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6②・ペロペロ+ペロペロ

 「!?!?!」


訳がわからない。僕はなぜ殴られた?

鼻をおもいっきり殴られるなんて初めてだ。

大量に鼻から鼻血が出てきている。痛い……。

鼻血が止まらない。滝のように溢れてくる。

鼻呼吸もしにくくなって、僕は口で呼吸をするしかなくなった。


「ハァ…………ハァ……ハァ……ハァ……ハァ……」


そんな様子の僕を男は舐めるような目付きで眺めてくる。そして、彼の拳には僕の鼻血がベットリとついていて、真っ赤に染まっていた。

そこまでは良かった……。いや、殴られている被害者の僕がまだ良かったというべきではないのかもしれない。けれど、本当にそこまでなら良かった。まだ不思議な男であるという印象に暴力的だという印象が付け加えられただけだ。

不思議な男+暴力的。

それなら、僕もまだ気分を悪くしなくてすんだのだ。


彼は僕の鼻血がベットリとついた拳を口元へと近づける。

いったい何をするのかと思いながら、その様子を見ていたキユリーと僕。

彼は僕の鼻血がベットリとついた拳を……ベロンッと舐めた。

ベロンッベロンベロンベロベロベロベロペロペロペロペロベチャペチャベロンベーーロンッと自分の拳を洗うように自分の舌で鼻血を嘗め尽くす。

僕とキユリーはドン引き。その光景に目を覆い隠す者もいれば、笑い声をあげて笑う者も……。A級裁判を見物する人って毎回こんなものを見せられているだろうか。かわいそうに……。

その後、しばらくするとヴィネさんが僕の鼻血のついた拳を舐め終える。そして「ごちそうさまでした♪」と一言呟くと、彼はそのまま口を開き始めた。

僕の判決をくだすために……。


「う~ん、不思議な味だよよ。黒よりの白って所かな。

これはすごい。この血は今までに味わったことのない味だよよ。興味深いねぇ~。

だが、濃くはない。私はね。血を舐めることでその人の情報を感じとることができるんだ。

だけど、調べてみたが干渉は無さそうだねぇ~」


調べ方は気持ち悪い方法であったが、どうやら僕は黒よりの白らしい。彼は僕にその事を告げると、そこからジャンプして一飛びで公事場にある座布団に着地して、そこに座った。

そして、何事もなかったかのようにニコニコとした笑顔で周囲を見渡している。

あれ? つまり、僕は……?


「…………つまり、僕は?」


「干渉はなさそうだ」と彼が口にした。僕と禁忌の森のナニカとの干渉はないと……。

干渉がなかったということは、死罪ではない?

死罪から有罪へと減刑されたということになる。


「おめでとう、君は死罪ではない。死ななくてすむよよ」


ヴィネさんのその一言が僕とキユリーを心の底から喜ばさせてくれた。

聞き間違いではない。本当に彼は言ったのだ。僕が死罪ではないと、この国の国主自らがそう告げたのだ。


「「い………………ヤッタァァァァァ!!!!」」


思わず、僕とキユリーは抱き合う。

嬉しさのあまり、涙が出そうになっていたが、それを堪えながら抱き合う。

この隙にキユリーに胸があるかを確認して性別を判断したかったが……。その考えも浮かばないくらいに嬉しかった。

ただ、「キユリーの血をあいつに舐めさせたら性別が分かるんじゃないか?」という悪巧みな考えを一瞬でも考えなかったとは言い切れない。それでも僕たちは喜んだ。

僕は死なずにすんだのである。


─────これにて、僕を死罪に陥れようと企まれたA級裁判を閉廷することとなった。













 そいつが見物人の中から声をあげるまでは……。


「オイオイオイ、何で死罪にしないのかな」


僕とキユリーが2人で喜んでいると、見物人の中からヤジが一声飛びかかってきた。

そして、彼は見物人たちの間を押し退けて、僕の方へと近づいてくる。


「なぁ、妹さん。俺ぁ頼んだよな?

頼み事を投げ出しちゃうのか?

一度受けた頼み事をこんな簡単に諦めちゃうのかい」


「クッ…………」


バティンはその場に佇みながら、僕の方へと歩いてくる不審な男を睨み付ける。その目は僕に向けていた視線ではなかった。僕に向けていたのが殺意であれば、不審な男に向けていたのは怒りの視線であったのだ。


「なんだよ。その目は……。大事な人質の姉様がどうなってもいいのかよ。まぁ、いいや。俺があいつの首を持ち帰ればいいだけだし……」


大事な姉様?

その姉様を人質に取られている。

ああ、理解できた。これまでの理由も理解した。だから、『バティン・ゴエティーア』は僕を何がなんでも死罪にしたかったのだろうか。

バティンの姉様って……確か僕の命の恩人である『マルバス・ゴエティーア』のことじゃないか。


「おい、『エリゴル・ヴァスター』。お前がこうして幸せを感じている間に不幸を感じる奴がいるんだぜ。分かってるのか? ああん?」


「なんだよ。僕に何か用かよ。僕が狙いなら、僕だけを狙えば良かったじゃないか。マルバスは関係ないだろ!!

ただ、あいつは僕の命の恩人であるだけだ」


「…………だからだよ。命の恩人になっちまったからな。見殺しにすればいいものをよぉ。

なぁ、頼むよ。エリゴル。死んでくれよ。自殺してくれよ」


「嫌だ!!!」


冗談じゃない。死罪から解放されたというのに、こんな不審な男のために死んでたまるか。もちろん、マルバスのためなら死んでもいいが、こいつに利用されて死ぬのはゴメンだ。

僕がそう言い張ると、不審な男は残念そうに頭を下へ向ける。


「そうかい。だったら“起動きどう”」


そのままの状態で不審な男がその言葉を発した瞬間。彼の体は突然現れた黒き物質の中に消える。いや、ただの物質ではない。

彼の体から四方八方に発射されたのは“釘”。

彼の体の周りから釘が大量に発射されたのだ。

釘はありとあらゆる方向へと発射され、突き刺さる。

グサッ……グサッグサッグサッグサッグサッ!!!

地面、庭木、建物の壁、木でできた証言台、公事場の畳、公事場の柱、見物人たちの体など。

ありとあらゆる方向へと発射された。雨のように降り注いだ。

僕は慌てて、キユリーの体を掴むと木でできた被告席の机の中へと隠れる。キユリーを守るために隠れる。

彼が釘を飛ばす寸前に“左目が疼いた”のだ。だから、こうなることは予想していた。予想はしていたけど……。

顔をあげるのが怖い。怪我人は何人いるのだろうか。死者は何人いるのだろうか。

あいつはなんだ?

あの釘野郎……。


僕は傷だらけになった被告席に隠れつつ、釘野郎がどうなったのかを確認しようと顔を少しだけ出す。

だが、目に映った姿に僕は声をあげて叫びそうになった。恐怖で叫びそうになった。


不審な男である釘野郎の両腕にはパイプくらいある釘が一本ずつ生えており、頭の半分が一本の釘になっていて、釘の先端を鼻のように向けている。

その姿は完全に化物であった。

【今回の成果】


・国主の嫌な検査方法によって判決が下されたよ


・マルバスを人質に取っていた新しい敵が現れたよ

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今回の話もどうかあなたの暇潰しとして役にたちますように…。 気に入っていただけたら是非評価でもポチッと押していただけませんでしょうか。モチベーションに繋がりますので…。星1でも構いません!! ★これ以外の作品☆付喪神の力で闘う付喪人シリーズ
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