7③・青き刃+釘野郎 戦①
僕は本音を言った。僕は文句を言った。
思わず、口に出してしまった。苛立ちに身を任せて、何もかも思っている事を言ってしまった。
バティンに……その父親で国主であるこいつにも言ってしまった。「苦手だ」と言ってしまった。
「…………」
僕の発言を聞いて、彼は黙りこんでいる。怒っているのだろうか?
なにも言わなくなってしまった彼が恐い。
もちろん、すぐに謝罪するべきだったのだろう。
だが、謝罪しなければという気持ちはあったが謝罪したくなかった。
それほど、恨んでいるのかもしれない。大人げないにも程があったかもしれない。
それでも、僕は黙ったまま、国主を見つめていた。
2人がなにも言わない。
「あの……国主様?
ねぇ……エリゴル?」
なので、2人の間を取り持つような形となったのはキユリー。
無言の2人に挟まれてキユリーは不安そうに悩んでいた。どちらの味方につくべきか考えている様子であった。
だが、その両者の沈黙にも終わりが訪れる。
「…………いや~面白いよよ。君は~。
アッ、診断方法で傷つかせたのは悪かったねぇ。
あれしか方法がないとはいえ、説明もなしにはダメだったか。
しっかしね。やり返す。やり返すために助けるか……。
いいと思うよよ。私もバティンがいないと困るからね。どんな理由であろうとも助け出そうとするのはありがたい…………いや恋愛関係の理由だったら嫌だったけどね」
どうやら、ヴィネさんは怒ってはいなかった。
むしろ、笑顔であった。いや、その笑顔の裏に怒りがあるのかもしれない。見事に隠されている。本当に怒りがあるのかないのか分からない。
「…………じゃあ教えてくれるのか?」
ヴィネさんの表情を疑いつつも、僕は彼に尋ねる。
「ああ、もちろん」
すると、ヴィネさんは自身の着物の内側に手を入れ込んだ。
そして、なにかを探すように着物の内側を手で漁る。
すると、その着物の内側から白い布にくるまれた物体を取り出した。包帯のようにして白い布が巻かれている。
それは僕の肩くらいの長さの細長い物体。
そんな物をヴィネさんは僕に手渡してくれた。
「ほら、受けとりな。君のだよよ」
言われた通り、僕はヴィネさんから物を受けとる。
持ってみると、意外と重かった。鉱物の塊ように重い。
そして、それは片手でも持ちやすいように握る箇所があった。まるで短刀。普通のよりも重い短刀である。
「これって? 短刀?」
「よく分かったね。いや、分かるか。もともと君のだったんだから」
僕の短刀……?
僕はこんな短刀を手にした事がなかったはずなのだが……。
そう思いながら、僕の手は自然とその物に巻かれていた白い布をほどいていた。ヴィネさんに許可を得ることもせずに、手が先に動いていた。
そして、全ての白い布をほどきおわった後、それは輝かしい姿を表す。
白い布にくるまれた物の正体は短刀であった。
だが、ただの短刀ではない。
その刃は宝石のような鉱物によって造られており、ガラス細工と言われれば納得できるほど透き通った青色をしていた。
その大きな鉱物を尖らせて作った短刀を僕は受け取ったのである。
それはまるで芸術品のようだった。
「これってどこに?」
「これは君がマルバスによって発見された時に側にあったらしいよよ」
「なるほど…………」
ヴィネさんの証言に疑問が浮かび上がる。
僕の持ち物ではない。見たこともない。そんな短刀だ。それが僕の側に落ちていたら、気づくはずなのに……。不思議だ。いったいなぜ……。
「まぁ、いいか。いまは時間がないし……!!」
確かなことが1つだけある。
ヴィネさんにこの短刀を渡されたのだ。これを武器に使えということに決まっている。
ならば、やるべき行動は1つしかない。
「それじゃあ、ヴィネさん。キユリーのこと頼みました。僕はあいつの所へ行ってくるので!!」
「ええっ私を国主と同じ場所に置いていくんですか?」
「ああ気を付けるんだよよ~」
後ろから聞こえてきた僕を送り出す声を背に受けて、僕は元来た道を全速力で走るのであった。
釘野郎とバティンが戦っていた場所へとたどり着いた僕が見たのは、砂利の上に倒れているバティンと頭の釘を折られている釘野郎であった。
僕がヴィネと話している間にここでは激しい戦闘が行われていたということが一目で分かる。
「来たか『エリゴル・ヴァスター』。もう少し遅ければこの女も殺した後だったんだがな」
頭の部分に生えていた釘を折られている釘野郎の見た目はまだ慣れない。印象が変わったみたいだ。髪型を変えた人と出会った気分になる。
「あっ……ああ、お前か。いやーそれはよかったぜ。殺されちゃ困るんだよな」
そう言って僕は公事場から降り立つと、短刀を構える。
青き短刀の刃が美しく光輝き、より目立つ。
「ほぉ、武器を持ってきた所で何になる?
貴様は生身の人間ではないか。起動させている付喪人の俺に勝てるのか?」
釘野郎は横たわっているバティンの側から離れて、5歩ほどこちらに近付いて来た。
頭の釘を失っても、肝心の両腕釘は傷ついていないようだ。
奴にも武器があり、こちらにも武器がある状況。
つまり、不利な状況に違いないのだが……。
「ああ、勝てるね。今、とっておきの作戦を思い付いちゃったんだ」
僕はとっておきの作戦を思い付いていた。ハッタリではない。これは僕だけにしかできない。釘野郎との戦いのための作戦である。
その作戦を使い、僕が釘野郎を討ち取る!!!!
【今回の成果】
・ヴィネさんから謎の青き短刀を受け取ったよ
・釘野郎と再会したよ




