3②・修行の経験者+復讐のバルバトス 戦①
バルバトスの放った数多くの矢が僕の心臓めがけて突き刺さる。
僕の胸部は的だ。バルバトスの放った矢は本来の標的に突き刺さったのだ。
数十本の矢を受けた僕の体は立っていられなくなり、講壇の方へ吹き飛ばされた。
そして、講壇が壊れる音が礼拝堂に響く。
「講壇を死体で汚したのは罪深いが。オレちゃんは既に地獄に落ちる程の罰を受けている」
バルバトスはこれでようやく恨みを晴らすことができたのだ。
「弱者は弱者のまま。勝者は勝者のまま。それがこの戦場のルールだぜ」
バルバトスは最後に、死体である僕に向かってそう告げる。その後、恨みを晴らしてスッキリした彼は礼拝堂から出ていこうと歩き始めるのだが……。
「なるほど……」
ここで僕がやられるわけがない。
僕はバラバラに壊れた講壇の中から、破片を払って立ち上がる。
バルバトスは僕が生きていることに驚いたようで、すぐさま振り返って僕を見てきた。
「馬鹿な。最大級の攻撃だぞ。あらゆる化け物を惨殺してきたオレちゃんの嵐のような攻撃だぞ」
バルバトスが驚きながらも、再び一本の矢を僕に向かって放ってくる。
しかし、僕は手に持っていた青き短刀で矢を撃ち落とした。
「あんたの実力。こんな感じだったのか。すごいな。あんまり痛くない。
それほど僕が本当に成長していたとは」
「成長だと?」
「ああ、あんたが僕を恨んでいる間。僕は修行していたんだよ。
───地獄の修行。ベリアルによる死に近い修行だ」
「ベリアルの修行?
まさか、お前。アガレスも行っていたというあの地獄の修行を?」
「知ってるの?
あの十の修行を」
「十だと!?
オレちゃんらでも5つだったのに」
どうやらベリアルの修行には元があり、またベリアル作の修行が5つあったらしい。
バルバトスの話が正しいのなら、虹武将の修行メニューの2倍を僕は受けきったということになる。
「虹武将の2倍の量だったのか……。
虹武将より強くなれるようにか。それほど底辺からのスタートだったのか。
十の修行についてはどっちなんだろうな〜」
「あり得ない。地獄の修行を受けただと。弱者である貴様が。弱者の分際で生き延びたなんて!!!!」
バルバトスは再び、僕に向かって数本の矢を放つが、彼は動揺しているようで矢は普通の矢だった。
なので、僕は再び矢を切り落とす。
「───さて、バルバトス。反撃をしてみろだっけか?
じゃあ、次はこっちから行くぜ。ベリアルの十の修行の成果、見せつけてやる!!!!」
修行の成果。ベリアルによる毎日死にかけるほどの高難易度の修行。
それを受けて今日まで生き抜いてきた僕には力がついていた。
「行くぞ。バルバトス!!!!」
僕は青き短刀を握りしめて、構えを取る。
バルバトスは僕から一時的に距離を取り、そこから攻撃を始めるつもりのようだ。
「修行がどうした。だったらもう一度。くらわせるだけだぜ!!!」
バルバトスは再び先程の攻撃を始める。
縦横無尽になって四方八方に矢を放つ。
放たれた矢は僕を倒すためだけに飛び交い、避けても追尾してくる。
避けても防いでも、矢は次から次とに飛んでくる。
「…………」
僕は眉間に突き刺さろうとしてきた矢を青き短刀を振って撃ち落とした。
真っ二つになった矢は床に落ち、もう飛んでくることはない。
それを確かめればこっちのものだ。
真っ二つになった矢が向かってこないことがわかったのなら、後は矢を全て撃ち落としてしまえばいい。
「ほら、ほらほらほらほらほら!!!!!」
前方後方上下から飛んでくる矢を全て斬り落としていく。
その行動はもう過去の僕とは違っていた。修行の前では絶対にできる新技ではなかった。
修行の成果は確実に身についていたのだ。
そして、数分後……。
「…………ハァ、ハァ。どうだバルバトス。お前の攻撃は通用しなくなっちゃったんだよ」
飛んでいる矢は全て斬り落とした。バルバトスはいつの間にか矢を放つ手を止めて、信じられないといった顔で僕を見てくる。
「この短期間で馬鹿な。オレちゃんに並ぶだと!?」
「さて、僕がさっき言ったこと覚えているよな?」
「ハッ!?」
その言葉に危機感を覚えたバルバトスは矢を放とうとする。
だが、そのスビードよりも速く、僕は既にバルバトスに攻撃を仕掛けていた。
僕の拳がバルバトスの腹部にぶち当たったのである。
「ゴッグッ!?!?」
強烈な腹パンをくらったバルバトスの体は前のめりになる。
そして、彼の顔が上がった瞬間。
「グッ!?!?」
僕の蹴りがバルバトスの体を上へと突き上げる。
バルバトスの体は一瞬、宙を舞っていたのだが、それだけで攻撃が終わることはない。
僕は次に、バルバトスの体を何度も拳でぶん殴っていく。
だが、さすがは虹武将。
バルバトスは殴られながらも数発の攻撃は防いでいた。
「狙撃だけだと思ったか?
ナメるなよ弱者が!!!」
お互いの拳がお互いにぶち当たる。武器など使用しない。純粋な殴り合い。
しかし、戦いの傷が癒えていないのか、僕が強くなったのか。
バルバトスは多少の攻撃を体に受けている。
そして、遂にバルバトスに隙が生まれた。
こうして、バルバトスが焦ってしまった瞬間。
「しまっ……グッゥ!?!?」
僕の拳が彼の顔面にぶち当たったのだ。
今度はバルバトスが後方へとぶん殴られて飛んでいく。そして、バルバトスの体は礼拝堂の奥にあった扉に激突。
扉を半壊させて、彼は床に座り込むように倒れた。
「グゥぅぅ。弱者のくせに。弱者のくせにィィィィ」
僕のことを睨みつけながら、憎たらしく恨み言を吐いてくるバルバトス。
バルバトスはゆっくりと立ち上がり、再び戦闘態勢に移ろうとする。
だが、僕はこれ以上彼を痛めつけるつもりはない。
「───ここまでだ。僕は帝国を滅ぼすつもりはない。アンドロ・マリウスちゃんを救い出せば、あとはもう手を引くつもりだ」
もう恨みは晴らした。リベンジは果たした。これ以上戦ってもバルバトスに勝ち目がない。
だから、僕は彼の命を奪う気などない。
「貴様、このオレちゃんを見逃すのか?」
「じゃあな。もう二度と会うことはない」
そう言って、僕は礼拝堂を後にしようとする。
だが、バルバトスは納得がいかなかったようだ。
「このオレちゃんのプライドをズタボロにしといて。許されると思うか?
オレちゃんはまだ本気を出していない」
バルバトスはそう言って立ち上がる。しかし、もう既に彼の心と体はズタボロ。とても僕に立ち向かえる様子は伺えない。
「もうやめとけって。これは勝負じゃないんだ」
「やってやる。オレちゃんは正義のヒィーロー。例え、他魂に自を売ろうとも」
「お前、何をする気だ!?」
嫌な予感がする。バルバトスは自分から禁忌に足を踏み入れるような気がする。
そして、それは的中した。彼は発したのだ。その言葉を……。
「───『“起動”』」




