16 ②・再会のシーン+運命力
こうして、シャックスと別れた。森の中へと消えていくシャックス。僕は彼のおかげで少しだけ自分に自信がついたのは真実だ。問題は何も解決していないけれど、僕は少し心を落ち着かせることができたのだ。
これまでの経験、それが僕の自信に変わる。
たしかに、虹武将は強い。僕の想像していた以上に強く、力の差もかけ離れていたかもしれない。
だが、彼らとは違う。彼らは1人でも強い。僕は1人では弱い。
でも、仲間がいる。
「…………」
そんな事を考えていると、どうやらフレンドちゃんには僕の心の中が読めているようだ。
「ちぇっ、失敗か。
周囲の運命を動かす運命力……。そんな奴が天下でも取っちゃうのかな~」
「フレンドちゃん。ありがとうね」
「は? 私は別に良いことなんてしてませんけど?」
「逃げようってさ。僕を心配してくれての本心だろ?
手を差し伸べてくれたしね。君の言い分は正しいから。たしかに打倒魔王国という目的に帝国は関係ないけど。僕は逃げないよ」
「ええ、そーですね。そーですよ。でも、この手は取らないんですよね?」
「うん。ちょっとだけうまくいきそうな気がしてきたんだ。感じるんだよ。未来予知じゃないけれど、感じるんだ」
「大した自信だこと。それが破滅に向かってるとしてもですか?」
「ああ、ここで逃げたら今後の人生が後悔する。責任は取らなきゃいけない。行動しなきゃ運命は動かないだろうしね」
「イイデスヨーイイデスヨー。フレンドが元気を取り戻したのならイイデスヨー。いずれ逃げたくなった時にまた差し伸べてあげますから」
フレンドちゃんはそう言って不貞腐れながら、僕の前から立ち去っていく。
その背中を見送りながら僕はフレンドちゃんに向けて感謝の意を向けるのであった。
利用価値がある。利用できる存在であると言われたのが嬉しかった。
僕がこの大陸に来て、強い能力も知恵も力もない。あるのは青い短刀と未来予知の能力だけ。それでも、こんな僕でも利用できるほどの価値があった。
「でも、ほんとうにどうしよう。僕1人じゃほんとうに何もできないけど。アンドロ・マリウスちゃんを救い出さないと……」
アンドロ・マリウスちゃんが生きているかはわからない。でも、生きていると信じて救い出しにいかなければいけない。
シャックスとの会話では根本的な問題解決の糸口にはならず、自信が戻ってきたくらいにしかならなかった。
「どうせなら、シャックスにアンドロ・マリウスちゃんを救い出してくれるように頼めばよかったかもな」
まぁ、あいつは頼まれても金が関わらないと動かないだろうし、最後にまるっと勝ち組になりそうな気がする。それはなんだかムカつくのであいつを頼るのは個人的にはNG。
ただし、今、彼はいないので考えてもしょうがない。
さて、考えよう。もっと実現可能な作戦を考えなければならない。
「う~ん」
人数が足りない状況で、あの強大な大陸の支配者たちからアンドロ・マリウスちゃんを取り返す方法……。
この国で仲間になれる人を集める?
「ダメだ。ただの一般人じゃ虹武将には勝てない。【アナクフス】の時とは違うんだ。数じゃない」
この国で仲間になれる人を集める作戦がダメ。
ならば、虹武将にも対応できる強力な武器を探す?
「ダメだ。武器商人もいないし、何を買えばいいかもわからない。対応できる武器があるかも知らないし……」
虹武将にも対応できる強力な武器を探す作戦はダメ。
ならば、もっと強くなれるように修行を行う?
「それは赤羅城に頼めばいけるか。でも、赤羅城の修行であの帝王には届く気がしない。申し訳ないけど」
ああ、ほんとうにどうしよう。
今のところ、赤羅城に修行を頼んで強くなれるのに期待するしかない。
でも、数回味わったけど、赤羅城の修行って泣きたくなるほど辛いのだ。
そういえば、赤羅城はどうしたのだろう?
汁物の余りをお腹の空いている僕のために持ってきてくれると言っていたのに。
さすがに戻ってくるのが遅すぎる……。
というわけで木造建築の家に向かう。耳をすましてみれば、何だか中がうるさい。まるで室内で騒いでいるみたいだ。
気になってしまう。
「みんな、ただいまーー」
そう言って、僕は勢いよく扉を開いた。
「うーん、やっぱりお酒はいいねーー。夜酒は良いーー。でも、この料理も少しだけ美味しいねーー」
「ちょっと。お嬢さんに失礼ですよ。あなたにはパン屋の店主の特製パン以外の好物はないのですか?
そういえば言われてましたよ。シェフたちがあなたの嫌味を言ってました。『あなたの好みがわからない』『あいつには豚の餌が良いのでは?』って。
……ってまた口に出しちゃった」
「うるさいぞモグモグ。食事中だモグモグ。あんたらが誰かは知らないがモグモグ。ここは食卓モグモグ。喧嘩するなら出ていってくれ。これはオレのためのモグモグ。料理なんだからさモグモグ。美味しい!!!!」
うるさい。うるさい。
木造建築の家の中では、3人の男女が大量に作られた料理を喰らっている。
その食事スピードは凄まじいもので、山のように積み上げられたお米が一瞬にしてなくなってしまった。
「「「赤羅城。おかわり!!!!」」」
3人の男女は同時にスターちゃんに向けて空になったお皿を差し出す。
ああ、かわいそうな赤羅城。
赤羅城は鎧姿ではなく、ウエイターさんのような格好をさせられて、怒りを抑え込みながら働かされている。
「ハイ。ただいまーーーーーくそったれが」
一方、台所と思わしき、場所ではスターちゃんが必死に新しい料理を作っている。肉の焼けるいい匂い。
「なんで、やつがれたちが。料理を作らされているんだよ。人手が足りねぇーよ。ショボーン」
スターちゃんはいつもの忍び装束ではなく、レストランのシェフのような格好を着こなしていた。
つまり、1人が料理を作り、1人が料理を運ぶという状態である。
そして、その状況を作り出している者こそが……。
『“黄”の『ベリアル ・ウムブラ ・サターナ ・マガツヒ』』
『“橙”の『フォルセティミス・マルコシアス』』
この2人の男である。
もちろん、3人の男女と言ったから、さらに、もう1人……。
その人物はマルバスである。僕の恋する女性『マルバス・ゴエティーア』だ。モルカナ国の国主後継者、僕の命の恩人。
「エリゴル!?
お前、心配したんだぞ!!」
まさか、彼女は勝手に国を出ていった罪人の僕を捜しに来てくれたのだろうか。
ああ、何ということだ。ここまで相当距離もあったはずなのに、来てくれたのだ。会いたかった。ほんとうに会えてよかった。もう見捨てられるだろうと覚悟していたから。
「マルバス……」
僕の目から涙がこぼれ落ちる。そしてマルバスの方に向かって行く。マルバスも食事を中断して立ち上がり、こちらへと体を向ける。
「エリゴル……お前。オレがどれだけ心配したか」
マルバスと目があった。マルバスは僕の姿を見て、同情と慈愛の視線を向けてきてくれた。
これは奇跡だろうか。捨てきれなかった。マルバスとの再会を僕は心の底から喜んだ。
「マルバスーーーー」
「エリゴルーーーー」
再会のシーンだ。僕とベリアルではなく、僕とマルバスの再会だ。
そして……。
────────ボカッ!!!
そして、マルバスは僕の頭が床板を突き破るくらいの威力の拳を僕に躊躇することなく浴びせてきた。




