3①・エリゴルの巻+復讐のバルバトス 戦①
さて、お城に侵入したマルバスと赤羅城と僕は3方向に分かれて敵を撹乱する作戦に出た。
そして、今、侵入者である僕は城内にある礼拝室にいるようだった。
「変な所に来ちゃったかもしれないな〜」
昔、訪れたルイトボルト教の教会みたいな雰囲気を感じる。
本来なら、この部屋を散策する時間ももったいないくらいだ。でも、僕は少々探索したくなってしまい、礼拝堂へと足を踏み入れた。
「まぁ、少しくらいならいいか」
いつか、お城の中を自由に歩き回ってみたい。
そんな考えを持ったこともあるので、正直お城に入れたのは嬉しい気持ちだ。
まぁ、侵入者として追いかけ回されていなければ、気分としてはもっと堪能できたのかもしれない。
ただ、侵入者として以外でこの城に入る理由もなかったから、考えてもしょうがない話だ。
「おいおい、呑気なもんだな」
さて、言われたように呑気に礼拝堂を眺めていた僕に何者かが声をかけてきた。
「何者だ!?」
おそらく、侵入者である僕に対する刺客か兵士だと思う。
僕は声のする方へと視線を向けてみた。
僕の視線の先にいたのはおそらく男。
顔がわからないのはその顔は包帯でグルグル巻きのミイラみたいにされていたからだ。
その頭に巻かれた包帯からは2つの瞳と口、そして赤茶色の髪の毛を見ることができる。
「よぉ、久しぶりだな。会えるのを楽しみにしていたぞ」
男は僕のことを知っているらしい。だが、僕の知り合いに包帯だらけの男はいないはずだ。声で判断しようと思ったが声も聞き覚えがない。
「誰だ。お前は!!
その顔じゃわかんねぇよ」
「はぁ、この顔は貴様らのせいでこうなったんだぜ!!!
忘れたとは言わせない。貴様らに与えられた屈辱。オレちゃんは忘れたくても忘れられねぇ」
どうやら男の正体は僕の敵だったようだ。
それなら、別に名前を思い出さなくても今後困ることがなさそうなので、一安心だ。
「敵なのか。わからないけど。僕に恨みがあるのか?」
「貴様らのせいでオレちゃんは、オレちゃんは。美女受けの美しい顔を!!!!
この罪は重い。貴様だけは地獄行きだ!!!」
男は先手必勝とでも言うように、手に持っていた武器を構える。
僕との対話をするつもりもないらしい。
「死ね。その心臓を射よ!!」
男が手に持っていた武器は弓矢。男が弓を放つと、矢は不可思議な軌道で中を飛んでいる。
矢がまっすぐ飛ばずに僕の胸を確実に刺殺しに来れるように、僕の目では追いつけないくらいの軌道で飛んでいる。
その光景を見て、思い出した。その男の正体に……。
「お前、もしかして」
「驚いたか。気づかなかったか。オレちゃんは今、貴様への恨みで生きている。
オレちゃんは正義のヒィーロー『虹武将“緑”。追跡の『アルテリオン・バルバトス』』だ」
その名前は僕も覚えている。つい最近、聞いた名前だ。
帝都から脱出する馬車内でアンドロ・マリウスと僕が戦った相手だ。
アンドロ・マリウスちゃんを連れ去ろうとして嘘をついたが失敗。アンドロ・マリウスちゃんにぶん殴られて馬車から転落した。頭から落ちていった。
どんな方角に射っても標的に向かって矢を飛ばせる【弓の付喪人】……。
そして、僕が現実を突きつけられて、心が折れかけてしまうキッカケの敵である。
お互いに恨みがある相手だ。
この帝都で出会い、僕は心も体もボコボコにされ、バルバトスは格下に足元を掬われた。
だから、バルバトスとして僕はすぐにでも殺したい相手なのだろう。
「さぁ、もっと放つからな。踊れよ弱者!!!」
バルバトスが先程発射した矢は僕の胸へと飛んでくる。
避けようとしても僕の体を追尾するように矢は飛び交っている。
先程からバルバトスは一心不乱になりながら、矢を四方八方に放っている。
その矢は全て僕を殺すために放たれた追尾してくる矢だ。
「なんて数だ!!」
僕は罰当たりになるかもしれないと思いながらも、礼拝堂に置いてある物で飛んでくる矢を防ぐ。
だが、それで防げるのも1発だけ。1発防いでも他の矢がその防御に対応した動きを見せてくる。
まるで全方向から一斉射撃をくらっているかのようだ。
「バルバトス。お前!!!!」
僕はバルバトスに対して文句の一つでも吐いてやりたかったが、何を言うか考える暇を作れない。
飛び交う矢。追尾してくる矢。逃げるしかない自分。
「あはははは、おいおい弱者。やっぱりお前は弱者だな。
逃げろ逃げろ。反撃してみろ反撃してみろ。手を尽くせば尽くすほど、オレちゃんの矢は策を探し、より正確になる」
バルバトスは無反撃な僕を嘲笑う。僕はまっさきに彼をぶん殴ってやりたくなったが、行く手を矢が阻んでくる。
バルバトスをどうにかしないと矢は止まらず、矢をどうにかしないとバルバトスに届かない。
でも、避けながらじゃどうにもできない。
そんな僕をバルバトスは見下しているようだった。
「ここは弾丸飛び交う戦場だ。
戦場に貴様のような無価値で生ぬるい奴はいらねぇ。
この礼拝堂で、神に見放されながら死んでいけ!!!」
その言葉に僕は意識を向けずにはいられなかった。まるで世界が一瞬スローモーションになったかのようだ。
───無価値?
それは違う。今の僕はマルバスに認められ……。
油断してしまった。僕は失敗した。
彼の言葉を聞いてしまったせいだ。矢に注意を払わなかった。
「!?!?」
矢は僕の胸に突き刺さる。
そして、1本突き刺さってしまえば、他のもどんどんやって来る。
「やった。ついに突き刺さったな。
念願が勝った。オレちゃんは勝った」
バルバトスは自身の勝利を確信した。バルバトスには自身の勝利が目に浮かんでいたのだ。




