聞いたマルバスはその場に崩れ落ちるように力を使い果たしていた。
────────────────
──────夢を見た。
マルバスは広大な丘の上にいる。
視線の先には見たこともない景色。丘の上からは海が見える。
「????」
マルバスが後ろを振り返ると、1人の女性が丘を降りていくのが見えた。
街に向かっているのか、いやお城に向かっているのだろう。
「なぁ、おい、そこの。あんた……」
声をかけようとするが名前が思い出せない。どこかで見覚えがある。記憶の中では知っている人物だと感じ取れる。だが、思い出せない。
誰かに似ているような気がするが。マルバスにはその女性が思い出せない。
「おい、ちょっと待って。もしかして、あなたは!!!!」
似ている。顔も年齢も違うが、マルバスの知っている誰かに似ている。
だからこそ、マルバスはその答えの人物に名を尋ねようとした。
だが……。
「────天才の僕は助言する。あれは君が関わるべき人生談じゃない。君の物語はまだ先さ」
マルバスの耳元に風にのって響く謎の声。その声にマルバスの発言はかき消された。
「誰だ!!!!」
「 」
風の音。それは幻聴だったのだろう。
マルバスはもう一度気を取り直して、謎の女性に声をかけようとする。
すると、どうやら謎の女性の周囲には3人の青年が付き添っていた。
「!?」
なんだか楽しそうに3人の青年は話をしている。
謎の女性はその3人に答えるように返事を返している。3人はまるで謎の女性の弟子のような立場であると彼女は感じた。
「なんだ。これは???」
すると、突然、頭が痛くなってくる。
視界も悪くなり、目の前が歪んで見えてくる。しかし、それでも3人のうちの1人はわかった。
姿も見た目も少し違うが、面影を感じ取れた。若かった。知っている男よりも若かった。
「父上…………なのか?」
その瞬間、マルバスの目の前が真っ暗になった。
──────────────
目が覚める。
マルバスの足はまだ立っていた。倒れ込んではいない。
「…………?」
意識がハッキリとしてくる。マルバスの視界に映り込むのは、かわいらしい部屋。
「なんだ……ここは?
オレは今、確かに。階段を登っていた。輪廻のように長き時を螺旋階段で体験したはずだ。それなのに何故オレはここにいる。階段ではない。
わからない。ここはいったいどこなんだ?」
そのかわいらしい部屋の中には1人の女の子がいた。
彼女は目を見開いて、マルバスのことを驚いている様子だ。
「誰だ? あんたは?」
「あなたこそ、どなたですか?
突然姿を現して!!!!」
お互いにお互いを知らない。女の子にしてみれば、突然マルバスが姿を現したらしい。
それを言うならマルバスにしたって、ちょっと意識を失いかけていたらいつの間にか部屋にいたという状況だ。
お互いがお互いに今の状況を整理できていない。
だが、今は状況を把握できない2人でも、その状況整理は一瞬にして交わることになる。
「─────よいか?」
マルバスでもない。女の子でもない。第三者の声。
「見よ。アンドロ・マリウスよ。うるさい娘がおったのでな。殺さずにしておいた」
マルバスを見下すどころか、意識もしない程の目つきで第三者は女の子に語る。
マルバスはその彼女が圧倒的な威圧を放っていたのを感じ取った。そして、すぐそばにいる女の子がアンドロ・マリウスであるという事を把握。
つまり、この圧倒的な威圧を放つ大物は、アンドロ・マリウスの敵である。マルバスは一瞬のうちに理解した。
「これは大物…………噂通りの怪物」
普通の強者なら、その威圧に耐えられず、身体が恐怖に震えてしまうだろう。
だが、マルバスはその威圧を感じ取っても、武器を握りしめることだけは忘れなかった。
今でもマルバスの中では生命の危機を感じ取っているので、冷や汗が流れ落ちる。
それでも心までは折れずに睨むマルバス。
そんな彼女に向かって、アンドロ・マリウスの敵は小さな笑みを浮かべた。
「────ああ、アモンの娘。貴様は相変わらず、奴に似ておるな」




