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15 ・友としての提案+苦悩

いつもより1時間も遅れてしまいました。申し訳ございませんでした

 視点は僕へと移り、場所も王都から忍者の里へと移る。

アンドロ・マリウスちゃんが連れ去られた後、僕はすぐに馬車から降りて、そして歩いてこの場所まで帰ってきた。

その間の記憶はない。ただ、ボーっと何も考えれないような感じで歩いてきた。


「…………」


生気が抜けたような様子で帰ってきた僕と、真夜中でも火の番を絶やさないように見張っていた赤羅城との視線が合う。


「罪人先輩か?  おいおい、心配してたんだぜ。あっ!?」


赤羅城は僕の方を見て、何かを察したらしい。目をパチっと大きくまばたきをしてから急に視線を落とす。


「……そっか。よくぞ無事に」


赤羅城は見張りを一時やめて、僕の方に近づいてくる。そして、何も言わずに黙っている僕をそっと抱きしめた。


「あんただけでも無事に帰ってきてよかった……大変だったんだろ?」


「…………ん」


僕も返事のためにうなずく。

そして数秒後、赤羅城は抱きしめていた手を離して、体の向きを木造建築の家に向ける。


「腹減ってるよな罪人先輩。汁物の余りがあるはずだし、他の奴らにも伝えてくるからよ。ちょっと火の番を代わりにしながら待っててくれや」


赤羅城は先程まで彼が座っていた椅子代わりの丸太を指差す。

こうして、赤羅城が戻ってくるまでの間、僕はその丸太に座りながら、しばらくは火の番をすることになった。





 赤羅城はなかなか戻ってくる様子を見せない。なので、僕は闇夜の森を見渡しながら、火の番を続ける。


「はぁ」


ため息が出る。こうして何もせずに一人で佇んでいると、不安な気持ちが膨れ上がってきそうだ。

自分の無力さと現実を思い知らされて、もう死にたくなる。今からでは遅いかもしれないのに、今からでも頑張れば報われると考えてしまう。そんな今までの自分の愚かさを呪いたくなる。

自分ではうまくいっているつもりだった。自分では追いつけそうな位置にいるはずだった。

だが、現実は今だ。これまでも他の人よりも努力しようと決意はしてきたが、実際にそれが自分の力になっていない。自分の努力が否定されてしまったような気がして、つらい。

今がこの状態なら、努力しなければ今より悲惨な状況だと他人に慰められるかもしれないが、それでも自分の努力は周囲には努力にはならないものであった。

努力してきたが努力不足だった。一人でいると自分を責めてしまい、死にたくなる。


「難しいですよ。フレンドは無知だったんですからね」


ただ、1人ではなかったらしい。僕の側にはフレンドちゃんがいる。いつの間にか彼女は僕の側に座っていた。


「情報収集不足だと言っても、フレンドは別世界の人間。帝都との差なんて知る由もなかった。だってフレンドはモルカナ国周辺しか知らないから」


知ろうという努力はこれまでもしてきた。だが、自分が知っている周囲の実力が平均的だと思っていた。

僕の実力も平均的以下くらいだとは思っていた。外が広すぎたのだ。


「通用しなかった……強大な敵に挑むにはフレンドはまだまだ力不足だった。けれど、どうしようもない。今のフレンドにはどうにかしようとしてもどうしようもない」


そうだ。どうにかしないといけないのに。今の僕にはその実力が備わっていない。

この異世界に来てから日々努力してきたつもりだったが、それでは足りない。

さらに上の努力をしなければならなかったのだ。僕は帝都に来るには早すぎた。基礎や力をつけて挑むべきだったのだ。


「ねぇ、フレンド……」


フレンドちゃんと僕の目とが合う。そして、彼女は心の底から僕を宥めるような様子を見せて、口にした。


「一度、帰りませんか?」






 フレンドちゃんのお誘いに対して、僕は速答することができない。悩んでしまう。

そんな僕をフレンドちゃんは説得し始めた。


「私は思うのです。フレンドにはまだ早いと。

このままでは勝ち目のない負け戦。我らでは帝都には立ち向かえない。戦力も足りていない状況です。

私も判断をミスりました。

あの生意気野郎がここまで読めていないとは……。ますますあいつが嫌いになりそうです。

まぁ、とにかく、フレンドにはもう帝都に関わらないほうがいいと思うのです。一緒に逃げましょ?」


「逃げる?」


「一度、逃げるのです。もう嫌でしょ?

常に自分の力不足を実感しながら、フレンドはそれでも戦えますか?

負ける勝負に連戦できますか?」


「…………それは」


そう言われると僕もさらに考え込んでしまう。


「私とフレンドと赤羅城とあの生意気スターの4人では無理です。わかっていますか?

あの帝王の妹を救い出すには人数が足りない。ただでさえ強い虹武将、その上を超える帝王。勝ち目がないのは明らかですよ。

あと1つ、帝王の妹は帝王の血縁でありテロリスト。我らが手を貸す理由もない。

この大陸は帝王の支配で既に平穏に近いのです。その帝王を倒そうとしていたのですよ。

つまり、我らはテロリストに加わっているも同然なのです。我らは悪なのです」


我らか悪。その言葉は【アンビディオ】の時よりも深く僕の心に突き刺さった。【アンビディオ】の時はその国は敵国だった。だが、今回の帝国は敵国ですらない。


「フレンドの…………モルカナ国の敵は誰ですか?」


「それは…………魔王国?」


「そうでしょう?  

この帝国に敵がいるわけじゃあるまいし。寄り道はこの辺にしましょうよ」


フレンドちゃんの発言はたしかに正しい。この帝国【レガァリア】はモルカナ国の敵対戦力ではない。つまり、僕らが勝手に敵視しているだけだ。


「さぁ、私の手を取ってください。私の手を」


最後にフレンドちゃんは僕に向かって手を差し伸べようとしてくる。

僕はその差し伸べられた手を掴もうと…………。






 だが、その時である。


「ったく、勝手に行動して、勝手に諦めて、さらに勝手に逃げようってか?」


赤羅城の声でもない。スターちゃんの声でもない。フレンドちゃんの声でもない。そしてもちろん僕の声でもない。

声の主が僕がフレンドちゃんの手を握ろうとするのを止めてしまった。


「なぁ、若者。俺はこんなことのためにお前を2度も助けたつもりはない。利点を見せねば、返金を要求したいのだがな」


その人物は被っていたフードを脱ぐ。それは1人の男であった。


「なぁ、せっかく、お互いに命からがら生きているんだ。出て行く前にお話くらい聞かせてくれよ。若者の愚痴を聞いてやるのも大人のおじさんの役目なんだぜ?」


それは以前なら僕が会いたくもない相手。

その男の名は『シャックス・ウルペース』。

何でも金で解決することができる泥棒で、闇星の金行の使者である1人の男。

つまり、僕らの敵である。

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今回の話もどうかあなたの暇潰しとして役にたちますように…。 気に入っていただけたら是非評価でもポチッと押していただけませんでしょうか。モチベーションに繋がりますので…。星1でも構いません!! ★これ以外の作品☆付喪神の力で闘う付喪人シリーズ
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