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5 ・『十二死の子』+マルコシアスの巻

 僕エリゴルと起動バルバトスが死闘を繰り広げている最中。

城内の兵士たちに僕らを売ったマルコシアス。虹武将の“橙”の『フォルセティミス・マルコシアス』。

彼は今、ピンチな状況に巻き込まれていた。


「はぁ、何ということですか」


現在、彼は帝都グリモアールのお城内部にある大食堂という部屋にいる。

本来ならば、お城で働いている人間たちが集まって食事をする場所だ。

彼はダイニングルームか自室での食事を嗜むので、大食堂に入るのはこれが初めて。

初めての大食堂でピンチな状況に巻き込まれていたのだ。


「……神様。救いは」

「うぅ…………痛い」

「お願いです。やめて。助けてください」


兵士の部下が傷だらけになって大食堂からの助けを求めに来たのである。

だが、マルコシアスが大食堂へとたどり着いた時には、すでに遅かったのかもしれない。

床に転がっている3人の兵士がかじり傷だらけで死にかけている。

大食堂の調理室はあらされていて、食べ物が無造作にかじられて捨てられている。

その元凶は、見たこともない異形の生物。

まるで食欲。手あたり次第に喰らう怪物。


「…………違う。旨い。でも違うの」



異形の生物。それは全身が黒い塊のようで、炎のように形が定まっていない。

4足歩行っぽい生命体なのか、人間の子供なのか、無数の小さな物が寄せ集まっているのか、大きな影法師なのか。

いずれにしろ形はあんまり認知することができない。まるで感覚がバグっているかのような見た目だ。

また、そいつの目は片目が閉じてあるので1つ。そして体にはたくさんの口らしきもの。そのたくさんの口が器用に食材を食べていた。


そんな異形の怪物が、マルコシアスの前にいる。


「何物だ。害獣め」


そのマルコシアスの問いに異形の怪物は、食事をする手を止めて、答えた。


「獣害とでも言ってくれさ」


どうやら、人語がわかるらしい。マルコシアスはダメ元で声をかけてみたのだが、まさか返答が来るとは思っていなかった。


「……獣害。新種か?  魔獣(モンスター)か?」


さらにマルコシアスは尋ねる。


「いや、『十二死の子』である」


「十二死……。貴様は何をしている?」


「これから来る騒ぎに乗じて飯でも喰うつもりだった。だが、ここの奴ら、気に食わぬ事を口にしたのでな。ちょっと脅してやったのだ」


そう言うと、十二死は食材の一部を千切り分けて、マルコシアスの足下へと投げ転がす。






 結局、マルコシアスは獣が食事を終えるまで待ってあげていた。

獣は食事を終えると、ナプキンで口を拭い、手を合わせる。

そして、マルコシアスに礼を口にした。


「ありがとう。我が食を邪魔しないでくれて。

お礼にこやつらは見逃してやる。人は美味いし上手い。これからも料理を作り続けてくれ」


「……何なんだ。貴様は?」


「それを答えても、貴様にとって何になる?」


「──貴様の毛皮を売るときに必要になるからな」


「我が毛をか?

それなら、火にでもくべておくがよい。我が呪いは貴様らの夢をかじり喰らうだろうぞ」


マルコシアスと獣は戦闘へと意識を変えた。先に動き出したのはマルコシアス。

【天秤の付喪人】である彼は、その能力を発動するために告げる。


「『悪人が弱者を裁き、民が悪人を裁き、民は神によって裁かれる。神の裁きに代わり、汝、我が裁く。神にあだなす者、それすなわち罪人!!」


マルコシアスが謎の祈りを詠唱すると、獣と彼だけの空間が現れる。

生きているモノは2人のみ。ただ、暗闇に覆われた空間に一筋の光が射し込んできた。


「これは……。呑天結界(のうてんけっかい)。いや、簡易呑天空間か。狭っ苦しいことよ」


獣はこの空間状況を把握しながら、空を見る。

空からは黄金に輝く神。天秤を持った黄金に輝く神様が降臨しなされたのだ。


「これが天秤の力。こちらが天秤の付喪神の真姿。貴様はこれより。罪に対する贖罪の重さを味わう。

罪悪の重さが、貴様の1原子すらも潰すだろう!!」


マルコシアスからの説明。獣はそれを聞き、察する。

──天秤の付喪人の能力。それは相手に“これまでの罪の重さを物理的にのしかける”というものである。

罪を犯すと心に罪の意識が芽生える。〇〇を〇〇してしまった……というような罪の意思。

その罪の意識を感じた重さを今から獣は一気に受けるのである。

自分の罪による、自分の罪がゆえの処刑方法。


「『犯結(はんけつ)』!!」


そして最後に、マルコシアスの言葉と共に、獣へと罪の重さがのしかかる。

獣は自らの罪の重さによって潰されるのだ。







 だが、獣は圧死も即死もしなかった。マルコシアスが自ら空間を解除したのである。


「…………」


呑天空間も黄金の神も姿を消す。空間を解除したマルコシアスは、立っていられなくなったように、その場に膝をつけた。


「バカな。貴様……」


驚くマルコシアスを余所目に十二死の子は起き上がる。

そして、彼をフォローするかのように優しく言葉を発した。


「発動すれば確定攻撃の空間。おもしろいものでした。

ですが、“我が生涯に罪など1ヨクトもない”のです。

故に罪に押し潰されることはなく。

我が行いは全て正しい。正義だと。そう思っているのです」


なんと、十二死の子には罪という意識が存在しなかったのだ。罪のない赤子のような物。

いくら、人々を苦しめて死に追いやっていようが。いくら国々の破滅の元凶となろうが。

罪が0よりも小さければ、マルコシアスの能力は発動しない。


「そんな。ようやく、あいつの仇を。この力で、十二死を殺せると……思っていたのに」


結果、マルコシアスの戦意は喪失した。

獣はそんな彼にはもう興味もないらしい。失意となったマルコシアスに反撃するつもりはないようだ。


「それじゃあね。裁く者。

どれに仇討ちするかは知らないが。

罪なんてないから。君とは相性が悪いよ」


そう言い残すと、獣は自身の体を影に溶け込ませる

た。そして、影の中から現れたのは無数の影の形をしたネズミ。


「キィー」「チュジュー」「キィーキィー」


目だけ口だけの影ネズミが、大食堂から次々と出ていく。

まるでネズミの大進行。影ネズミたちは無事に大食堂の食材を全て食い尽くし、部屋を立ち去るつもりなのだ。

───その後も次なる餌を求め、暴食は獣害となりて、嵐のように食材を喰らうのである。

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今回の話もどうかあなたの暇潰しとして役にたちますように…。 気に入っていただけたら是非評価でもポチッと押していただけませんでしょうか。モチベーションに繋がりますので…。星1でも構いません!! ★これ以外の作品☆付喪神の力で闘う付喪人シリーズ
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