1①・少しはマシな楽しい時間+アンドロ・マリウス談
私は『アンドロ・マリウス』。
「囚われの姫というより監禁じゃないのこれ!!!」
私は今、帰ってきたくもなかった我が故郷の家に囚われている。
私はかつて兄殺しの濡れ衣を着せられて、国外追放を命じられた王家の娘。
誰もが私を信じてくれず、誰もが私を認めてくれなかった。
このお城はほんとうに嫌いな場所である。
「しかも、なんで外にもでちゃダメなの?
買った荷物とかいっぱいあるんだけどーー」
私は込み上げてくる苛立ちを見張りの兵士にぶつける。
「そう言われましても。我らへの帝王様からのご命令なのです。我慢してくださいお嬢様。“戴冠の儀”には出してやると帝王様もおっしゃっていますし」
兵士は私を宥めながら、困った表情を浮かべた。
そりゃそうだ。我が姉『バラム・アーネモネ・レメゲト』から私の話は聞いているのだろう。
私の見張りをしている兵士としてはしかたがなく仕事をしているという感じのはずだ。この国のみんなは帝王様に逆らえないから。
「ねぇー。バラムは私に何のようなの?
あいつ、私を拐ってから一向に顔を見せないじゃない」
「お嬢様ーー。帝王様にそのような事を仰ってはなりませぬよ」
ああ、つまらない。兵士と会話をするのもつまらない。
もう自力で脱走してやろうか。そんな非現実的な考えを抱いてしまう。
助けに期待する弱い私ではいられない。ほんとうなら自力で脱走するべきなのだろう。
だけど、流石に何の準備もすることができずに脱走は難しい。
このお城には帝王直属の配下である虹武将たちがいる。
「はぁ、あいつから王座と聖剣を奪わないと……あいつが載冠の儀の日に何をするかわからないからな〜。下手したら私の処刑日かもしれないし」
────“戴冠の儀”の開催日は明日である。
明日になったらこの監禁生活からも解放される。
ならば、せめて、載冠の儀の直前に逃げ出そう。私がその儀式のために呼ばれたのなら、それを裏切ってやりたい。せめて、あの女に一泡吹かせてやりたい。
さて、今日も虹武将が私の食事を持って、この部屋にやって来る。
「『アンドロ・マリウス・レメゲド』様。お休みのところ失礼します。お食事をお持ちしました……なんてね☆」
「その声は!!!」
今日、私の投獄部屋にやって来た虹武将は私がまだ心を許せる人物だ。
彼女は新人さんで、この私の過去を知らず、お金で雇われただけの日雇い。
その人物は紅のように朱色と瑠璃色の流れる川のような絵柄の和服を羽織り、袴は薄い桃色。
髪は白色で長くポニーテール。その瞳は紅色。
とても紅色が似合いそうな女性である。年は成人して数年経ったくらいに見える。
それが私が虹武将の中でまだマシな人だと思っている娘。彼女は名を『日雇い侍』と名乗っている。
「会いたかったわ。日雇い侍さんーー。4日ぶり?」
「私
あたしもあたしも。
さぁ、お嬢さん。お食事を持ってきましたよ。今回はシェフの高級料理“パルポテリア”」
「えーー」
「ってのはあたしが食べちゃった。だから、帝都の外に売ってあった“ペルシウムポテリア”よ〜。
バレんように一緒に食べよー」
「嘘!?
あの例の店、帝国にも出店してたの!?
一回、行ってみたかったんよ!!」
日雇い侍は私にとって窮屈を押し付けてこないちょっとした友人的な立ち位置になっている。
虹武将の中には彼女以外にも『クロケル』と『ウヴァル』という女はいるが、どっちも気が合わない。
『ウヴァル』は研究熱心過ぎて、何かの薬品を混ぜた食事を持ってくる。友達なのを共用してくるのも何だか嫌だ。
『クロケル』はお互いに関わりたくないせいなのか、睨んでくる目つきがちょっと怖い。
つまり、女の知り合いで帝都でまだマシなやつは日雇い侍しかいないのだ。
「ほんとよかったわ。こんな美味しいものを持ってきてくれてうれしい。ありがと日雇い侍さま」
「フフ、これからも色々なのを買ってきてあげるんだから。まだまだこれからよ☆」
日雇い侍は知らないのだ。私が何故みんなに嫌われているのも、私が処刑されるかもしれないのも。
「無理ですよ…………わたしにはもう時間がないんです。私、兄殺しの濡れ衣を着せられてはいますし、今では王座と聖剣を奪いに来たんです。おそらく私は帝王に処刑されるんじゃないですかね?」
「ほんとに?
あの帝王があなたを殺すつもりなの?
帝王にとっては実の妹なんでしょ?」
「昔からあいつはいつも私のことを嫌っていましたし。
いいんです。あいつは血族、私は娘であり他人のような物。
いずれは殺されることくらい分かってたのです」
「まだ、確かめてないじゃない。出会ってきちんと話し合いすらしてないんじゃないの?
だって、姉妹なんでしょ?」
「日雇い侍さんにはわからないだろうけどね。私たちはそういう仲じゃないの。分かり合うなんてできないの。
ただ、日雇い侍さま。私のことを心配してくれてありがとうね」
私がそう言い返すと日雇い侍は黙ってしまった。
「───さて、せっかくの2人なんだし話題を変えますか」
その後は空気が重くなってしまったので、私の方から色々な話をねだって話させた。
日雇い侍の冒険譚。さらに彼女が目指す竜との闘いへの想い。
そんな話を私は彼女から聞く。
「ねぇ、もっと聞かせて?」
「もちろん、この日雇い侍に任せなさい☆」
ああ、この2人きりの時間が止まってしまえばいいのに。




