7②・第3中庭の中は+クロケル 戦①
ジャングルのように草木が生い茂り、霧が視界を遮る第3中庭。
赤羅城のことを待ち構えているクロケルはすでに霧の木々の中にいる。
「…………帰るか」
ただし、赤羅城にはクロケルと戦う理由がない。いくら戦闘狂の赤羅城でも今日ばかりは避けなければならない。
だから、戦いは始まらない。
クロケルがいくら待ち構えようが、赤羅城が戦いに向かわなければ意味がないのだ。
「我慢だ。俺はマルコシアスと約束したのだ。だから、我慢……」
赤羅城は木々に背を向けて、振り向くことなく歩き始める。
「フゥ~はぁー」
いつの間にか、赤羅城の足下は雪が積もっていた。季節外れの雪。これもクロケルの能力なのだろう。
「あっ?」
凍っている。
第3中庭と城内の廊下とが通じる扉が氷で閉ざされている。
「壊して出るか? ん?」
ふと空を見上げると、いつの間にか雪は止んでいて代わりに空が暗い雲に覆われている。
「これは、嫌な予感が」
───ゴォゴォロゴォゴォロ ドゥガァ!!!
嫌な予感は適中した。
そして、空から大きな音を立てて、落雷が赤羅城の側に落ちてきたのだ。
「にゃっ!?!?!?」
赤羅城は思わず雷を避けてしまう。雷は赤羅城の足元を黒焦げに燃やしてしまった。
雷に驚いてしまい避けた赤羅城。そんな彼を森の奥から笑う声が第3中庭に響き渡っている。
「アハハハハハハハ!!!」
「アハハハハハハハハ!!!」
「アハハハハハハハハハ!!!」
その声は全てがクロケルの笑い声。森のように生い茂った木々のどこかから赤羅城の様子を見て笑っているのである。
雷にビビる姿を見られた。
それは、赤羅城にとっては恥ずかしいことだ。雷程度にビビってしまったのを彼を死ぬほど嫌っている奴に見られた。
それは、赤羅城の我慢を解き放つには充分すぎる仕打ちであった。
「…………上等だ。もう我慢しねぇ。
お前の殺しはお預けにしなきゃだが、お前は痛い目にあってもらう。これ以上、俺の恥が晒される前によぉ!!」
赤羅城はクロケルのお望み通り、霧に覆われた木々の中へと足を踏み入れようとしていた。
庭園内にあるジャングルのような木々の中を進む赤羅城。視界はあまり良くなく、霧で方向感覚が狂わされていたが、赤羅城はひたすら歩き続けた。
「ふン、ぶん殴ってやる。ふン、ぶっ潰してやる。ふン、死なない程に加減してやる」
今の赤羅城の心の中にはクロケルへの暴力に関することしかない。
「どこにいやがるクロケル。姿を見せろよ。
俺もお前も互いを殺したいんだろ。さぁ、殺し合おうぜ」
赤羅城は庭園の中で叫ぶ。しかし、クロケルからの返答はなく、代わりに大雨が赤羅城の身に降り掛かってきた。
「ん。大雨?」
突然の大雨。赤羅城は雨に濡れる不快感を味わいながらも、雨宿りでもしようと考える。
しかし、周囲にはそれなりに雨宿りに適している木々が少ないようだ。
「はぁ」
赤羅城は雨に濡れながら、少し休める場所がないかを探すつもりらしい。
雨に濡れて泥となった土を踏みしめ、赤羅城は額に流れる雨水を拭いながら進む。
その最中、ふと周囲を見渡し、彼は愚痴をこぼした。
「しっかし。それにしてもよ。第3中庭っていうくらいだが。さすがに広すぎ」
感覚的には城内にすら入りきれないくらいの範囲である。
もうすでに中庭の端まで歩いたような気分だったが、終わりはまだ見えてこない。
城内にしては広すぎると、赤羅城は疑ってしまったが、すぐに現実と直面し、とにかく雨水を防げる場所を探そうとしていた。
どれくらい歩いただろうか。たった1人で森のような中庭の中をひたすら歩き……。
赤羅城はついに雨宿りがしやすい場所を見つけたので、その場で休息を取っていた。
「はぁ。まさかクロケルの野郎、帰っちゃったんじゃないか?」
赤羅城は孤独を味わいながら、一人で雨の降る光景を眺めている。
しばらく赤羅城が待っていると、雨は止み、濃い霧が出てきた。
「霧が濃くなってきやがったな」
赤羅城は濡れた服を脱ぎ、そして雨水を絞り落とす。
絞りきった服を全力で風に当てて、近くの枝に干す。
そして、彼は待った。霧が晴れるのをただひたすらに……。
その後、服がある程度乾いた頃、赤羅城は裸の寒さを感じ、まだ着る方がマシかな?と考えて、乾かしておいた服を着ていた。
「クロケルの野郎。何してんだ」
だが、───まだ霧が晴れず。
「数分後にはきっと姿を見せるよな」
十分後……晴れず。
「十分後には来ると思ったけど」
二十分後たったけど……まだ霧は晴れない。
「永久に姿を見せないんじゃないか? まっさか」
こうして、赤羅城は30分の間、ひたすら座り込んでいた。




