7① ・帝国へGO+酒場での出会い
ここは帝国レガァリア。そこは4つの滝と山に覆われた大地。そして4つの滝を結ぶ中央付近には町や湖や森がある。もしも帝国から国外に出るためには10ほどしかない公道のどれかを通る必要があるようで、山を越える手前にある小さな町で馬車を借りた。
本来は来た道を戻るという方法が一番よいのだろうが、あの崖の道は絶対安全な公道ではない。
なので、僕らは正規ルートで帝国まで送ってもらった。
その時、馬車から見る帝国の景色はまた絶景。
馬車に揺られながらのんびりと外を眺めること30分。
「帝都すげーー」
忍の里から脱け出して僕らは2人きりで帝都へとやって来ることができた。
やはり帝都という名前の通り、通行人が途切れることなく道を歩いている。
道路には車が走っている。僕が知っている車よりはなんだかかなり昔の形式ではあるが、この大陸で車が走っていることが何よりも驚きだ。
ただし、車を見かける台数は本当に少ない。僕が見たのも駐車されている車だけだ。
「あれは自動車です。馬がなくても動くのです。めったに見れないレア物ですよ? すごいでしょ!!」
アンドロ・マリウスが自分の手柄のようにあの自動車を説明してくれた。
「へー、馬車じゃないのに動くのか……すごいな(棒読み)」
「それじゃあ次行きましょ。私のふるさとである帝都を案内してあげますよ!!」
そう言ってアンドロ・マリウスちゃんは僕の手を引き、次なる場所へと案内しようとしてくる。
そんな彼女の様子からはもしや本来の目的を忘れているのでは? と思ってしまいそうだが、まぁ、それよりも帝都を歩いてみたいという気持ちの方が強いのは真実だ。
「───よし行こう!!」
今は僕も同罪として、目的を忘れているフリをしよう。
そのうち、時間がたてば彼女自身も目的を思い出してくれるはずだ。
“帝都へと向かい、王座と聖剣を取り返す”という目的を…………。
2時間観光ぶっぱなし。
今の僕はアンドロ・マリウスちゃんの荷物持ちとして大量の荷物を持たされている。
「次はあそこに行きましょう!!」
そう言って店の中に消えていくアンドロ・マリウスちゃんを何度見ただろうか。
両手は塞がっているからもう重量オーバー。次は頭の上にでも乗せて運ぼう。
「はぁ~。腕の感覚が消えかけてる……」
いくらなんでも買いすぎだ。目的を忘れているにも程がある。これを再び拠点である忍の里に持って帰る僕の身にもなって欲しい。帰りの馬車に乗る際『馭者のおじさん』に迷惑がかかってしまって、最悪追加料金を払わされる可能性も充分にある。行きの馬車代は僕が払わされたのだから、帰りも払わされる可能性は高い。
「そういえば行きの『馭者のおじさん』。なんかあの『馭者のおじさん』に似てたな。ワンパターンの顔なのか? 『馭者のおじさん』みな兄弟なのかな?」
「エリゴル様。これ預かっててください!!」
いつの間にかアンドロ・マリウスちゃんが再び僕の方にやって来て買った荷物を僕に預けてくる。
そして、手に何も持たなくなったアンドロ・マリウスちゃんは再び別のお店の方へと走っていく。
「はぁ~。アンドロ・マリウスちゃん。さすがに多すぎるよ!!」
爆買いしすぎだ。とうとう本当に頭に乗せて運ばなければいけなくなってしまった。
それにしても、また紙袋に入った単品の商品だ。
中身がなにかはわからないけれど、せめて紙袋くらいは貰っておいて欲しいものだと思ってしまう。
そして、とうとうアンドロ・マリウスちゃんは一通り買い物を済ませたようで、満足そうに荷車を引いてやって来た。これを使えばこれ以上荷物を僕に持たせる心配もない。だが、正直もう少し早く見つけてきて欲しかったという思いがないわけでもなかった。
「…………うん」
「すみませんエリゴル様。お待たせしちゃって。
お腹すいてますよね?」
確かにお腹は空いている。朝から動きまくって体力を消耗している。
ようやく、お昼が食べれるのか。そう思って一安心。しかし、どうやらアンドロ・マリウスちゃんはまだお昼を食べるつもりではないようだ。
「私、もうちょっと巡りたいので、先に食べちゃっててください。そこに酒場がありますし。後から合流しますので!!」
彼女はまだ買い物を続けるつもりのようだ。もう既にの上は買った物でいっぱいになっているのに。
でも、これ以上彼女の買い物に付き合っていれば、お腹が空きすぎて倒れてしまいそうだ。
だから、ここは彼女の言う通りに1人でお食事を頂いてしまおう。
「うん。わかった。先食べてく」
こうして、僕はアンドロ・マリウスちゃんに一旦別れを告げて、フラフラと酒場らしきお店へと入っていくのだ。
酒場の中。僕が入店すると同時に、数人のお客さんが慌てた様子で中から出ていく。
なにか中であったのか?
よくわからないが、警戒して入店できるほど僕のお腹は調子がいい状態ではない。
「お腹……空いた……」
フラフラと酒場の席に座る。酒場の中にはお客さんがたくさん。
彼らはどうやら団体客らしい。
「飲むぞー」「おい、店主。酒を持ってこい!!」「酒だ。酒を持ってこい!!」「この店一番良い酒だーー」「おい店主。いい加減パンの腕は上がったかァ?」「おい、店主。ご自慢の店主のパンは売れたのかァ?」
騒がしい。まるでお祭りの真っ最中のように騒いでいる。昼間から飲んでいるようだ。
まぁ、でも静かにしていれば怪しまれないだろうし……。
店主さんがこちらに来て注文を取ってくればあの団体客から絡まれそう、でもお腹は空いているから食べたい。
どちらにしろめんどくさい結果になる……。
「はぁ~めんどくさい~」
思わず心の声を口に出してしまった。
すると、その声を聞いた団体客が立ち上がって僕の存在に気づいてしまう。
「……!? おいおい知らねぇ客がいるぜ」
「おいおい、この時間は俺ら山賊様の貸し切りタイムだろうがよ!! 店主!!」
「てめえ、貸し切りタイム破ってんじゃねぇぞクソ店主!! てめえの店の誠意はこんなもんか?」
「おい、てめえ。こっちこい。俺らの貸し切りタイムに紛れ込んだ謝罪をしてもらおうかァ」
ああ、団体客=山賊が僕という暇潰しの標的を見つけたようだ。
はぁ~、僕はいつになったらこの腹の虫を抑えることができるようになるのだろうか……?




