9①・ッピ+帝都へGo
一方、その頃のアンドロ・マリウスは……。
「お買い物~お買い物。散財する幸せ。これが金が消えていく感覚なんですね」
爆買い、いや破買いを繰り返していた。店にある商品を大量に買い占めており、もう大きな荷車2台でもギリギリなくらいの量の商品を買っている。
「さて、また荷車を貰わなきゃ~」
どうやら彼女はまだまだ買い足りないようで、新たな荷車を借りに道を戻るつもりのようだ。
だが、2台の荷車を同時に運ぶことはできない。どうやって3台目の荷車を借りにいこうかとアンドロ・マリウスが悩んでいた所に……。
「あ!?」
「あ!!」
僕は遭遇してしまった。
僕も彼女もその出会いにはおそらく驚いているはずだ。
僕はアンドロ・マリウスが買った品物の量が倍になっていることに驚き、彼女は僕が謎の男と連れ添って歩いてきたのを驚いたはずだ。
「ん? どうしたのかな? エリッピ。
あの人がどうしたの?
ああ、友達? いや、もしかして彼女さん?
おいおい、エリッピ。君に彼女さんがいるなんて聞いていないよ!?」
謎の男=『ベリアル・ウムブラ・サターナ・マガツヒ』。
正直、彼が僕になんで懐いているのかは知らない。
パンの事に怒っているわけではなかったので、喧嘩にはならずに済んでいたのだが……。
歩く道中に僕の話を聞いてきた彼は次第に僕に懐いてきたのだ。僕の事を『エリッピ』と呼ぶほど懐いてくる。
僕とベリアルは出会って40分も経っていないというのに流石に懐かれすぎなのは、僕も充分承知しているつもりだ。
「やぁ、アンドロ・マリウスちゃん」
まぁ、アンドロ・マリウスからすれば僕は、昼飯を住ませに行ったら男に懐かれている男って思われているんだろう。
「惚れ薬の被害者?
もしそうなら、病院を紹介した方がいいんじゃないの?」
ほら、アンドロ・マリウスがこんなことを聞いてきた。疑いの目付きで僕の顔を見てくる。ああ、完全にこいつやったな!!くらいの視線だ。痛い。アンドロ・マリウスからの視線が痛い。
その誤解を解かなければ!!と僕は言い訳を考え始めるのだが。
僕よりも先にベリアルが語り始めてくれた。
「それは誤解ですよ。お嬢様。
己はエリッピの事をソウルメイトと思っているだけです。それに、惚れ薬なんて己には効かないしね」
「ほんとうに……?」
「ええ、本当ですとも。己は健康体質で流行り病や毒薬にすら縁がないようで……。お陰さまで風邪すらひいたことがありません。病院にも行ったことがない」
「…………ほんとうに?」
「疑いますね。お嬢様。
まぁ、己の心配をなさっていただいてるのは嬉しき事。お礼としてこちらの品物全てを奢らせていただきたい」
「あっ、いえ、せっかくの御厚意申し訳ありません。それはダメ。
私の買い物なんです。私が買うことに意味があるのです。お金じゃないし、物じゃない。私は買う行動がしたかったからしているのです」
ここで2人の会話は一旦途切れる。
アンドロ・マリウスがベリアルに頭を下げて、厚意を受け取らないと発言したのだ。
けれど、ベリアルは厚意を拒否された事に対して気を悪くする様子もない。
「そうですか。失言を御許しください。お嬢様にご無礼をおかけしました」
「それはそうとお嬢様呼びは結構ですよ。なんだか照れちゃうので。
私はアンドロ・マリウスと言います。よろしくお願いいたします。それで、あなたのお名前は?」
「お嬢様呼びは嫌いでしたか。それは度重なりし無礼を御許しください。アンドロ・マリウス殿。己の無礼を御許しください」
「いえいえ、いいんですよ。
さて、エリゴルさん。それでこれからどうしましょうか? 私の目的は終わりましたが」
ここでアンドロ・マリウスちゃんがなにか言いたそうに僕の顔をチラリと見た。
僕に目的が終わったと言ってきたのだ。
いやいや、目的は終わっていない。
僕らには大本命の“帝都へと向かい、王座と聖剣を取り返す”という目的があるのだから……。
「あっ」
そうだ。今の状況は原住民を連れてきたせいで目的に移りにくくなっている。
帝都に来てからの午前はアンドロ・マリウスのせいで時間を潰してしまったが、今度は僕が午後の時間を潰してしまっている。
これじゃあ、あとでアンドロ・マリウスちゃんとの反省会で注意するにも注意できない。
どうするべきか。どのようにしてベリアルと別れるべきかを僕は悩む。
すると、悩みこんでいた僕らの様子を見ていたベリアルが代案を提案してくれた。
「ご予定がないのであれば、己が帝都まで案内いたしましょうか?
エリっぴの話だと、この帝国に来て、帝都を見られていないようなので……。一度は見ておくべき場所ですよ。初見は迷いますのでね。お嬢様にご無礼をかけた恩を返したいのですよ」
なんというベストな提案であろうか。ベリアルは帝都へと僕らを案内することで恩を返し、僕らは帝都へと侵入するキッカケにもなる。
もちろん、ベリアルには悟られないようにしなければいけないが……。
案内してくれるのならありがたい。
“載冠の儀”とやらが近い事で警備は厳重だろうし、ベリアルは虹武将?とやらなので彼の助けがあれば怪しまれずに帝都に行ける。
「それいいね!! 案内してもらおうよ」
慎重に行動しなければいけないのは絶対条件だが、僕はベリアルの提案に乗ることにした。
もちろん、ベリアルに僕らの目的がバレないように行動するリスクはあるが……。
───まぁ、きっとなんとかなるだろう。僕らのバレなきゃいいだけだ。




