6 ・拠点へGO+忍の里
スターちゃんに連れられて、僕とフレンドちゃんが向かうのは忍者の里という場所である。
帝都に背を向けて崖を降りながら進む僕らに、スターちゃんは忍者の里についての情報を語り始めてくれた。
「いいですか? やつがれの言うことをよく聞いてくださいね」
「まず、エリゴル人の仲間の赤羅城様とアンドロ・マリウス様は忍者の里で保護しています」
「保護の際、食事や睡眠は必ず忍の里で取ってもらいます。絶対ですよ?」
「帝都は危険ですからね。忍の里は安全です」
「忍の里はこの辺りだよ。ココッココッ」
そう言ってスターちゃんはその場で立ち止まるが、周囲には忍の里らしき場所はない。
今も僕らがいるのは断崖絶壁である。
「崖じゃん」
「あっ、それじゃあ忍の里に行きましょう。こっちですよ」
「???」
スターちゃんは時々、目的地を間違えている。
断崖絶壁を忍の里と言うなんておかしい。間違えているというレベルを超えているくらいの間違いではあるが、スターちゃん気にせず僕らを案内しようとしている。
これには、正体不明の不審友人のフレンドちゃんも若干引いているみたいだ。
「フレンド、フレンド。あいつ何かおかしいんじゃない……?」
フレンドちゃんがスターちゃんに聴こえないくらいの小さな声で僕の耳に囁いてきた。
僕もその意見には同意なのでスターちゃんにバレないように頷く。
すると、フレンドちゃんが再び僕の耳に囁いてきた。
「怪しいね。敵かもね。どうする? 崖から突き落として様子見しちゃう?」
「僕思うんだけど。それ、様子見じゃないよ」
スターちゃんを突き落とそうと奮闘するフレンドちゃんを必死に抑える僕。
ここ数分間、フレンドちゃんは何かと理由をつけてスターちゃんを突き落とそうと企んでいる。それを僕は毎回止めているのだ。
すると、僕の苦労に気がついたスターちゃんは声をあげながら僕の名を呼んできた。
「何してるんですか。エリゴル人。忍の里はもうすぐですよ!!
いい? やつがれらが向かうのは忍の里なんですから!!
コラ、真面目にしなさい」
僕らの様子が遊んでいるように見えたのだろうか。
降りている最中に何度フレンドちゃんの魔の手から救ってあげているとも知らずに……。
合計36回。
この数字は僕とフレンドちゃんが忍の里にたどり着くまでにスターちゃんが告げた「ここが忍の里」であるという回数である。
崖を降りた先の森の中。
「ここが忍の里」
とうとう、僕らは忍の里らしき場所にたどり着いたのである。
「……ここが忍の里?」
忍の里らしき場所というのは、確かに建物があるからだ。和風で木造の建物があったというのは分かる。
しかし、誰もいない。人の気配を感じないのである。
まるで廃集落だ。
「人がいないのは当然だ!!
彼らは忍。忍とは気配を消して忍ぶ者。彼らの気配も感じれぬようじゃ、まだまだ忍には勝てないな!! ワラワラ」
「いや、ガチでいないじゃん」
「それな。忍を呼んできてよ」
気配の気の字も感じない。
僕としては本物の忍を一目見たかったのに正直ガッカリである。
しかし、スターちゃんは忍を紹介してくれるつもりもないらしい。
「……みんな出掛けたか。よしッ、じゃあ仲間に会いに行こう!!」
そう言って、スターちゃんは一軒の木造建築の家に入っていった。
そして、数分後。
「あれ? エリゴル様じゃないですか。生きてたの!?」
アンドロ・マリウスが前とは違う村娘みたいな格好をして、家の中から現れた。
「やぁ、アンドロ・マリウス。また会えてうれしいよ。よく無事だったね!!」
「ええ、なんとか。あっ、赤羅城さんも無事ですよ。今はあまり元気はないですけど」
「元気がない? あの赤羅城が?」
「ええ、なんだかちょっとだけ様子が変わっちゃって。1人でいる時にボーとしてるっていうか。“ご飯が不味い”からかな?」
「ふむ……あの元気と狂気の塊が放心か」
十二死の亥に負けたのが相当ショックだったのだろうか。それとも、十二死の亥に食べられたことでトラウマになったとか?
はたまた、赤羅城にも人には言えない一面があるのだろうか?
あの家老にだってそういう一面があったし、人前では隠している想いとかも赤羅城にはあるのかもしれない。
赤羅城の様子が心配ではあるが、今はそっとしておくべきなのかもしれない。
あの無敵の怪物じみた彼にだって落ち込みたい時もあるだろう。
少し、時間を開けてから彼を訪ねることにしよう。
「赤羅城にも思うことがあるのかもしれないし。今はそっとしておいてあげるべきかもしれないな」
その最中、フレンドちゃんが「あの狂気殺戮不死身暴走機関車人種職種年齢男女平等主義者にも人間らしい所があるんですかね?」と耳元で言ってきたのは無視するとして……。
「さてさて、今からどうしようか」
このまま忍の里に残っていようか。それともアンドロ・マリウスちゃんの依頼を手伝うべきか。
僕がアンドロ・マリウスちゃんと一緒にいる理由も“帝都へと向かい、王座と聖剣を取り返す”というものだ。
「これからなんて決まってますよ!!
行きましょうエリゴル様!!」
アンドロ・マリウスちゃんが僕の手を持って、里の出口の方へと引っ張ろうとする。
だが、本当にこのまま勝手に行ってもいいものか。正直、僕としては勝手に今動くのは避けておいた方がよい気がするのだ。
「ちょっと待って。やっぱり一度スターちゃんに」
そう言って、僕はアンドロ・マリウスちゃんの動きを止めようとした。
やっぱり勝手に行くのはまずいのではないかと思ったのである。
アンドロ・マリウスちゃんを今度は僕が引っ張っていこう。スターちゃんに聞きに行くのだ。
しかしその時、ふと視界に入ったフレンドちゃんが悩む僕に一言助言をくれた。
「別にいいですよ。フレンドなら今はまだ大丈夫。あの“生意気”の事はほおっておいて行ってきていいですよ。
心配せずとも、あの“生意気”が来たのもそういう理由でしょうし……。伝えておきますよ」
あの生意気というのはスターちゃんであることは分かる。
だが、フレンドちゃんは行ってもいいと言う。これで2対1。多数決では明らかに僕が負けている。
負けているので、アンドロ・マリウスちゃんの意見に乗るしかないのか?
それにフレンドちゃんが僕らが勝手に向かっていくというのを伝えてくれるらしい。
それなら、僕も少しは安心できるかな。
「しょうがないな~。わかったよ。行こうアンドロ・マリウスちゃん」
「えっ……心変わり? 私の押しが効いたのですか?」
正確にはフレンドちゃんの一言だ。でも、それを否定する前にアンドロ・マリウスちゃんは僕の腕を強引に握りしめ、そして引っ張ってくる。
よほど早く帝都へ向かいたいのか、心変わり変りを避けたいからか。
しょうがない。アンドロ・マリウスちゃんの目的に付き合おう。
2人きりの勝手な行動だが、無事にここに戻ってくればいいのだ。
せめて、帝国の中くらいは先にリサーチしておいてもいいはず。
そう思い、僕はアンドロ・マリウスちゃんに連れられてこっそりと忍の里を後にした。




