1②・付いて来る女+宣教師
結局、神話を読み聞かせ終わってしまった。
怪しい雰囲気を出している女性は、どうやら、ただ純粋に子供達と一緒に僕の話を聞きに来ただけらしい。
彼女は僕に10分間の間何もしてくることはなく、無事に今日の分は語り終わってしまった。
正直に言うと何かしらの期待はしていたけどね。
「じゃあね。また明日ね~宣教師さん」
「今日もありがとうございました宣教師さん」
僕の葛藤はさておき、こうして僕が神話を語り終わると、子供達は立ち上がり、僕にお礼を言いながら帰っていく。
この後、子供たちはみんな、親の手伝いをしたり、学校などに行く時間なのだ。
そして、また明日同じ時間にここに集まる。
それがここの子供たちの日課。勤勉なのです。
「ふ~、今日の布教活動はこれで終わりっと」
僕は腰かけていた噴水の側の椅子から立ち上がり背伸びを行う。
ずっと座って熱意を込めて読み聞かせていたのだ。
多少は体の一部に疲れが生じても仕方がないことです。
あとは何事も問題が起こらないように、今日もダラダラ……ではなく神に祈りを捧げる時間としましょう。
なんて、そんなことを考えていた僕がバカだった。
もう、誤魔化さずに「今日は怠惰にダラダラ過ごす」って考えていればこんなことにはならなかったのかもしれない。
僕が道を歩いているその隣には先ほどの女性が一緒にくっついてきているのだ。
それでも、ストーカーのように尾行してくれるならまだ楽だっただろう。
僕は気づかないフリをして、家に帰れる。
しかし、今回の問題はそうではないことである。
彼女は完璧に知り合い的な距離感で僕に近づいてきたのだ。
「途中から聞いてもしっかり分かったよ!! あいつらこんなに面白い話聞きやがって~、うらやましいもんだぜ!!!」
「…………」
「面白いって言えば、まぁ恥ずかしい過去の話なんだけどね。オレは昔とうもころしの事をとうもろこしって……。あれ?
とうもろこしだったかしら?
それとも、とうもころし?」
「…………………」
「あと他にもあるんだけど。猪突猛進ってあるでしょ?
その猪突猛進をオレは“しょとつもうしん”って言ってた時期があるの。“しょ”の方が言いやすいから“ちょ”だって知った時はビックリしたわ。
……って聞いてるのか?
あんたに話しかけてるんだけど?
オレのこと分かってる?」
「ええ、先ほどの謎の……いや、失礼。さきほどの女性ですよね?」
「おう!! なぁ、それにしても、あんたの語るルイトボルト神話ってやつ?
異教徒の神話なのにすごく面白いな!! 最近ではこの国のママさんたちにも大流行だって風の噂で聞いてきたんだが、こりゃ面白れぇ!! 異教徒のくせに!!」
ハキハキと元気に神話の感想を述べてくれるのはうれしいことなのだが。
異教徒を強調して言ってくるのは、なんだか喧嘩を売られているみたいでムカつく。
しかし、そんなことで怒ってはいけない。この女性は僕の眼が正しければ関わらない方がいい女性にランクインする。見ただけでハッキリと分かる。こいつは喧嘩が強いッ!!
おそらく、怒らせたり喧嘩をしたりしてはいけない奴だ。
「異教徒のこと誤解してたわ!! 異教徒にも面白い話があるんだな。オレを感激させるとは異教徒のクセにあっぱれあっぱれだぜ」
明らかにバカにしてきていることは理解できたが、僕は18才の大人の仲間入りレベル。
こんなことでイライラしていたら、社会に出てもやってはいけない。
彼女は口は悪いかもしれないが、僕を褒めてくれている。
彼女は鍛えればきっと立派なルイトボルト信者に育つ見込みがある。
しかし、彼らが気に入っているのは神話のみだ。本当にそんなに面白いのだろうか?
僕的にはさっぱり面白さが理解できない。
教えの方がよくないか?
例えば、ルイトボルト様の教えの第1条にこんなものがある。
『生命の全てはルイトボルト信者であり、もしルイトボルト様がプリンを欲したときは有無を言わずにプリンを生贄に捧げること!!』
いや、これは確かに教えより神話の方がいいか……。僕は自分の宗教を選び間違えたかもしれない。今さらだが、死ぬほど後悔している。
宣教師から遊び人にジョブチェンジしたい気分だ。
僕は隣で必死に今日の感想を語る女性の言葉なんて耳に入ってこないまま、自分だけの世界で思考に囚われながら歩いていく。
そこでふとあることに気づいた。
いや、待てよ。これって神話を語りつくしたら僕はこの国から用済みで捨てられるのでは…………?
「なぁ~、なぁ~話を聞いてるか?
人の話は目を見て聞くって習わなかった?」
くそっ、彼女からの言葉が耳に入ってきて考えがまとまらない。
しかし、この女性はどうして僕に付きまとってくるのだろう。
僕は今これからこの国で生き延びる策を考えているというのに……。
「おい、君はどうして僕に着いて来るんだい?」
ハッキリと聞いてみた。
きっと、この女性が先ほどの神話だけが目的ではないだろう。
神話の感想は先ほど聞いたし、今は世間話を口に出してきているのだ。
しかし、それを聞いた瞬間に彼女は急に真面目な表情を浮かべた。
「分かったわ。じゃあ、言うよ。いいか? 一度しか言わないからよく聞けよ?」
彼女は真面目な顔で僕を見つめてくる。素直に目的を話してくれるつもりのようだ。
そして、まるで何もかも見透かされているような紅の眼に僕の顔が反射して映っている。
うん、この人も僕の顔も今日も美し………ってそんなことはどうでもいい。
でも、この真面目な顔はさきほどまで褒めているのかバカにしているのか分からない口調で僕に付きまとっていた彼女からは考えられない。
それほど彼女には大事な話を行おうとしているのか?
僕がそんなことを考えている中、彼女は周囲をキョロキョロと警戒しながら見渡している。
そして、この道は人が多すぎると判断したのだろう。
「やっぱり、この場所じゃだめだ。人気のない場所で2人きりで話したい」
まっすぐな視線で僕を見つめている。
人気のない場所で2人きりで……なんて聞いて男が引き下がるわけにはいかない。
これはきっとアレだ。断る理由がどこにあるのだろうか。
「告………いやなんでもないです。分かりました。話を聞きましょう!!!」
僕はそう返事を返して彼女と一緒に人気のない場所まで歩いていく事になりました。
異世界最高~!!!!
【今回の成果】
・エリゴルは女に宗教の神話を誉められたよ
・女に人気のない場所に誘われたよ




