6 ・矢の群れ+復讐のバルバトス 戦③
僕とバルバトスの戦いは続いていた。
異形と化したバルバトスは自身の能力によって無数の矢を弓無しで発射してくる。
矢の群れを操る力と、放たれた矢のように素早く動く力。
すでに戦いの舞台となった礼拝堂は見るも無惨な内装と化している。
「ッ!!!」
礼拝堂内にはもう僕の盾となる物体がない。僕はただ矢を避け続けることしかできない。だが、矢を避けてもバルバトス本体からの攻撃が待っている。
バルバトスの攻撃を避けても矢の攻撃は待っている。
「危ッ!?」
間一髪だった。着地した僕の額スレスレを矢の群れが通過する。
ちょっとでも顔を起こせば、僕の頭は恐ろしいことになっていただろう。
だが、いつまでもこうしてはいられない。バルバトス本体からの攻撃が来るからだ。
「しぶとくなったなぁ!!」
バルバトスが一瞬にして移動し、僕の頭を叩き割ろうと拳を放つ。
僕はそれを察知して、転がり避け、すぐに立ち上がる。
あの矢もバルバトス本体も、どちらも止めるには本体を叩くしかない。
そこで、僕はそのまま青き短刀を握りしめて、その刃でバルバトスに攻撃を行おうと走る。
しかし、バルバトスはニヤリと変わり果てた姿で笑みを浮かべると……。
一瞬にして移動。さらにバルバトスが先程までいた位置の方角からは矢の群れ。
「囮だと!?」
罠だった。バルバトスは自身を囮にして僕に向かわせることで矢の群れと真正面にぶつけさせるつもりだったのだ。
「まずい。逃げられない」
足の向きを変えることができない。もう足は前に向いている。この2秒にも満たない時間で進路を変えるのは不可能。前に走り出すしかない。
「やるしかない。矢の群れにまっすぐ突っ切るしかない!!」
前から来る矢の群れ。対する僕。逃げられない僕。
そして、僕の姿は矢の群れの中に消えた。
矢の群れの中から現れた僕は傷だらけ。
矢を撃ち落としても撃ち落としても、他の部分が傷つく。青き短刀で矢を斬り落としても、他の矢が体に刺さる。
こうして出来た僕の体は、血で染まっていた。
「ハァ……ハァ……」
だが、それでも立てているのは修行のおかげなのかもしれない。
僕は体に刺さった矢を抜いていく。
多少痛むがしかたがない。
「ボロボロだな。弱者。
矢の群れは甘くないぜ?」
バルバトスが告げる。その言葉通りに見てみると、矢は僕の後方からこちらへと向かってきていた。
「チッ……」
「だが、矢に殺させるだけはもったいない。このオレちゃん自らの手で貴様を殺してやる!!」
そう言うと、バルバトスは僕の前方に立ちふさがった。
「前方からはオレちゃん。後方からは矢の群れ。お前はもう逃げ場も無し!!!!」
前からはバルバトス。後ろからは矢の群れ。
逃げ場を探していては刻一刻と時間が迫ってくるだけだ。
僕は今挟み撃ちにされている。
前に行っても後ろに行っても殺されてしまうのは確実だった。
だから……。
「──逃げる必要なんてない。この未来を待っていたんだ!!」
前からはバルバトス。後ろからは矢の群れ。
だったら上へと逃げればいい。
「なっ!?」
バルバトスは見上げる。
バルバトスが見上げるほど高く、僕は上へとジャンプしたのだ。
矢の群れを超える高さまでのジャンプ。それを可能にしたのは地獄の修行のおかげだった。
「このオレちゃんと矢の群れを激突させるつもりか?
おいおい、オレちゃんが矢で死ぬと思っているのなら大間違いだぜ!!」
僕は華麗に矢の群れの上をゆうゆうと避け、矢の群れが通り過ぎた場所に着地する。
一方、バルバトスは矢の群れに向かって恐れることなく、対峙するつもりのようだ。
「この矢の群れを掻い潜って、その先にいるお前を殺す。お前の寿命が数秒伸びただけ。何も変わっちゃいないのさ!!」
バルバトスは矢の群れの中を進む。それは数秒にも満たない時間。
彼の体に傷などついてはいない。一瞬の判断の遅れのせいで、矢の群れを体に受けていることになるが、彼にはまったく問題はない。
「──そうだ。変わっていない。お前の敗北は決定している。お前がその群れに飛び込んだことで、お前は死ぬんだ」
「何を?
ハッタリか。大うそつきか。ホラ吹きか。
オレちゃんが弱者に負けるわけがない。オレちゃんは正義のヒィーローだ。ヒィーローは最後に勝つ…………!?!?」
バルバトスの声が止まった。彼は矢の群れの中で自身の胸に突き刺さっているモノを見る。
矢ではない。自分の矢が刺さるほど異形と化したバルバトスの耐久は弱くはない。しかし、何かが彼の胸に突き刺さったのは確かである。
───それは青き短刀の刃だった。
「なィィ!?」
「お前と同じ方法だよ。自分を囮にしたんだ。
だが、一つ違う点があるとすれば。
囮は2つあったってことだ!!」
矢の群れがバルバトスの周囲を通り過ぎる。
現れたのは刃が胸に突き刺さったバルバトスの姿だ。
「矢の群れによって投げられた青き短刀を隠したのか。だから、矢の群れが通り過ぎた位置に立ったのか」
「───お前は狙撃手なのに、前に出すぎた。
相手が見える狙撃手なら、殺す方法はある」
バルバトスは僕に言われると、「ヘヘッ」と枯れたような笑い声をあげた。
矢の群れはすでに床に落ちている。まるで電池が切れたように矢はもう動かない。
「弱者はオレちゃんだったか……。ハハハ、壊れるのは一瞬だった。正義のヒィーロー失格だぜこれは」
バルバトスは膝を床につける。
そして、彼は崩れるように床に倒れた。バルバトスは負けたのである。




