3①・介抱+姉メイド談
申し訳ありません。毎回1時と決めていたのに遅れてしまいました。
賢い人のすなる日記という物をメイドのあたしもしてみむとするなり。
あたしは『姉メイド』。あたしはバカだからよく分からないけれど、賢い人が日記を書くのが流行っているみたい。ただ、罪人のエリゴル様も日記を書いていたのでたぶん賢い人だけがするってわけじゃないらしい。
さて、今日も気を取り直して日記を書いていく。今日は10日ぶりの日記を書く。なぜなら、今日はとても大変な1日だったから。
あたしの朝は『妹メイドちゃん』に起こされる。妹メイドちゃんは本当に賢くて何でもできるあたしの自慢の妹メイドなのだ。
モルカナ国のメイドの朝は早い。あたしは毎朝城内で働いている全ての人に朝の挨拶を行うのが日課である。
朝起きたら朝御飯前の猛ダッシュ。城内すべてを一周しながら「おはよう」と言う旅。
そして、旅が終わったら最後にエリゴル様を起こす。
この日は新入りメイドの『シトリーちゃん』も着いてきたので彼女と共にエリゴル様を“バクチク”で起こしてやった。
その後、シトリーちゃんと別れて、モルカナ国主様のもとへ。
肩を揉んであげて、朝起こし係のボーナスを受けとる。
これであたしの午前の仕事は終了で残りの仕事は午後のあたしが頑張ってくれる。
(その頃、妹メイドちゃんは与えられた仕事を全て終わらせている。さすが、あたしの妹メイドちゃんだ。)
この日は午後までの時間をおじいちゃんと過ごすことにした。おじいちゃんとの遊びはこれまで2年近く続いており、毎週の習い事感覚になっている。おじいちゃんが捕まっていた頃はその行事もできなかったので、その時間を埋めるように遊んであげるのだ。あたしはおじいちゃんには甘いからな。
さて、この日はおじいちゃんからの提案でかくれんぼをした。おじいちゃんが捜す側だと無双してしまうので、シトリーちゃんとおじいちゃんが逃げる側、あたしが捜す側である。
そして、15分後。
あたしは2人を見つけるのを諦めかけていた。ほんとうに見つからないのである。
そこで、あたしはマルバス様か赤羅城様に捜すのを手伝ってもらおうと2人を捜していた。
そんな時、事件が起きたのだ。
禁忌の森の方向から城くらい大きな猪の化け物がモルカナ城に向かって突進してきたのである。
あとは3人の人間が巨大な猪の化け物に喰われてしまったというお話だ。その後、猪はどこか遠くへと逃げていった。
こうして、モルカナ城が災害みたいな被害を受けたのだ。
もちろん、かくれんぼは中止。姿が見えない者たちの捜索作業が始まった。あたしも積極的に参加したさ。
そして時刻は午後へ……。
さいわい、死者はいなかったようだが怪我人はいた。怪我人たちは応急処置のために城内の安全な室外で治療を受けている。
「城門側が瓦礫が散乱しているので城外に連れていくのは危険なのだ。それに城外だって猪の化け物の進行の被害を受けている。ほんとうに安全な場所は城内の室外くらいだろう」って妹メイドちゃん言ってた。
モルカナ城のメイドたちは必死に怪我人の手当てのために働いている。
もちろんあたしとシトリーちゃんも手伝いを頑張った。
そのまま、頑張りすぎて疲れて、2人でヘトヘトになった後、「でも死者がいなくて……生きててよかった」なんて休憩しながらホッと一安心していた。
「姉メイドちゃん。おじい……家老さん大丈夫かな?」
「あたしはおじいちゃんなら大丈夫だと思うけど。あの人ほんとうに強い人だしね」
あれから国主様やマルバス様やバティン様やおじいちゃんの姿を見ていない。あの人たちならこれくらいじゃ死なない気がするが、それでも少し心配にはなるのだ。
しかし、心配しようとすると他の者に意識が向けられてしまう。
「手伝いましょう。なにか運ぶ物は?」
「これで怪我は無事です」
「誰か人手を瓦礫を退かすぞ」
「包帯が足りない。城内から探して」
「食料庫は無事だがしばらくは食料が必要になる。誰か在庫の確認を」
今もみんなは必死になって頑張っている。
人々が慌ただしそうに動いている様子がこの場所からはよく見える。
「シトリーちゃん。そろそろ休憩も終わりにする?」
「えっ? いいですけど」
そろそろあたしたちも手伝いを再開しなければならないなと思ったのだ。
妹メイドちゃんばかりに負けてはいられない。あたしだってやれることをやろうと思ったのである。
さて、休憩は終わり。ここから再び働く時間だ。
そんな時、あたしはふと集団の中に見知らぬ男性がいるのに気づいた。
「あれ?」
シトリーちゃんや他のメイドたちは気づかないのだろう。だが、毎朝城内の全員に挨拶を行っているあたしだから分かったのだ。
城外から来た新しい人だろうか。
厄介な案件持ちの客人のようにあたしが挨拶していた朝はいなかった人だったのだろうか。
「みなさん無事ですか? 外から水を持ってきました」
男はそう言って担いでいた大きな樽を地面に置く。どうやら中には水が入っているらしい。
「ああ、ありがとう。とりあえず中を確認してもいいかい?」
1人の奉公人が中身を確認する。
柄杓に掬った中身は普通の水だ。ほんとうに普通の水だ。
「うん、これならしばらくの貯蓄になるはずだ。助かったよ。いくらだい?」
「お代は国主様よりすでに頂いております。
先程、国主様と城外で会いまして。被害に対処しておられるのですよ。なのでこれから確認次第食料は来ると思いますよ」
「さすが国主様」
「行動がお早い」
「あの方はやはり特別だからな」
「よかった。しばらくは水も止まっているだろうから助かった」
「後で城外に出られたら炊き出しをしなきゃ」
みんなは水商人の男の言うことを信じて、彼の持ってきた樽を食料庫へと、運び始める。
これで水商人の仕事も終わりなのだろう。
「それではぼくはこれで帰りますね……」
そう言って、この場から立ち去ろうとする水商人の男。
「ちょっと待って!!」
そんな彼に声をかけて水商人を立ち止まらせたのは、先程の1人の奉公人だった。
そんな彼の声かけでついでに樽を運び始めていた者たちも足を止めている。
「どうやって帰るつもりだい?
城門側は瓦礫で今は城外に出るのは難しい。もう少し待っていきなさい」
「いえいえ、城外に出るのは他の道もあるようで。瓦礫が少なく通れる道を探してみますよ」
「なるほどね……国主様から教えてもらったと。では、それともう1つ。……君はいつ来たんだい?」
1人の奉公人が水商人を疑い始めている。水商人のことを疑っている。
実はモルカナ国に入るのには普通の人は城門側からしか出入りすることができない。
馬車用の橋は城門側とは反対側にあるが、城内から開ける指示を出していないので今は開けられない。
かといって隠し通路を教えるほど国主様は迂闊ではないはずだ。あの人は国民を信用しているから。
つまり、水商人がここに来るためには、襲撃前に先に入り込むか、何らかの方法で入り込んできたかしかないのだ。
「みんな、そいつ!!
朝いない人!! 部外者だ!!」
そこにあたしの発言が重なる。
そして、水商人は何らかの方法で入り込んできた者として認識される。
つまり、ただ者ではない。水商人はただの一般人ではないはずだ。
「────あらま。モブの癖に。
そうやって、人の好意を疑うなんてぼくに対する加害問題だぞ。他の人にはやめといた方がいいよそれ。
アーアー、このぼくがわざわざ外国から手助けに来てやったのに。興が冷めた。もういいや」




