13①・熱意の交渉+バルバトス 戦②
僕につき続けるか。バルバトスに乗り替えるか。
バルバトスに問われたアンドロ・マリウスちゃんはすぐに答えを出すことなく黙っている。
状況的には彼の言う通りにする方がいいのだろう。
バルバトスに手も足もでないまま、体術でボコボコにされている僕の弱さ。
それを見た彼女は失望するに違いない。『あの数々の国で化獣を倒した』という僕に語られている噂を信じて助けを求めてきたのだ。
そんな噂が嘘も同然の結果を彼女は見せつけられているのである。
「どうする? お嬢様。
もう一度言うがオレちゃんに切り替えないか?
オレちゃんと一緒に帝王様から玉座と聖剣を取り返さないか?」
「アンド……ッ!?」
彼女の名前を呼ぼうとした僕の顔をバルバトスは再び力を込めて踏みつける。
まるで僕には参加する資格すらないというようにバルバトスは自身の勝利を確信させようとしている。
バルバトスはアンドロ・マリウスちゃんを味方につけて、僕の心を折ろうとしているのだ。
「お嬢様。あんたもここで時間食ってる暇はない。オレちゃんもここで死にたくはない。
どちらにしろ、帝王様が動き出せばオレちゃんたちは終わりだろうな。
帝王様は次元が違う。あれは人間じゃねぇ。虹武将が赤子も同然。光の悪魔でも手を焼くバケモノだ。
そんな帝王様と戦うんだから、強いやつと組む方が得策だと思うが……」
「…………」
「オレちゃんと来い。オレちゃんと逃げよう。
昼は睡魔で頼りないオレちゃんだが、夜のテンションのオレちゃんなら何でもしてやれる。
さぁ、オレちゃんと帝王様から玉座と聖剣を取り返そう」
「嫌です!!」
すると、バルバトスはアンドロ・マリウスちゃんに近づいて行き、その手を優しく握りしめた。自身を信用させようとしている。
「なぁ、頼む。オレちゃんはお嬢様を助けたいんだよ。
今はまだかろうじて出血で済んでいる。だが、腕を動かせるのも今だけかもしれない。動脈でも切っていたら大変だ。その出血の量だからな。深い傷だからな」
「いや、私はあなたに心配される筋合いはないのです!!
あなたは敵です!!」
「オレちゃんは心配なんだよ。お嬢様が。
お嬢様はいずれこの帝国を背負ってしまうかもしれない。聖剣を片手に大陸を治めるお方。そんなお嬢様の腕の怪我だ。後遺症でも残ったらどうする!!」
「でも、私は……」
「お嬢様は優しい方だから。そこの奴が心配なのだろう。わかるよ。
オレちゃんに付いたら、そこの奴を裏切ることになる。
だが、ここで止まってどうする?
ここで止まっていたら聖剣を取り返せるか?
ここで止まっていたら王座を取り戻せるか?
違うよな。ただ止まっているだけじゃ動き出せてない。考えてるだけじゃ何も変わっていない」
「…………」
「だから、オレちゃんと行こう!!」
「…………」
「オレちゃんは気づいたんだ。オレちゃんにはお嬢様しかいない。お嬢様一筋なんだ」
「私一筋……?」
「昔から思っていた。お嬢様の小さいお姿をなぜ誰も守ろうとしないのか。お嬢様だって王家だ。それなのに、みんなはお嬢様を追い出した」
「でも、それはあなただってそうでしょう?
私が兄殺しの罪を問われた時……私が帝国から追放された時……あなたたちは!!」
「あの時のオレちゃんは愚かだった。オレちゃんは何もできなかった。
だから、もう一度チャンスをくれ。オレちゃんにお嬢様を守らせてくれ。今度は絶対に成功させてみせる。オレちゃんを信じてくれ。
お嬢様がこの手を取ってくれるならオレちゃんは帝王様を護る“紫”と“黄”にも勝ってみせよう」
「信じるなんて、私が虹武将を信じられると思うか?
私がどんな想いで、数年間も……。それを今さら」
「思わない。思えない。お嬢様を辛い目にあわせたのは虹武将だ。その過去は変わらない。
つらかっただろう。苦しかっただろう。その罪に押し潰されそうで悔しかっただろう。
オレちゃんたちがもっと……もっとお嬢様と話し合っていたらと思うと今でもオレちゃんは……」
「後悔しているの?」
「ああ、オレちゃんもあんたと同じだ。後悔している。
今ならわかる気がするんだ。オレちゃんがあの時どうしてやればよかったか。
だが、それも今さら。今気づけても過去は変わらない。
だから、頼む!!
オレちゃんを嫌ったままでいい。オレちゃんと来い!!!」
バルバトスはアンドロ・マリウスちゃんの返事を待っている。彼は自身の想いを全て彼女にぶつけた。
あとは彼女次第。
すると、アンドロ・マリウスちゃんはゆっくりと口を開いた。
「ねぇ……なら1つお願いがあるの」
「何なりと。お嬢様のためならば」
「私に信じてもらいたいのなら。今、ここで宣言して」
「ああ、なにを言えばいい?
帝王を倒すか? 叛逆してやろうか?
オレちゃんは何を言えばいい?」
「“虹武将脱退の宣言”」
「ッ……!?」
その条件を出された瞬間にバルバトスの顔色が急変する。その条件だけは聞きたくなかったとでも言いたげだ。
「待った。オレちゃんが虹武将の脱退宣言を?
まだ脱退宣言しなければオレちゃんは虹武将として利用できるんだぜ?」
「でも、いずれはバレること。今も“紫”が観てるんでしょ?
帝都のことは私が知っている。あなたの虹武将としての権力や地位は必要ない。
それならば、虹武将の脱退宣言をしてもいいよね?」
「虹武将脱退はもう二度と虹武将にはなれず。いずれ来る時、オレちゃんがお嬢様の側で護ることもできなくなるぞ」
「虹武将でいると良いことがあるの?
私は虹武将のあなたがいらないと言っている。私と共に来たいなら、全てを捨てて来なさい。私のように、そこのエリゴル様のように……」
「全てを捨てて……?」
「さぁ、目に見える形で虹武将脱退の意思を証明しなさい!!」
彼女につくか。虹武将の地位を守るか。
今度はバルバトスがアンドロ・マリウスちゃんに問われる番だ。




