5 ・帝都グリモアール“王座の間”+帝国レガァリア
ザワ……ザワザワ……ザワザワザワ。
帝都グリモアール。王座の間。
そこにはこの帝都で暮らす様々な上層部の国民が見物人として集まっていた。
「急に会議を行うとはいったい」
「考えてもしょうがないぞ。王の意のままさ」
「はぁ、虹武将様方を間近で見られるなんて。大臣の娘に生まれてよかったわ」
「此度は何事も起こらねばよいが……」
「あの壁に飾られているのが聖剣か。なんて素晴らしいのだろう。あれが伝説の聖剣か……」
ザワザワ……ザワザワ。
そして、時を知らせる鐘が鳴る。
すると、民衆のざわめきはピタリと止まった。時間が来たのだ。数人の兵士がとある人物たちの入室を報告し始める。
「虹武将“紫”。不動の『アガレス』様。ご着席~」
1人がそう告げると、大扉の扉が開き、王座の間に武装した人物が現れた。
「私が最初か。はぁ……お前ら、今日こそちゃんとしてくれよ?」(アガレス)
その人物が王座の間の中央付近に到達すると、それを合図に他の兵士が別の人物の名前を呼ぶ。
そして、名を呼ばれた武装した人物が登場する。
それが人数分繰り返されるのだ。
「虹武将“藍”。友情の『ウヴァル』様。ご着席~」
「そうだ。誰か今夜こそ研究に付き合ってくれないかい?
アイディアが生まれる気がするんだよ!!」(ウヴォル)
「虹武将“青”。天気の『クロケル』様。ご着席~」
「───────いや。私はいや」(クロケル)
「虹武将“緑”。追跡の『バルバトス』様。ご着席~」
「う~ん、ふわぁ~眠い。めんどう。夜は遊びたいんでパス」(バルバトス)
「虹武将“黄”…………」
こうして5人目の名前が呼ばれそうになった時、そこで異変が起きた。
「えっ、ちょっと待って。次は黄?
あーもう。騙したな~。こら、ベリアル!!」(???)
「失礼。訂正いたします。
虹武将“橙”。正直者の『マルコシアス』様。ご着席~」
「ごめんね。ほんとにごめんね。君のせいじゃないんだ。僕の順番が違ってたみたい。ベリアルに騙されたんだよ。嘘じゃないからね!!」(マルコシアス)
こうして、なんとか5人目の名前が呼ばれ終わった。
おそらく、5人目は本来の順番通りにはいかなかったのだろう。
5人目は周囲の人々に頭を下げながら、中央付近に向かっていく。
「虹武将“黄”……」
そして、6人目の名前が呼ばれそうになった時、悪戯の首謀者が他の人物たちとは違い、1人タイミングを早まらせて入ってきたのだ。
「おっと…………己の名は呼ばなくてもいいからね」(???)
6人目は兵士にそう忠告すると、自分で自分の名を口にした。
「さて、己は黄。最強最煌の『ベリアル』。てか、最強の己のことをみんな知ってるだろ?
なんで、みんなの名を呼ばせてるの?」(ベリアル)
不満を言いながら、中央付近へと歩いてくるベリアルという男に、アガレスが渋々訳を説明する。
「いいから座れベリアル。“赤”の『フェネクス』が空いた穴が埋まったんだよ」(アガレス)
「嘘ッ!? あいつが行方知らずだったのは知ってたけどほんとにやめたの!?
友達だと思ってたんだけどな~」(ウヴォル)
「ふーん、そうかい。新入りが来るの。へー、そりゃすごい。そういうことなら静かにしておくよ」(ベリアル)
そして、6人の虹武将が王座の間に到着した。
すると、ここで1人の兵士が告げる。
「えー、皆様方。此度、前代虹武将“赤”の代わりとして新たにその座に座られた者がございます。彼女を紹介しましょう」
「虹武将“赤”……不死身の『フェネクス』様に代わり、新しく入られた者。
新しき虹武将の新メンバーでございます……」
1人の兵士の発言と共に大扉を開けて入ってきたのは1人の女性。
民衆たちや兵士たちや他の虹武将たちにとって、彼女という存在が誰なのかは分かっていない。
「わぁ~。すごい良い所ね。
豪華な内装。素敵な外装。
そして目の前には強そうな強者たち!!」(???)
それは現れた女性にとっても同じなようだ。お互いに初めましての関係だったのだ。
そんな彼女は自分の近くにいた兵士に訪ねる。
「ねぇ、そこのあなた、あたしは誰と殺試合をすれば虹武将として認められるの?
誰の首を取ればいい?」(???)
「いえ、あなた様はもう帝王様も認める虹武将。既にその資格はおありです」
「そっか。まぁいいわ。とにかく彼らがあたしのビジネスパートナーになるわけね?」(???)
兵士と謎の女性とのやり取りを見たアガレスは彼女の正体を理解できたようだが、それを理解してもなお頭を抱えるような素振りを見せた。
あきれてため息までついている。
「はぁ……頭痛がする。やっとバカが消えたと思ったら。また同じレベルのバカだ……」(アガレス)
「へぇー、ねぇ。あなたは何者なの?」(ウヴォル)
6人の虹武将は目の前の女性が何者であるかは理解できたのだが、名前を知らない。
ウヴォルが彼女に名前を問うと、彼女は6人の虹武将たちの顔をちらりと見定めて、そして自己紹介を行った。
「さて、お初にお目にかかります。
戦術は我が愛刀“竜切丸”と【ゴリン流剣術】。
こんな見た目でもあたしはサムライなのです。
虹武将“赤”。斬込の『日雇い侍』。それがあたし!!
巷に流れる何でも屋のレンタルサムライとはあたしのことなのさ☆」(日雇い侍)
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こうして、王座の間に今代の虹武将が全員揃った。
不死身のフェネクスの抜けた穴を埋めて、ようやく7人が揃ったのだ。
赤:斬込の日雇い侍
橙:正直者のマルコシアス
黄:最強最煌のベリアル
緑:追跡のバルバトス
青:天気のクロケル
藍:友情のウヴァル
紫:不動のアガレス
今、ここに虹武将が全員集合したのである。
その勇姿を間近で見ようと、民衆たちがざわめきだす。虹武将が全員揃うという場面を見るのはなかなか珍しいことなのである。そして、民衆たちは特に新入りの姿が気になるようだ。
しかし、その民衆たちのざわめきは兵士たちの声によって静まり返る。
「控えよ!!」
「民は頭を垂れてその場に跪け」
「武将は膝を曲げて忠誠を誓え」
「天に達するのは王のみ」
「我らが帝王の影姿。我らが帝王のお言葉」
「魂に刻み込め、精神に刻み込め」
「帝王は全てであり、帝王は祖である」
「敵意は断罪せよ。邪魔は断罪せよ」
「我らが王は我らにお言葉を賜る刻をくださった」
「この刻とは王の恩赦。故に王にその命を捧げよ」
王座の間にいる全員が正面を見る。
そこに映し出されたのは帝王と思われる人物の影。
帝王はカーテンに隠された玉座に座っている。
姿を見せることなく、玉座から彼らを睨み付ける視線。
圧倒的な威圧感。圧倒的な冷酷さ。
そのお姿が見えずとも、帝王がそこにいることを会場の者共は全身に当たる気圧でピリピリと感じとれた。
そして、帝王が言葉を放つ。
「ご苦労。余のために大義である」
「虹武将よ。これにて7人揃った。より励むがよい」
「余の戴冠の儀は後日行う。準備を済ませておくように。ああ、その際までには“あいつ”を呼び戻しておけ」
「そうだった。
東の方角、“ストルダムス”にて災厄が起こっておる。アガレス、貴様にその処理を命ずる。
西の方角、“バラゴルモア”付近では魔王軍の残党がいるらしい。クロケル、始末を命ずる。
戴冠の儀後、対応するように」
「そして…………いや。そして他国の塵が余の帝国に忍び込んでいるらしい。掃除は貴様らに任せる。以上、また呼ぶ刻があれば呼ぶ」
これにて帝王の発言は終わりの雰囲気。上層部の国民たちは悲しむ様子もあり安堵する様子もあり。
そして自分は失礼を怠ることはなかったと安堵する。此度は誰も殺されないまま終わるかもしれない。そう思ったのであろう。
だが、それは間違いであった。
「上層部の民衆3列目の右より21番目。余の発言中に怪しい動きだ。処理しておけ。
────これで余の言葉は終わりとする」
今度こそ、帝王のお言葉は終わり。先程までいた影姿は消えてしまう。
だが、帝王の発言により1人の上層部の国民が注意を破ったことが周囲にバレてしまった。
帝王のお言葉の邪魔をしてしまったのである。
───────
かわいそうな人。少し咳が出ただけなのに。疑われた。
かわいそうな人。その後すぐに断罪は処されてしまった。




