10①・石化+クロケル 戦③
────時は現在に戻り、クロケルと赤羅城の戦い。
またも姿を現さないクロケルに対して赤羅城は少々苛立ちを感じながらも、彼女の名を呼び続けた。
「出てこい。俺を憎んでるんだろう。マルコシアスの弟を殺したのは俺なんだ。わかってる殺してぇよな!!」
これはクロケルに対する挑発である。クロケルが赤羅城の何に憎悪を抱いているのかを赤羅城自身も理解はしていたのだ。だからこその挑発。
クロケルを引きずり出すための作戦である。
「────ッ!!
嗚呼、殺したい。内臓を吐き出させて叩きちぎりたい」
どこからかクロケルの声が聞こえてくる。ただ、周囲は霧で覆われているため赤羅城にはその方角がわからない。
「じゃあ来いよ。殺しに来いよ。俺は逃げも隠れもしてねぇぞ。逃げてるのはお前だ。今更復讐に怖じけずいたか」
「───あなたにはわからない。私は逃げているのではない。堪えているの。血を流したくなるほどの力を抑えているの。
実際、私はいつでもあなたを殺しに行くことはできた。でも、私はそうしなかった。その理由がわかる?」
「───正義じゃないから。殺しに行くのは正義じゃない。
私は犯罪者になってはいけないのだから。お前と同じ、仲間殺しをしてはいけない。
愛する彼を殺したお前のようにはならない。そう誓って私はずっと耐えてきた」
「正義ねぇ?」
「───彼に送る祈りは彼のように美しい物でないといけない。その祈りを破れば、彼を愛していた民は悲しむ。彼を失った民に二度と同じ想いはさせない」
クロケルがそう言うと、ようやく霧が晴れてきた。地面は湖のようになっており、向こう岸に誰かがいる。
それは少し遠い位置いたクロケルの姿だった。
どうやらクロケルは逃げも隠れもしないつもりらしい。
この湖を渡った先にクロケルがいる。
「背水の陣ってやつか?
クロケル、いいだろう。そこを選ぶのなら俺も従うさ」
赤羅城は湖に関して気に求めずに入っていく。
赤い湖はどうやら赤羅城の腰の辺りまでの高さしかないようだ。赤羅城は湖の中を歩きながら、ただひたすらにクロケルを痛めつけることだけを考えていた。
「グッギ!?」
全神経を他のことに向けていたからだろうか。それとも彼の不死身さ故だろうか。
「ガアアアアアアアアアア!!!!」
湖に腰まで使った赤羅城の体は死にたくなるほどの悲鳴をあげていた。
彼は叫びにならないほどの叫び声をあげながら、その場から動けない。
「───言い忘れてたわ。その湖、炭酸水素ナトリウムと塩分で出来てるの」
「ギャアアアアアアアアアア!!!!」
「あなた、さっき断崖絶壁から落ちたでしょ?
その時の傷口が完治していると勘違いでもしてたんじゃない?
不死身だから、痛みにも気づきにくいものよね。完治したと思いこんでたんじゃないの?」
「クロケルッ。貴様ァァァ!!!!」
「そして、あなたがもしも一度死んでくれれば、その湖の中では再生にも苦痛。おまけに高温の湖と塩分の濃度であなたの体はボロボロの死体」
「クロックロケ……ル。きさ貴様、きさ……ま!!!!」
「知ってる?
石化する湖のお話。何でも死体が石のようになるらしいわ。
って、私の話なんて聞いてる暇はないか。高温の湖じゃ体もヤバイでしょうし。まぁ、見たくはないわね」
赤羅城の体が湖に沈みかかっている。赤羅城にはもう息をする体力も残っていない。叫び疲れて喉からは血が出ている。
「────悪役には良い最後ね。無惨にも救われない死に方だわ。でも、これでいいかな。
私の戦闘は私の手を煩わさずに行うのよ」
クロケルの最後の言葉も聞こえたのかは定かではない。言葉の意味を理解する神経が壊れていたかもしれない。
赤羅城は手を伸ばして助けを求めることもしないまま、赤い湖の中に沈んでいった。




