7②・ヴィネ+釘野郎 戦①
「何するんですか!!
ビックリして心臓が飛び出るかと思ったじゃないですか!!
絶叫系の乗り物は嫌いなんですよ!!」
公事場の奥から少し離れた和室の一室。
とりあえず、そこに飛び込むように逃げ込んでひとまず休憩しようと考えていたのだが。
僕を待っていたのはキユリーによるお叱りタイムであった。
キユリーからしてみれば、起きたら急に腕だけ引っ張られて飛び出されたような状況。
確かに、腕を引っ張られて宙を舞うような足がついていないのに進む状態は怖いのかもしれない。今でも顔を真っ赤にして半泣き状態である。こんなキユリー、始めて見た。
この状態をカメラに納めたい。あっ、カメラはないんだった。
…………話を戻そう。
そう言われても、振り返って思い出してみると、命が危なかったのだ。命の危険と恐怖なら恐怖の方を取るべきなはずだ。
……と僕は言い訳を行う。
「いや、でも…………咄嗟の判断だったし、命が危な……」
「それでも丁寧に扱ってくれていいでしょ!!
これでも私はお…………キユリーですよ!!
子供なんですから。丁寧に扱ってください。バカジャナイデスカ。バカジャナイデスカ」
バカジャナイデスカ。バカジャナイデスカ。バカジャナイデスカ。バカジャナイデスカ。バカジャナイデスカ。バカジャナイデスカ。バカジャナイデスカ。バカジャナイデスカ。バカジャナイデスカ。バカジャナイデスカ。バカジャナイデスカ。バカジャナイデスカ。
キユリーの言葉が僕の頭を巡る。
グルグルグルグルと本当は一回しか言っていないはずなのに、それが何回も僕の頭の中で木霊して聞こえてくるのだ。
だが、その頭の中に響いていた木霊も、外部からの発言を耳にしたお陰で解消される。
「おやおや、無事だったんだね。安心したよよ」
キユリーではない誰かの声。
振り返るとそこにいたのは『ヴィネ・ゴエティーア』。バティンとマルバスの父親であり、この国の国主である不思議な男だ。
「ああ、あんたか……」
だが、僕はこいつが苦手だ。嫌いな奴ではない苦手な男だ。初対面での雰囲気から印象への落差が激しく、最初のように話せない。
「安心しなよよ。見物人たちはだいたい城内の一室に避難させてきた。怪我人もいたけど、死人はいないよよ。けどねぇ~何人か。人数が合わないの。だからここらを探しに歩いていたんだ。君たち見てないかい?」
「「いいえ、知りません」」
そう言いながら、僕とキユリーは首を横に振る。
「そうかいそうかい……まったく厄介な奴に目をつけられたね。あれは“付喪人”だよよ。物に霊が宿った存在と契約し、その力を操る。妖術使いみたいなもんさ。
だけど、あれはなかなか強者だね。肉体まで変貌させるのは……もう人外よりの人というよりは怪人だね」
そう言って手を振りながら、僕たちの前から立ち去ろうとするヴィネさん。
そんな彼ならこの状況をなんとかしてくれるかもしれない。
なぜだか分からないけれど、僕はこのときにそう思ってしまった。なので、助けを求めるようにヴィネさんを呼び止める。
「なぁ、国主さん。バティンが釘野郎と戦ってるんだ。なんとかしてあげられないかな?」
「ふむふむ~どうしてだい?
どうして死罪に嵌めようとした相手を君が助けようと思うのかな?」
僕を殺そうとした相手を僕は助けようとしている。
その理由がヴィネには理解できないようだ。
自分の娘ではあるが、そんな娘に恨みを持っている男が娘を助け出そうとしているのか。気になっているようだった。
どうやら、ヴィネさんには僕がそんなちゃちい存在に見えているらしい。
恨みだって?
僕はもう高校を卒業するくらいの年なんだ。
もう社会に出てもよかったくらいの年齢なのだ。
それなのに、他者を恨むなんて……。それほど僕の心は病んではいない。
もう裁判が終わった時から決めていたことだ。
あいつがマルバスを人質に取られていたのだから。仕方がないことである。
僕はもう大人に近いのだ。過去をいつまでも引きずるような性格ではない。
バティンとの関係は裁判を終えた時にすでに…………。
『このクズのためじゃない』
その時、僕の思考を邪魔する記憶が甦ってきた。先程のバティンが釘野郎に向けて話していた会話を思い出した。裁判が終わっても僕の事を心の底から嫌っていたバティン。
『このゴミの首を欲しいなら遠慮なく持っていけ』
『私としては邪魔物がいない方が大助かりだ』
揺らぐ。決心が揺らぐ。僕はすでに決めているんだ。何を言うべきか理解しているんだ。すでに………………。
「それは決まってるだろ。僕をあれだけ苦しめてくれたんだ。そのお返しをしなきゃ気がすまない。止めないでよ親父さん。あんたがああ言って公平・平等に指摘したが、今思えば納得いかない。あんたには僕の血をベロベロと舐められた心の傷だってある。僕はあんたら2人のことが苦手だよ。
だから、まずはあの女にやり返すんだ。
僕がその恨みを晴らさなきゃ意味がないんだよ」
───大人げないかもしれない。
だけど、僕の心にはまだバティンへの怨念は根深く残っていたのである。
【今回の成果】
・キユリーに怒られたよ
・国主ヴィネから付喪人の説明を聞いたよ
・戦う決意が決まったよ




