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7①・『釘野郎』+釘野郎 戦①

 頭の半分が1本の大きな釘でできた釘野郎。

両腕から生えた大きな2本の釘は地面に向かって腕を下げられている。


「………………ッ」


そんな異様な姿を見た。

僕は被告席に隠れながら、奴にバレないように周囲の様子も伺う。

すると、見物人たちが痛そうに呻き声をあげながら地面に横たわっていた。

彼らの体には飛び散った小さな釘が突き刺さっているため、出血している者も多い。

これは僕のせいだ。奴が僕の首を狙っているせいで被害者が多発した。

もう、勝訴を喜ぶムードにはなれない。

せっかく、キユリーと僕の死罪無効を喜んでいたというのに台無しだ。

そういえば、キユリーは大丈夫だろうか?

そう思って側で隠れているキユリーを見る。

すると、キユリーは無事に怪我も負ってはいないようだが、キユリーは何も言わずに震えていた。

その時である。釘野郎は周囲を見渡すと、僕を探して声をあげた。


「おい、『エリゴル・ヴァスター』。隠れてないで出てこいよ。どうせ、生きてるんだろ?」


そう言いながら、怪我を負っていた見物人を蹴る。


「早く出てこいよ。お前の隠れているという幸せな時間に、他者は不幸を感じるんだぜ!!」


そう言ってさらに他の見物人を蹴飛ばす。

怪我を負っているのは一目瞭然なのに、何も悪いことをしていない見物人たちが傷つけられていく。狙いは僕なのに、僕以外の関係のない人々を傷つけておびき寄せようとしている。罠なのは分かりきったこと。それでも、関係のない人々を傷つけるのは許せない。


「野ろ……!!」


被害席から立ち上がろうとする。釘野郎のお望み通り、奴の前に現れてやろうと考えたのだ。

しかし、立ち上がろうとするその動きは止まった。キユリーに手を捕まれたのだ。


「…………行っちゃダメです!!」


「なんで、このままじゃみんなが……!!」


「これは罠です」


「それは知ってる。でも!!」


キユリーの腕を振りほどき、僕は被告席から立ち上がろうと足を立たせた。おそらく頭が被害席から出ているのが釘野郎にも見えたのだろう。

しかし、キユリーが全体重を使って僕が立ち上がろうとするのを阻止した。首根っこを捕まれて押し戻されたのだ。

僕は再び被告席へと逆戻り。尻餅をついたようにして転ぶ。


「イテテッ…………なにするんだ!!」


今回ばかりは本気でキユリーを叱るつもりだった。

だが、それは間違いであった。


「……!?」


僕の頭上を3本の釘が通過し、庭に映えていた木に突き刺さる。

そこはちょうど僕が被告席から頭を出そうとしていた位置と一致した。

もしも、キユリーの忠告を聞かずに飛び出していたら、あの木と同じように僕の脳天に釘が突き刺さっていたかもしれない。




 結局、キユリーに救われた僕はそのまま被告席の裏に隠れることにした。

釘野郎が釘を飛ばしてくるのなら、下手にここから飛び出せない。キユリーのお陰で一度命が助かったのはありがたい。感謝してもしきれない。

しかし、厄介なことに僕の不注意で居場所がバレた。


「あーあー、バレちまった。あと少しだったんだが。もしかして一緒に誰かがいるのか?

だったら…………」


だったら?

だったらどうするというのだろうか。

釘野郎が僕のいる位置を知っている。なら、直接襲いに来るか?

それとも、釘を飛ばしてくるか?

どちらにしても、キユリーだけは守らなければならない。僕は必死に息を殺す。

釘野郎の足音を注意深く聞くためだ。


「…………?」


すると、ダッという音が水滴のように連続して聞こえてきた。

被告席に隠れながら響いてきた音。

被告席を音が伝わるように聞こえる。

これは…………と思ったその時であった。

何かがチクッと僕の腕に当たる。

被告席を貫通するように被告席の裏で寄りかかっていた僕の腕に刺のような物が当たる。


「ああ、そういうこと」


理解した。僕はとっさに被告席側に寄せていた体を起こし、そこから離れる。

もちろん、キユリーもそこから連れ出して、僕は公事場方面へと駆け出した。

その瞬間、釘が被告席を貫通する。僕たちが先程まで隠れていた被告席は蜂の巣のように穴が開き、破損してしまっていた。

釘だ。釘野郎が遠距離から飛ばしてきた釘がついに被告席を破壊したのだ。

間一髪である。もう少しあの場に長居していたら怪我をしていた。おそらくそれが釘野郎の狙いだったのだ。


「いや、ちょっと待って。釘野郎はどこです?」


だが、キユリーは釘が飛んできた方向を見てこう叫んだ。

釘野郎はどこです……?なんてまるで釘野郎がその場にいないみたいに聞こえる。

それでも、キユリーの発言を耳にしても僕はキユリーを連れて安全な場所へ走り出す最中であった。急には止まれない。

だから、目では追えていても、体が言うことを聞いて方向転換できるわけではなかった。

キユリーの手を引きながら走る僕の隣には瞬間移動でもする速さで現れる釘野郎。

奴の狙いは僕だ。

なら、やるべきことは1つしかない。


「…………えッ!?」


驚くキユリー。

僕はキユリーの手を引いていたが、キユリーを押し飛ばしたのだ。

なるべく自分から離れた距離へ。怪我をしてしまうかもしれないが僕に巻き込まれてキユリーも死んでしまってほしくない。

シトリーの時と同じように、僕はキユリーを突き飛ばす。

これで距離はキユリーと僕の遠退いた。

奴はその右手に生えていた鉄パイプほどの巨大な釘を僕の胴体めがけて突き刺そうと…………!!!




 ガキッ……!!

僕の体は何かに押し飛ばされた。

キユリーではない。あいつは僕が押し飛ばしているから、僕の近くにいるはずがない。ならば釘野郎か?

いや、こいつがそんなミスを起こすわけがない。僕の命を狙っている奴が自分の近くから僕を押し飛ばすわけがない。

なら、誰が?

そんな疑問を思いながら砂利の上を転がる。

キユリーもゴロゴロと転がる。2人でゴロゴロごろごろ。

皮膚が磨り減りそうな思いをしたが、どうやら怪我は負わなかったらしい。


「イテテ……」


それでも痛いものは痛かった。

だが、すぐに痛みを無視して、釘野郎のいる位置を確認する。

すると、そこには釘野郎ともう1人の女性が立っていた。


「おいおい、妹さんよぉ。死罪を失敗させる所か。邪魔までするのかよ?

これはもう…………分かってるんだよなぁ?」


「…………姉様のためになりたい。それが私の人生の生きる意味だ。

姉様のために動き。姉様のために働き。姉様のために暗躍し。姉様のために指揮し。姉様のために出陣し。姉様のために守護し。姉様のために殺し。姉様のために裏切り。姉様のために教育し。姉様のために活動する。

それが私だ…………」


釘野郎に面と向かっているのは『バティン・ゴエティーア』だ。

彼女は刀を構えて、釘野郎の右手の釘を押さえつけている。

だが、彼女自身が体力的にもギリギリの状態らしく。彼女の右足には数本の釘が突き刺さり、血が流れ落ちていた。だから、足に思うように力が入らず、腕の力だけで釘野郎の両腕釘を押さえつけている。


「…………だから!!!!

だから、姉様の迷惑にはなれない。姉様の顔に泥を塗るわけにはいかない。“このクズのためじゃない”。あとで、“このゴミの首を欲しいなら遠慮なく持っていけ”。“私としては邪魔物がいない方が大助かりだ”。

だが、自国の民である見物人たちを傷つけたのは許せない。いずれは彼らも姉様の国の民だ。

ここまで自国の民を傷つけられて、何もし返さないわけにはいかないんだ!!!!」


そう言って、バティンは釘野郎の両腕釘から刀を離すと、そのまま斜め下に向かって振り下ろした。

釘野郎が両腕釘の自由を確認するよりも、釘野郎が避けようと体を動かすよりも速く。

釘野郎は斜めに斬られていた。


「……グゥヌゥ!?」


傷をつけられたことに驚きつつも、釘野郎は2擊目をくらうことがなく。そのままバティンから距離を取った。数歩下がった。

その隙を見逃させるわけにはいかない。

僕は急いで起き上がり、キユリーの手を再び握ると、全速力で走り出す。


「…………」


「…………」


その際にバティンと目があったが、何も会話をせずにそのまま走る。先程の台詞に僕は文句を言ってやろうとも考えたが、いまはキユリーの身が大事だ。

寝そべったままのキユリーを腕だけ引っ張り、公事場の奥へと向かって走る。


「うわうわ?うわうわ!うわうわ?うわうわ!?」


足に地面もつけずに腕を引っ張られて凧のように宙に浮かぶキユリー。キユリーはもう何がなんだか分かっていない。目覚めた時にはすでに引っ張られていたらしい。

僕とキユリーは釘野郎とバティンの前から颯爽と逃げ出し、その場には2人だけが残ってしまった。

【今回の成果】


・釘野郎はエリゴルの命を狙っていたよ


・バティンに任せてキユリーと逃げ出したよ

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今回の話もどうかあなたの暇潰しとして役にたちますように…。 気に入っていただけたら是非評価でもポチッと押していただけませんでしょうか。モチベーションに繋がりますので…。星1でも構いません!! ★これ以外の作品☆付喪神の力で闘う付喪人シリーズ
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