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2①・『アンドロ・マリウス』+動き出す

 「嫌です!!

(国主ではない自分には決めることができないのです)」


思っていることと言いたいことが逆になってしまった。

“帝都へと向かい、王座と聖剣を取り返す”……。

それが『アンドロ・マリウス』という女性からのお願いだ。


その女性は明るいミルクティーみたいな色の髪でハーフアップのような髪型である。

その顔は小顔であり、青い瞳、耳にはイヤリング。

その服は白と青の貴族のような和風の戦闘用の服みたいなかっこいい着物を着ている。


それがアンドロ・マリウスという今回の面倒な案件持ちの客人だ。

正直、僕もこんな美人さんが僕を頼ってきてくれてうれしいという気持ちはある。

僕の噂を聞いてやって来てくれたらしいので、僕もそんなに有名人になったのかと自分を誉めたくなってしまう。

しかし、案件の内容が本当に面倒なイメージしか湧いてこない。

まず、帝都に向かう。次に、王座を取り返す。そして、聖剣を取り返す。

やることが多いし、危険度が高い。

帝都にモルカナ国が喧嘩を売るような物である。常識的に帝都に逆らうのはまずいと僕も理解はできている。

帝都って怖いイメージしかないし……。


「そっか……」


「あ…………悪いけど、帝都と戦争をしたいなんて思わないよ。頼ってくれたことは嬉しいけどさ。他を当たってくれないかな?」


「ですが、モルカナ国はいずれ帝都を潰すと風の噂で聞いたのですよ?」


「それは嘘。嘘の噂だよ!!」


「そうですよね……それはすみませんです。あはは、そうですよね。帝都に逆らうのはまずいですもん」


アンドロ・マリウスは目の前に置かれたお茶を飲み干してそう言った。

その表情はやっぱりかというような諦めの表情である。

彼女自身も分かっているのかもしれない。もしかしたらダメ元で頼みに来たのかもしれない。

そう思うと助けてあげたいと心が揺らぎそうになる。でも、僕が勝手に彼女を助けたらモルカナ国に迷惑がかかるのも分かっている。

それは側にいた赤羅城も同じ心境なようだ。


「なぁ、そういうこった。ご客人。

モルカナ国は帝都に向かわねぇ。悪いな」


「いえいえ、私の無駄なあがきなのです。むしろこれで良いのかもしれません……」


アンドロ・マリウスはソファから立ち上がると僕ら2人に深々とお辞儀を行った。

僕だって助けてはあげたい。でも、帝都はこの大陸を管理しているくらいすごい場所だ。

そこに逆らうのは危険。これはモルカナ国を守るために仕方がない選択なのだ。


「それではこれでさようなら」


アンドロ・マリウスが立ち去ろうとする。この部屋から立ち去ろうとする。

彼女の表情は悲しみの表情だった。

彼女は僕の噂を聞いて、諦めながらもやって来てくれたのだろう。こんなモルカナ国という一国なんかに期待してきてくれたのだろう。

アンドロ・マリウスとももう出会うこともないだろう。僕の心には助けてあげたかったけど仕方がなかったという後悔の念が残り続けるだろう。


「あいつならどうしてたかな……?」


小声で呟く。あの別れた親友ならどうしていただろう。

あいつなら、きっと……。


「待て!!」


過大評価しすぎですよと怒られるかもしれない。けれど、僕の親友ならここで見捨てない。出会って一瞬だったシトリーを助けてほしいと大人を頼りまくっていたあいつ。

僕を守るために赤羅城を殺人未遂したあいつ。

みんなを逃がすために“自称天才”と共に逃げ道を作ってくれたあいつ。

あいつならきっと見捨てない。


「アンドロ・マリウスさん。僕が行こう」


「は? 罪人先輩。あんた何言ってるのか分かってんのか?」


赤羅城が僕の発言に驚き、アンドロ・マリウスは僕の発言に俯いていた顔をあげた。


「彼女は僕を頼ってきたんだ。僕が行くのは勝手だろ? 国の意志じゃない」


「確かにそうだけどよ。俺らはモルカナ国で暮らしている身分だぜ?」


「そうさ。僕らは住人だ。でも、僕らはモルカナ国民じゃない。

─────僕は罪人だよ」


「はぁ~なるほどなぁ」


「僕は脱獄する。僕は罪人の身分なんだ。A級犯罪者だ。もう罪を重ね放題じゃぁないか。

あとは堕ちる罪状ところまで堕ちていくさ」




 こうして覚悟は決まった。僕はモルカナ国から脱獄する。罪人として脱獄する。

アンドロ・マリウスとともに帝都と渡り合ってやる。


「というわけだ。アンドロ・マリウス。僕を求めて来たのなら僕はそれに答えるのさ」


「えっ…………本気ですか? マジで言ってんの?」


「マジ。本気。真剣」


「…………えっと。ありがとうございます」


いまだにアンドロ・マリウスは僕の決意を疑っている様子だ。

だからこそ、僕はその決意を示すために彼女の手を取り握手を行う。


「僕は君を助けるよ。罪人だけどよろしくね」


「あっ……はい。よろしくお願いします」


「ヨシ、それじゃあ気合い入れるか」


握手が赤羅城によって手のひらを重ねる行為になってしまった。

僕とアンドロ・マリウスは赤羅城を見る、赤羅城は僕とアンドロ・マリウスを見る。


「「来るの?」」


「当然だろうが。敵がいるんだろ?

罪人先輩だけじゃアマアマだからな。人種職種年齢男女平等主義者のこの俺がいなきゃよ。

縛りもねぇ。久々の皆殺しだぜ!!」


こうして僕と赤羅城がアンドロ・マリウスの仲間になった。

たしかに、1人では不安だったので知り合いがいるのは正直ありがたい。

ここに、罪人コンビ+aの結成である。



───────────


 さて、そんな罪人コンビ+aの結成という記念すべき時間はあっという間に終わってしまった。

部屋のドアを勢いよく開けて1人の少女が大声で叫ぶ。


「大変タイヘンたいへん!!」


姉メイドちゃんがひどく慌てた様子で現れたのである。

正直、これまでの僕らの会話を聞かれたのかとビビってしまったが、どうやらそうではないらしい。

ほんとうにひどく慌てている。


「どうしたの? 姉メイドちゃん?」


「急いで逃げて。ヤバイんだ。ヤバイのが今!!」


「落ち着いてよ。姉メイドちゃん。他の人は一緒じゃないの?」


「おじいちゃんとシトリーちゃんとはかくれんぼして遊んでる最中だからいないの」


「そっか。じゃあ落ち着いて話してくれないかな? 何があったんだい?」


「外!! 町の外にヤバイのが!! 禁忌の森の方角!!」


その言葉を聞いた瞬間に僕は嫌な予感を感じてしまった。

禁忌の森……。

あそこは僕にとって嫌いな場所ナンバーワンな場所だ。いまだにトラウマな場所である。


「いったい何が……!?」


ゴゴゴゴッ

ゴゴゴゴッ

ゴゴゴゴッ


何かの音が聴こえる。それはまるで地響き。こちらに向かってくる足音。


「来た……!!」


「来たって何がだい。姉メイドちゃん!!」


「化獣……。建物以上の大きさの巨大なッ!!」


そこで姉メイドちゃんの発言は途切れてしまった。地震のような衝撃で部屋全体が揺れたのである。

モルカナ城自体が攻撃されたのだ。




 一度の大きな揺れ。

僕は姉メイドちゃんを庇うように抱きつく。

さいわい、僕らの命は無事だったが、部屋はもうボロボロだ。

みんなは怪我を負っていないか?

僕は周囲を見渡す。だが、その最中に4人は同じ方向に目がいった。

僕とアンドロ・マリウスと赤羅城と姉メイドちゃんは見たのだ。

壁には巨大な柱くらいの大きさの牙が突き刺さっている。

そして、その牙は壁をぶち壊す。

壁は壊れ、外と城内との境界が崩れる。


「クチャクチャクチャクチャ!!!!!」


懐かしい。威嚇の声。

思い出したくもない。嫌な音。

奴と僕らとの目が合う。

奴は僕が殺したはずだった。禁忌の森の一騎討ちで倒したはずだった。

そいつが僕らの前にいる。僕以外の3人はおそらく初めて出会うのだろう。

ブハーッという鼻息が僕らに向かい風となって吹き荒れる。

奴はリベンジをしに来たのだろうか。この僕やシトリーと再び出会うために復活したのだろうか。


「ひさしぶりだな」


これ以上言葉がでない。

僕らの目の前には巨大な巨大な化け物。シトリーを狙っていた化け物猪。

『十二死の亥』。それがこの大怪獣の正体だ。

その瞳はちっぽけな僕らを睨んでいる。

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今回の話もどうかあなたの暇潰しとして役にたちますように…。 気に入っていただけたら是非評価でもポチッと押していただけませんでしょうか。モチベーションに繋がりますので…。星1でも構いません!! ★これ以外の作品☆付喪神の力で闘う付喪人シリーズ
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