7③・第3中庭+クロケル 戦①
霧は晴れない。
「ああああああああああ!!!!
俺らしくねぇ。霧が晴れるのを待ってるってのは性に合わねぇ」
赤羅城はとうとう、霧が晴れるのを我慢しているのが耐えられなくなった。
そこで彼は雨宿りを行っていた場所から、飛び出した。
この霧に覆われた木々の森に入ってからかなりの時間が経過している。今の赤羅城には出口がどこかもわからない。
だが、やるべきことはわかっていた。彼がなすべきこと、それはこの術を発動させた本人を叩くことだ。クロケルを死なない程に殺してやることだ。
「どこにいやがる。クロケル!!
いい加減、出てこい。臆病者め!!」
赤羅城は視界の悪い状況でも、戦闘態勢を崩さないまま、奥へと奥へと進んでいった。
その頃、術を仕掛けていたクロケル。
彼女は今、高い木の上にいた。
赤羅城の視界からは絶対に見ることができないほど高い木のてっぺんである。
「────そろそろ気づいたころ。赤羅城。
私の能力の秘密に……」
クロケルには赤羅城の行動が見えている。
赤羅城の長年の経験か、それとも勘か。彼は確実にクロケルのいる方角へと迷いながら向かってくる。
そのことに、クロケルが焦ってしまうはずがなかった。
「────怪しんではいるはず。対処はできないはず。私はね、赤羅城。
あなたの諦めている時に心をおるのではない。あなたの意識を折るために、私も待っていたの」
クロケルは待っていた。赤羅城が自分を殺そうという意思を持つのを待っていたのだ。
その意志を完膚なきまでに実力で潰し、赤羅城を屈服させ、屈辱を味わうように仕向ける。
それがクロケルの望みだったのだ。
「ここは第3中庭であって、第3中庭ではない。
ここは私が自由に扱える独壇場なんです。
────あなたの不死身が終わる場所なんです」
そして、クロケルがニヤリと不敵な笑みを浮かべると、大空を巨大な黒雲が覆い始める。入道雲よりも更に大きな雲が、赤羅城のいる地上に試練を与えようとしていた。
さて、赤羅城は走っている。なぜこの方角に向かっているのかは正直考えていない。
ただ、彼はこの場が第3中庭ではないことを薄々感じ始めていた。
「第3中庭がこんなに広いわけがない。
クロケルの能力は、おそらく空間か位置に関係する能力ってことか?
だったら、近距離じゃねぇな。どこか遠くにいるはず……」
周囲に生き物の気配はない。
これだけ走っても人の気配が感じられないので、先程まで姿に関する超能力かと思っていた赤羅城だったが、改めて考えてみるつもりのようだ。
「透明になる付喪人でもねぇ。なら、捜せるよな!!!!」
赤羅城はポジティブであった。
「第3中庭じゃねぇならよ。ここ壊しても、お嬢にゃ怒られねぇよな!!
ここはお嬢のいる場所ですらねぇ」
彼はこれまで色々と気を使っていたのだ。
この城に乗り込んで来てから、まだ1人も殺していない、まだ少しも壊していない。
その理由は、マルコシアスとの約束。
「君だけはアンドロ・マリウスの居場所を壊してはいけない。君のは救いようがないから」
……という約束を事前にしておいたからだ。
「約束は守るぜ俺はよぉ。俺は当たり前のことを行っていけるからさ」
その時、赤羅城は急ブレーキをかけたかのように走るのを止めて急停止。
そして、彼は大太刀の刃を向けて構える。
「オラァ!!!!」
彼はそう言うと、大太刀を横薙ぎに振るった。一瞬のコンマ単位、その威力のせいか否か、大太刀の刃が黒く燃える。
さて、今回、斬ったのは大木。彼の目の前で行く先を邪魔するように立っている大木。
その木を彼は一刀両断。しただけではない。その勢いは斬撃のように周囲の木々にも当たっている。つまり、一撃で半径20メートルにある木々を扇形のように斬り落としたのである。
どこか知らない場所の地形が一部禿てしまう。
もちろん、木のてっぺんにいたクロケルもその光景を見ていた。
「────なかなか。良い」
クロケルは赤羅城の腕前に少しだけ感心している。殺したいほど憎んでいても、褒めるべきところは認めている。……というわけではない。赤羅城の行動が逆に、赤羅城自身を追い詰めることに繋がっているのだから。
「────でも、分かっていないようね。木々を斬り落としたら、私が攻撃しやすくなることを」
彼を守るものは周囲にはない。彼の姿はすでに丸見えなのだ。
───赤羅城とクロケルの戦闘はすでに始まろうとしている。




