4・ 『スターちゃん5人衆 つちの』+喧嘩友
僕は誰だっけ?
一瞬、記憶が途切れていた気がする。
たしか、動物たちにご飯をごちそうになったんだっけ?
そして、鬼が島に動物たちとレッツゴー。
いや、たぶんそれは夢だ。じゃあ、現実は……。
「猪……」
そうだった。僕は十二死の亥に食べられたのだ。突然、モルカナ城を襲ってきたサイズアップした十二死の亥にペロリと3人とも丸のみにされてしまったはずだ。
「じゃあ、なんで太陽が見えるんだ?」
僕は地面に寝転がっている。太陽が輝かしくて眩しすぎる。
もしかして、ここは天国なのだろうか。僕は肉として十二死の亥に消化されて死んだのかもしれない。長い旅をしてきて今頃僕の死体は小腸にいるのかもしれない。
「起きろコラァ!!
今何時だと思ってんだ。もうお昼の時間だぜぇぇぇぇ!!」
自分が食べられた後の様子なんて想像したくもなかったから、今こうして大声で邪魔してくれたのはありがたい。
でも、蹴飛ばして起こされるというのは不愉快である。
「やいやい。起こし方ってのを考えろよ。赤羅城!!」
この声の正体は赤羅城だ。赤羅城にしては声がおかしいけれど、あの台詞を言うのは彼しかいない。
こうして赤羅城が無事なのはうれしいと思ったが、蹴飛ばして起こしてきたというのに腹が立った。
しかし、僕の視線の先に赤羅城の姿はなかった。
赤羅城ではない1人の子供がいたのである。
「……似てました? そうですか。ワーイ」
「いや全然。それより誰、お前?」
その子供、黒髪のショートカットで瞳は黄色。
身長は小学生後半くらい、くの一忍装束に青薔薇のような色の帯を着ている。
そして、黒と黄色の五芒星の眼帯と髪止めを着けていた。
僕にとっては初めましての子供である。
「エリゴル人よ。やつがれを知らない!? ガーン」
エリゴル人? やつがれ?
どこかで聞いたことのある言い回しに、僕は思い出そうと記憶を辿ってみる。
そして、思い出せた。そういえば、この声とはモルカナ城で遭遇したことがある。
「───お前、あのときの曲者か!!」
「カギをくれた人とか声だけの人とかの印象であってほしかったけど。まぁいいか。
やつがれはモルカナ国の忍。
名前は…………『スターちゃん5人衆の『つちの』』!!」
「スターちゃん5人衆?」
「『きの』『つちの』『ひの』『かの』『みずの』の5人衆。とっても素晴らしいやつがれの家族なんだぜ」
僕が聞きたかったのはスターちゃん5人衆の紹介ではなく、正体なのだけれど。
そもそも、こいつは味方なのだろうか。
「お前……僕らをどうするつもりだよ」
「? ポカーン
もしかして疑ってるの?」
「ああ、普通当たり前だろ」
「酷いな~。やつがれは命の恩人なんだよ。猪から助けてあげたのに。命の恩人にそんな疑いの目を向けるのかい。ショボーン」
「命の……恩人?」
「やつがれが救い出してあげたんだ。きったねぇ嘔吐物を拭いて着替えさせてあげたんだ。なのに酷いよ悲しいよ。もういいさ。仲間はあっち。やつがれはここで1人寂しく。シクシク」
スターちゃんはそう言うと涙を流しながらその場で体操座りを行って黙りこんでしまった。
もしかしたら言い過ぎたのかもしれない。
出会ってすぐに恩人を疑ってしまったのだ。その恩人は泣きながらうずくまっている。
「なぁ、悪かったよ。スターちゃん。命の恩人なんだね。ごめんよ」
「シクシク」
「ごめんよ。本当にごめん。僕が悪かったです。許してください」
「プンプン」
「ほんと、すいませんでした。申し訳ありませんでした。この罪はどんなことをしてでも償いますので……」
「───どんなことをしてでも?
それって何でもってこと?」
僕の謝罪が効いたのか、ようやく頭を上げてくれたスターちゃん。
僕はスターちゃんの問いを示すようにもう一度謝罪を行おうとする。
「ああ、僕は君のために何で……」
だが、その時。何者かの手が僕の口をふさいだ。気配を感じる暇もなく、まるで一瞬でその場に現れたかのように僕の言葉を遮ったのだ。
「──ダメですよ~。相変わらずフレンドは甘ちゃんですね。口は災いの元です。面倒な要求をされるに決まってますよ」
僕の口をふさいだのはフレンドちゃんだった。いつの間に彼女が着いてきたのかはわからなかったけれど、彼女に会えたのは今の僕の中ではうれしい部類だった。
フレンドちゃんとは【ボヌムノクテム】以降一度も会えていない。
僕と僕の友達とのひさしぶりの再会である。
「おお、ひさしぶりだねフレンドちゃん。心配してたんだぞ」
「それはどうも。私もフレンドに心配されてうれしいですよ。まぁ、それよりこいつは無視しましょ。お仲間が待ってるんですよね?」
フレンドちゃんはそう言って僕の手を握る。そしてスターちゃんに向かってベロを出して……。
「あっかんべー」
……と見るからにかわいい敵対意識をスターちゃんに示した。
すると、スターちゃんも同じようにフレンドちゃんに「あっかんべー」とやり返す。
その状況が数秒続く。そして、とうとう2人のあっかんべー対決を見続けるのも限界に達した僕が2人に声をかける。
「なぁ、そろそろ教えてくれないかい?
ここはどこで。みんなはどこなのか」
「それはやつがれにお任せを。ここの当事者はやつがれ。そこの友達気取りには負けないから。やつがれはスターだから。
さて、いいかい? エリゴル人。
ここは【忍の里】。やつがれの知人がひっそりと暮らす地域さ。保護してるってこと」
「忍の里?
それにしては……」
周囲にはなにもない。
家も人も姿形もない崖付近だ。
「ああ、ここは忍の里付近だよ。忍の里には今から案内してあげる。それよりも見てほしい物があってさ」
スターちゃんはそう言って崖の方向を指差す。
その指の方向を僕とフレンドちゃんが見る。
そこは4つの滝と山に覆われた大地。そして4つの滝を結ぶ中央付近には町も見える。
おそらく、その国土の大きさはモルカナ国の3倍以上の規模の国だ。中には湖も森もある。
そして、石の壁に囲まれた巨大な都市。さらに中央付近には巨大なお城が建設されていた。
そこはこれまで僕が訪れたどの国よりも大きい。ただの国じゃないことは一目瞭然。
「なぁ、あそこは……」
「そうです。エリゴル人。
あの場所こそが【帝国レガァリア】。此度エリゴル人の敵対する国。そして、あの壁の向こうにある都市が【帝都グリモアール】。
強き7人の武将と冷酷な支配者の住む難攻不落の大帝国ですよ。ワクワク」
見ただけでわかる。レベルが違う。圧倒的な都市だ。たぶん、兵力も圧倒的なのだろう。この大陸でも上位にくるほどの国力を持っているに違いない。見たこともない強さの強者もいるのだろう。
だけど、スターちゃんの言う通りだ。勝てる未来が見えなくても、なんだかワクワクしてくるのだ。




