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11①・時間進行動思考+追撃の弓矢

 “左目の疼きが治まった”。


「エリゴルさん!? 大丈夫ですか?」


アンドロ・マリウスちゃんが心配そうに声をかけてくれている。僕の左目に矢も刺さっていないようだ。謎の音と追撃の矢はまだない。

……ということはあれは予知夢。


「気にしなくていいよ」


──バシッ(謎の音)


本来ならこのあとアンドロ・マリウスちゃんはふざけた調子と擬音を使って、自分自身の過去を語り始めるはずだ。

だが、少し先の未来を予知してしまった僕にはそれが2周目となるので、話を知っている。


「それよりも……だ」


「なんです? 今からあんまり人に言いたくない個人的な過去を教えてあげるんですよ。黙って聞きなさいエリゴルさん」


「いや、もう君の過去には興味がない。それよりも問題が」


それよりも今は敵が攻撃を仕掛けてきている状況をどうにかして改善しなければいけないのだ。

狙ったものに刺さる矢の攻撃。矢を追撃ミサイルのように自由に操ることができるなんて付喪人の能力者しかいないはず……。そして、この国で付喪人として活躍しているのは虹武将。

つまり、今僕らを狙っている敵は虹武将だ。

だが、僕らが今まさに敵に狙われている事をアンドロ・マリウスちゃんは知らない。

実際にそれがわかるのは未来のお話なので、この時間のアンドロ・マリウスちゃんは自分達が危機的状況にいることに気づいていないのだ。


「いやいやいや、ちょっ、私の過去に興味がないってなんですか。私が虹武将に付け狙われている理由とかわかるんですよ。私の半生を聞けるなんてもう機会がないんですよ。貴重な機会を無駄にする気ですか。

なんですか? 私に興味がないと!?

へぇー、なんですが。私、実際スゴいんですからね。武勇伝ありますし自慢できますし。エリゴルさんより地位は上なのに敬語使ってやってるんですよ。だから命令には従え。語らせろ喋らせろ従わせろ!!」


アンドロ・マリウスちゃんはどうやら自分の過去を語る覚悟を決めたのに、それをあしらわれた事に苛立ちを覚えてしまったらしい。

彼女はその筋力で無理やり僕を押し倒し、力でこの場の立場を分からせるつもりのようだ。


「痛ッ」


僕の体は大量に散らばった荷物の上に押し倒される。


「……さぁ、まずはどこから語りましょうか」


「いや、ちょっと待ってよアンドロ・マリウスちゃん。今はそれどころじゃないんだってば」


「今以外ないんですよ。語るのは今ここです!!」


駄目だ。もう語る覚悟をしてきているアンドロ・マリウスちゃんは予定を変更しようという選択肢を破棄している。

彼女が過去を語るのが今しかないのなら、僕だって今ここで語っておかなきゃいけないのだ。


「いいかい。アンドロ・マリウスちゃん!!

僕らは今、敵に狙われているんだよ!!」


「それがなんですか。私の覚悟は止まりません!!」


「いやいや、今は危機的な状況なんだよ。おそらく追っ手は虹武将。矢を操る能力を使ってくる敵だ!!」


「虹武将……。矢……を操る!?」


アンドロ・マリウスちゃんの過去を語る覚悟を揺らがせた2つのワード。

その様子からして、敵についての情報を何か知っているのかもしれない。


「んーー、矢を操る能力は知ってます。虹武将の中に1人、それに当てはまる人物はいますよ」


「そいつに弱点とかはないの?」


「弱点はないです。敵は『虹武将“緑”。追跡の『アルテリオン・バルバトス』』。

どんな方角に射っても標的に向かって矢を飛ばせる【弓の付喪人】……。狙われたら最後矢は確実に飛んできます!!」


──バシッ(謎の音)

再び2度目の矢が客車の壁に突き刺さる音が聞こえてきた。




 どんな方角に射っても標的に向かって矢を飛ばせる【弓の付喪人】。

敵がその能力を持っているとアンドロ・マリウスちゃんは語ってくれたのだ。


「ってことは。そいつの射っている矢は客車の壁のお陰で防げているってこと?」


「ええ、今のところはそうです。おそらく奴は我々の移動手段を把握できていないのでしょう。だから、少しの時間稼ぎはできているはずです……」


しかし、アンドロ・マリウスちゃんは顔を俯いたままこれから起こる可能性を付け加えて口にした。


「ですが、これが馬車だとバレた場合。馬を狙われるか火矢を放ってくるか。どちらにしても移動ができなくなります。そして運良く馬車から逃げたとしても降りたところで……」


降りたところで矢が確実に襲ってくる……。

つまり、敵に移動手段が馬車だと気づかれる前に状況を解決しなければ危険だということなのだろう。


「なんか無理ゲーな気がしてきた……」


矢を客車の壁で防ぎつつ、馬車が狙われないように努力して、客車から出ることなく、どこにいるのかもわからない狙撃手を倒す。

そんなの無理難題にも程がある。


「……エリゴルさん。そうです。勝ち目はありません。勝ち目なんてないのです」


アンドロ・マリウスちゃんの発言で客車は一気に雰囲気が悪くなる。僕らは逃れられない不安から床に俯いた。

だが、アンドロ・マリウスちゃんの発言は真実だ。紛れもない真実。

真実からは逃れられることはできず。

このまま黙っていても馬車は走り続ける。止まることなく馬車は進む。

そして、敵はいずれ気づくだろう。僕らの移動手段を理解して行動に移るはずだ。僕をあの予知のように矢で殺しに来るはずだ。

僕らに残された時間は、敵が僕らの移動手段を把握してしまうまでの時間しか残されてない。

つまり、今だ。今を逃せば僕らの目的は達成されることなく……。


「……あっ」


俯いていたアンドロ・マリウスちゃんが何かに気づいたように顔をあげる。

僕は声を出したアンドロ・マリウスちゃんを見る。


「エリゴルさん。私、腹を括ります。

1つ思い付きました。決意の時は、今ここでです!!」


──バシッ(謎の音)

アンドロ・マリウスちゃんが何か対抗策を思い付いた時、3度目の謎の音が僕の耳に聞こえてきた。

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今回の話もどうかあなたの暇潰しとして役にたちますように…。 気に入っていただけたら是非評価でもポチッと押していただけませんでしょうか。モチベーションに繋がりますので…。星1でも構いません!! ★これ以外の作品☆付喪神の力で闘う付喪人シリーズ
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