1②・3人の少女と謎のカギ+新しき夢
家老マルファスと2人のメイドさんが触れあっている現場に突入。
マルファスはどうやら僕にこの事を知られたのがよほどショックだったのか、固まってしまっている。
僕は一旦、固まってしまったマルファスを無視してメイドさんたちに挨拶を行った。
「おっと、何故か偶然2人のメイドちゃんがいるな。
やぁ、『姉メイドさん』に『シトリーちゃん』。こんなところにいたのかい」
僕の視線の先には、固まっているマルファスと僕に気づき手を振る姉メイドさんと同じく手を振るシトリーちゃん。
そう、見習いメイドというのはシトリーちゃんのことなのだ。
【モルカナ】と【ボヌムノクテム】で色々とあった少女である。
現在は見習いメイドとして働いており、姉メイドさんの弟子(監視役)として頑張っているのだ。
「エリゴルお兄さん!! どうしたの!? おはよう!!」
「おーエリゴル様。久しぶりだな。今日も元気そうだ。姉メイドとしてうれしいぞ」
「僕も2人に会えてうれしいよ。2人とも元気そうで何よりだとも」
2人のメイドさんとの挨拶を交わし、そしてマルファスの方にも視線を向ける。マルファスはまだ固まっていた。
「貴様……どこまで見てた?」
「さぁね。それより客人との会談は僕がやっておこうか? “おじいちゃん”?」
「……ッ!?!?」
自分自身をおじいちゃんとしてメイドさんたちと振る舞おうとしていたマルファス。
普段の堅苦しい印象とは違う、姉メイドさんたちとの時にしか見せない顔を僕が知ってしまったのだ。
マルファスは僕の事がいまだにあまり好きではないらしい。
【A級裁判】と【アンビディオ】での一件があったからだろう。前よりは少し距離感は縮んだ気はするが、それでもまだまだだ。
だから、マルファスにとっては僕に知られたことが辛いのである。
さて、これ以上マルファスとの仲を悪くするというのも望まないので、僕は彼の代わりに客人との会談に向かおうと考えた。僕個人の勝手な判断である。
ヴィネの言っていた面倒な案件持ちの客人との会談だ。
もしかしてヴィネはこうして僕が代わりに向かうことを知っていて、僕に教えてくれたのだろうか。
「いや、さすがにそれは考えすぎだな」
家老マルファスから教えてもらった部屋までは意外とすぐ近くの距離だ。
この広い城内を移動するだけで体力を消費するので、正直ありがたい。
「でも、シトリーちゃんに面倒な案件持ちの客人、あと1人の新人って誰なんだろうな?」
ふとヴィネから言われた言葉を思い出す。
今から会いに行くのは面倒な案件持ちの客人だが、じゃあ残りの新人っていったい誰なのだろう。
まぁ、そのうち会えるか。まずは面倒な案件持ちの客人との会談に集中しなければいけない。
そう思い、僕は部屋のドアを開けようとする。
その時、どこからか声が聞こえてきた。
「その扉は開けない方がいい。やつがれはおすすめしない。あなたの魂は安らぎを得られない。やつがれは忠告する」
それは初めて聞く人物の声だった。
その声の主を探すために僕は周囲を見渡してみる。だが、周囲には誰もいない。
「誰だ? 何者だ?」
「やつがれはどこにでも潜んでいる。潜んで忍んでいる」
「まさか、曲者か!!
者共、出会えい!! 出会えい!!
曲者だ!!!!」
「ちょっ……待って。それはいけん。やつがれは味方だぞ。やつがれは噂の新人さんだぞ」
「嘘つくなよ。じゃあ姿を見せろよ。証明してみろよ」
「やつがれは今忙しいのだ。姿は見せられない。やつがれは移動している最中に凡人人がいたからからかっただけだぞ」
「まさか凡人人って僕か!?
僕はエリゴル・ヴァスターだ」
「そうかエリゴル人。なぁエリゴル人、お前はどうしても扉を開けるのか?」
「えっ、うん。面倒な案件持ちの客人との会談があるらしいんだ。」
「なら、これを持っていくがよい」
天井の隙間から何かが落ちてくる。
僕がそれを拾って見てみると、どうやらそれは何かのカギだったようだ。
初めて見る柄のカギである。そのカギに描かれている絵は蛇なのか竜なのかもわからない。
「なにこれ。このドアのカギ?」
「いいや。そのカギは他の場所のカギだ。お前に渡せともらった物だ」
この謎の声の人物はいったい誰からこのカギを受け取ったのだろうか。
謎が多すぎる。というか、謎の声の人物についての情報も無さすぎる。
「なぁ、このカギってどこのカギなの?
そして、誰から僕に渡すように言われたの?」
「それはわからない。やつがれにもわからない。けれど、そのカギは大切に。その日が来たらカギを使いなさい」
「そうか、それじゃあ最後に。あんたは誰なんだ?」
「…………」
無音になってしまった。謎の声は何も答えてくれなくなった。もうこの場から立ち去ったのだろうか。
しばらく、天井を眺めてみたが、本当に何の反応もない。
僕は謎の声の人物との関わりを諦めて、僕は部屋のドアを開けることにした。
扉を開けるまでの時間が長すぎた。
これにて、“見習いメイド”と“新人”という人物と合流した。これでヴィネの言っていた人物の3人中2人と出会ったことになる。さて、面倒な案件持ちの客人との会談だ。
「遅れてすみません。お客さん」
扉を開けて僕は部屋の中に入る。
応接間のように長机とソファが2つ置かれた部屋。そこには赤羅城と1人の女性が座っていた。
「おう、罪人先輩じゃねぇか。珍しいな。もしかして国主の代わりに来たのか?」
僕が部屋に入ってくると、赤羅城はソファから振り返って僕の登場を待っていたかのように安心した表情を浮かべている。
いつもは猪突猛進な性格の彼が、今回はなぜか疲れているみたいな表情だ。
一方、もう一人は知らない人物。
「私の名前はえっと……『アンドロ・マリウス』と申します」
その女性は明るいミルクティーみたいな色の髪でハーフアップのような髪型である。
その顔は小顔であり、青い瞳、耳にはイヤリング。
その服は白と青の貴族のような和風の戦闘用の服みたいなかっこいい着物を着ていた。
そんな美女が面倒な案件持ちの客人らしい。美女は早速僕にお願いを行ってきたのだ。
「あの数々の国で化獣を倒したというエリゴル様の噂を聞き、お願いをしに来ました。
どうかお願いです。私と共に帝都へと向かい、王座と聖剣を取り返しては頂けないでしょうか?」
僕の噂を聞きつけてやって来たという美女。しかし、その内容と言うのはヴィネの言う通りだった。
ほんとに、面倒な案件を持ってきやがった。




