7②・店主の自家製パン+酒場での出会い
腹ペコの状態で帝国の酒場に入ったら山賊たちに絡まれそうだよ。
「ほら、俺らの貸し切りタイムに忍び込んだ謝罪をしろやァ」
「謝罪!! 謝罪!! 謝罪!!」
「この時間帯は店主が俺らに是非謝罪をしたいからといって開けさせた時間なんだよ!!
パンピーがお邪魔しちゃいけない時間なんだよ!!」
「ほらほら、立って。頭下げろ!!」
そういえば、こういう展開を僕は一度味わっている。【アナクフス】での悪党たちだ。最終的には彼らとは同じ目的のために戦った同志という形に収まったけど、彼らとの出会いもこんな風だった。なんだか懐かしいと思えてしまう。彼らは元気だろうか……?
「おいおい、なんだこいつ。ちょっと笑ったぜ!!」
「てめえ、ふざけてんのか?」
「立場をわかっちゃいねぇみてーだなッ!!」
───パリンッ!!
どうやら山賊の1人が持っていた酒ビンで僕の頭を殴ったらしい。
くそ、ちょっと痛い。
「こいつ、ちょっと変じゃねぇか?
殴ったのに立ってるぜ」
「かすったんだろ。血も少量しか出てねぇし。お前コントロール悪りぃな」
「まぁいいや。どうする? 次こそ決めたい奴~?」
どうやら2発目をくらわせようとしているらしい。酒に酔っているとはいえ、僕を殺す気だ。ただでさえ、先程の1発目はキチンとくらっている状態だ。かすってはいない、クリーンヒットしている。だから、今2発目をくらうのは危険かもしれない。
ここは彼らの言う通り、謝罪を行った方がいい。
「わかった。謝るよ……すみませんでした。どうしてもお腹が空いていて気がつきませんでした。どうかお許しください」
謝る理由はないが、それで済むのなら。そう思って僕は深々と山賊たちに頭を下げる。
だが……。
「許すわけねぇだろ。バーカ」
───パリン
2発目を頭に叩き込まれてしまった。
じゃあ、どうすれば僕はこの腹の虫を空腹感をなくすことができるのだろう。
僕は今すぐにでも何かを食べておきたいというのに……。
「はぁ~、ダメ?
食べたらすぐに出ていきますから」
本当におなかが空いているのだ。腹に何かをいれるために酒場に来たのだ。せめて、食事くらいは山賊たちも許可してくれてもいいじゃないか。
だが、山賊たちは僕の要望を聞いてくれるどころか、逆に酒瓶に驚いている。
「おいおい、こいつ。なんで?」
「石頭なのか? くそ、つまらねぇな」
「普通、死ぬだろ? 酒瓶で殴ったら」
そういえば、確かに1発目でも死ぬと思っていたのだが、僕はいつの間に石頭になっていたのだろう。生きていることが不思議である。
これにはさすがの山賊たちも酔いが覚めたように驚いていて、ちょっと僕の方を睨み始めている。
このままじゃ、本当に何も食べられないまま時間だけが過ぎていってしまう。
そんな時にー、カウンター側に座っていた山賊の1人が何かを思い出したように店主に告げる。
「つまらねぇ。あっ!! おい、店主。いいこと思い付いたから。あれの在庫全てを頼むぜ?」
「あれ……ですか?」
山賊たちはいったい僕に何をするつもりなのだ?
お互いに警戒し合いながら、数分後。
店主がこちらへとやって来て、1つの皿を僕の前に置いた。
「こちら…………店主の自家製パンです」
かわいそうな者を見る目で、手を震わせながら店主が置いたのはたくさんのパン。山盛りで計10個くらい皿の上に置かれておる。
これで在庫全て?
「お腹が空いてるんだろ? 残さず食べろよ? 残さずな」
なぜか1人の山賊が僕にパンを進めてくる。ああやって進めてくるってことは、毒か何かが入っているのかもしれない。
でも、店主が毒を入れるとは思えないし、お腹が空いているのは事実だ。とりあえず、ありがたくいただこう。
「……それじゃあ。うん。いただきます」
目の前にあるパンを僕は1つ掴む。触った感じはいつものパンと同じだ。フワフワしている。
とりあえず、一口食べてみよう。
「…………はむッ!?」
僕がパンを一口食べた瞬間、僕にパンを促した山賊が笑いを堪えながら僕をバカにしてくる。
「店主のパンは。店主の自家製パンは。世界一ぃまずいんだァぜェェェ!!
吐き出すほどのまずさ。喉が閉まるほどのまずさ。
ほら、吐き出せよ無様になァ。そして、嘔吐物も残さずなァ」
その山賊の一声で先程まで引き気味だった他の山賊たちも切り替えて笑い始める。
「……あはは……あははははは!!」
「こいつ、店主の自家製パンを食いやがったァ!!」
「店主、いい加減に上達しろよな!!」
「どうだ? 初めての味は?」
「水いるか? 洗い流してやるよ」
僕の頭にビール瓶の中身がドボドボとかけられる。
おかげで僕は水浸し担ってしまう。
それを見て、更に笑い出す山賊たち。どうやら山賊たちのテンションは元に戻ってしまったようだ。
僕を蔑んで笑い出す周囲の山賊たちの目。それを哀れそうに思いながらも目を合わせないようにしている店主。
僕は何も言い出さない。声を出すことに意識を向けられない。
───そんな時である。山賊たちの愉快な空間は1人の男の来店によって揺らぎ始めた。
「やァ、店主~。溜まっていたツケを払いに来たよ~。ついでに今日は食べに来たよ。己のための特等席は空いているかーい?」
───その男が店に現れた瞬間、僕の意識はパンも口も息をすることも忘れ、ただその男に対して向けられていた。
意識をそちらに向けることで自分自身を守るために……。




