1①・おはよう+新しき夢
夢を見た。
僕はどこか知らない城内を走っている。まるで何かから逃げるように僕は走っている。
曲がり角を曲がる度に、僕は目に入る光景から目を逸らしていく。
バティン、赤羅城の2人が血を流して倒れているのだ。
僕は2人を見捨てて自分の身を守るために逃げる。
「初めから4人でなんて無理だったのかもしれねぇな。エリゴル、オレに任せて逃げろよ」
何かに後悔しながら逃げていると、マルバスの声が僕の耳に聴こえてくる。
だが、そのマルバスも傷だらけ、立っているのもやっとなのに、7人を相手にこれから戦うなんて無理だ。モルカナ国の精鋭では敵うわけがない。敵は強いのだ。差がありすぎたのだ。
それでもマルバスは逃げようとはしない。彼女が見つめる先には7人の武将たち。
赤:不死身のフェネクス
橙:正直者のマルコシアス
黄:最強最煌のベリアル
緑:追跡のバルバトス
青:天気のクロケル
藍:友情のウヴァル
紫:不動のアガレス
……という計7人である。
「ごめんね。わたしたちも仕事なんだ。女王の命令は絶対だ」
7人のうちの1人が告げる。
そして、その7人の男性に1人の女性が声をかける。
「数は知らん。だが全て綺麗にしておけ。貴様らなら身内の顔は判別できろう」
7人がこちらへと向かってくる。マルバスが最期の特攻とばかりに立ち向かう。
そんな夢を見ていたのだ。
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「クョエルル!?!?!?」
目覚めた瞬間に、僕が異世界生物みたいな変な声を出したのはうなされていたからではない。
確かに、先程の夢は異質というか、リアリティーがあって不安になったけれど……。
それだけで、こんな汚い悲鳴をあげて目覚めるわけがない。
「…………うわっ!?」とかいう悲鳴ならまだ分かる。うなされいたということはだいたい理解できる。
でも、さすがに「クョエルル!?」はないだろ。
絶対、夢からの帰還で出せる声じゃない。これは外部的攻撃だな!?
僕はそのことを悲鳴をあげて1秒で気づいた。
「君。人が話をしている最中に寝るって珍しいね。せっかく、男同士の付き合いの最中だ。寝たらのぼせちゃうよよ」
だが、攻撃されたわけではなかったらしい。
そして、ここは大浴場。
僕はモルカナ城の大浴場の浴槽の中で眠りそうになっていたのだ。
それをモルカナ国の国主ヴィネが起こしてくれただけだ。
危うく、浴槽の中で寝てしまうところだったらしい。
「ああ、ごめん。ヴィネさん。助かるわ」
「うむ、距離感が近いのは良いのだけれど。私と君は国主と罪人だよよ」
「そうは言ってもあんた敬語とかまったく気にしてないよね?」
「あっ、バレた?
私は敬語でもタメ口でもウェルカムなタイプさ。
まぁ、私が国主だって君も忘れてそうだし、思い出させるためにね」
「忘れないよ。
それより本題良いかい。話したい事があるんだけど」
「ああ、話す場所をお風呂に指定したのは私だ。話してくれたまえ。
ただし、君が話せる範囲でだよよ?」
どうやらヴィネには僕が秘密を持っている事が薄々勘づかれているらしい。
それでも、僕は“僕の未来予知”と“元の世界”と“アモン・ゴエティーア”に関する話題以外の全てをヴィネに話した。
【ボヌムノクテム】での物語を……。
僕がボヌムノクテムでの話を語り終える。
「なるほどねぇ。そういう結末か。そうなるか」
ヴィネさんは僕の話を聞き終えると、少し悩んでいるような様子を見せた。
「だから最近の君は少し寂しそうなのか。そうか。あの子がね。うむ……」
「あんたとも少しは面識があったみたいだし。伝えとこうと思ったんです」
「ああ、ありがとうね。いつかはあると考えていたが。まさか今別れが。
これは私も少し考えねばならないね」
「話はこれだけだったので。お風呂に移動してもあまり意味がなかったですね」
「いや、そうでもないよよ。私も君に言っておきたいことがあったんだよよ」
言っておきたいこと?
「モルカナ城内で君がいない間に変わった事があってね。
まず、“見習いメイド”が1人増えた。
次に、“新人”を採用した。
最後に、“面倒な案件持ちの客人”だ」
どうやら3人の新しい人物がモルカナ城内にはいるらしい。
さて、では会いに行ってみよう。新しい3人の人物たちとの出会いだ。
僕は大浴場から上がり、ヴィネさんと別れた。今から1人目に会いに行く。
まず、僕が向かうのは裏庭の辺り。ここら辺には確か……モルカナ国の家老『マルファス・ラ・ドラグ』の部屋があったはず。
「あそぼうー、じいさん。今日もあたしたちとあそぼうぜー。あそぶぞー」
「メイド先輩。家老さんが困っちゃうよ……私が仕事しておくから。私は人数に入れないでいいよ」
少女2人の声が聞こえる。やはり、ここだった。2人のメイドちゃんがサボっているとすれば人目の少ないこの場所くらいのはずだ。
そして、どうやらマルファスが少女2人に絡まれているらしい。
「落ち着きなさい。職務を放棄するとはモルカナのメイドとして恥ずべき事で……。
コラコラ、やめなされ。ワシは今日客人との会談が……。
ああ、抱きつくな。引っ張るな。甘えるな。肩揉むな。やめなされ。やめなされ。
あー、わかったわかった。今日もおじいちゃんが遊んでやろう。さて、2人は何がしたいんだい?」
マルファスが子供には甘いという一面があるのは知らなかった。
いつもはお堅い印象なのだが、まぁマルファスかられば2人は孫みたいな物なのだろう。
2人のメイドさんが懐いてくるのがかわいいのだ。
あの人には冷静沈着の不動な堅苦しい印象を抱いていたのに、意外と子供好きだったことを隠していたとは……。
さて、これ以上僕の中でのマルファスの印象を壊してもよいものか。
マルファスも僕にこんなことを知られたら恥ずかしく思ってしまうだろう。
このまま、3人の前に姿を現すのはお邪魔になりそうだから、今はやめておいた方がいいのかもしれない。
いや、それは惜しい。
「マルファス~。新入りメイド知らない~?」
何も聞いていない振りをして僕は颯爽とマルファスたちの前に姿を現す。
僕はマルファスと2人のメイドの様子を見ることにしたのだ。
───マルファスは固まってしまった。




