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17②・さようならは言わない+丑の刻の終わり

 「バラされちゃったか。

いや~エリゴルさん。我ながらあまり伏線を作らないように努力してきたせいですかね。まさか、あちらは知ってたとは……。案外、匂いで気づいたんでしょうかね。

そう私、性別不明の謎のただの人力車屋さん『セーレ・キユリー』は『十二死の丑』という特徴持ちだったのです!!!!」


今となっては嬉しくない情報だ。

しかし、ふと思い出した。【ネゴーティウム】での『おそらく、この匂いを邪気の匂いだと判断できる者は過去に奴らに出会った者かくらいだろう。記憶していないと刻み込まれないと判断できない。』という僕の気づき、そしてキユリーの『禁忌の森の時みたいな嫌な匂いが匂ってきます……』という発言。

他にも伏線はいくつか存在していた。それに僕は気づけなかったのだ。

モルカナ国からずっと一緒にいた仲なのに気づいてあげられなかった。


「あは……嬉しくねぇよ。そんな発表……気づけねぇよバカ」


「むむ……。まぁ、とにかくプルフラスのことは任せてくださいよ」


おそらく、キユリーはプルフラスと一緒に、ここに残って足止めでも行うつもりなのだろう。

それは僕の意見とは反している。

キユリーが十二死で、狙われている片方で、人間よりも強く、プルフラスの手助けをしなければいけない。キユリーはこの場に残らないといけない役目を背負わされている。

だから、キユリーに任せて逃げる。キユリーを置いていく。

そんなの許せるわけがない……。


「───ダメだ。お前が十二死の丑だったとしても僕は見捨てない。お前のことが大好きだからな!!」


冗談じゃない。キユリーが他の人間と違っていたとしても、キユリーは人間だ。

ただの人間を置いて逃げるなんて、そんなこと僕はしたくない。

僕の大好きなキユリーを置いていくつもりもない。

だが、キユリーは一向に僕の意見を聞いてはくれなかった。


「いいえ、だめです。私は残ります。

謎の高身長年齢上の女性さん。2人を連れて逃げてくださいね」


謎の高身長年齢上の女性がキユリーから僕の体を預かり、担ぎ上げる。


「おい、謎の高身長年齢上の女性!!

離せよ!!」


「ふん……貴様。黙っててこのガキの言うこと聞いてやれ」


何故だ。何故みんな分かってくれないんだ。

キユリーをこの場に置いていくなんて本当に危険な状況なのに……。

なんで、キユリーも謎の高身長年齢上の女性も分かってくれないんだろう。

ヤバい。このままでは本当にキユリーが置いていかれてしまう。


「(それだけは嫌なんだ)」


だから、僕は担ぎ上げられている状態で、キユリーの腕を掴んだ。


「……キユリー。逃げよう。な?」


「エリゴルさん……。必ず追い付いてきますからね。必ず戻ります。

少しの間ですから、私に時間をください」


「嫌だ……」


キユリーからのお願いに僕は思わず手を離しそうになる。しかし、離さない。離すもんか。


「エリゴル!!(謎の高身長年齢上の女性)」

「エリゴルくん!!(プルフラス)」


2人からの呼び掛けにも僕は答えない。

ここで周囲の意見に流されて手を離したら、キユリーと別れることになってしまう。

僕は自分の意見を曲げるつもりはない。

そうだ。きっといい方法があるはずだ。

キユリーが残ることなく、この場の状況を解決する方法があるはずだ。

考えろ。考えろ。なにか良いアイディアがあるはずなんだ。


「エリゴルさん……」


キユリーの声が震えている。僕を呼ぶ声が震えている。

やっぱり、キユリーは困っている。僕の反抗に困っている。

でも、キユリーを困らせてでも僕はキユリーを置いていきたくないんだ。

こんな別れ方なんて冗談じゃない。

僕はまだまだキユリーと話をしていたいんだ。僕はまだまだキユリーとの日々を欲しているんだ。

僕はまだまだキユリーに恩を返し終わっていないんだ。

僕にはキユリーとの時間が足りない。

これからもキユリーとはバカやって喧嘩して笑っていたかった。

これまでのキユリーと過ごす時間が本当に楽しかったんだ。


「お前を手放すなんて…………嫌なんだよ……」


だが、結局、無理だった。キユリーからのお願いを断る自分も辛かったのだ。

今の僕はキユリーの足を引っ張っている。その自覚はもちろん存在している。

だからこそ、僕は罪悪感からキユリーの表情を見るために頭を上げた。


「お願いです。

私を……信じてくださいよ」


ああ、その表情で言われちゃ、僕はもう断れない。

そんなキユリーの顔を僕は見たくないのだ。そんな顔をしてほしくないんだ。

キユリーは笑って焦って怒って笑っている。その顔が一番似合っている。

じゃあ、これがキユリーのためにも……。


「─────ああ、わかったよ」


負けた。でも、キユリーと別れるつもりなんて微塵もない。ここでキユリーとの日々を終わらせるつもりなんてない。


「その代わり、絶対に戻れよ。お前の性別を知れてないし。それに…………それにお前は僕の親友なんだからな!!」


キユリーから手を離す。

キユリーは返答の代わりに笑う。別れは笑顔で終わらせるつもりのようだ。でも、キユリーは泣いていた。涙を流しながら、笑顔で見送ってくれた。返事を返してくれた。


「はい!!」


その隙を見て、謎の高身長年齢上の女性は階段をかけ下りる。

僕の記憶に最後に残ったキユリーの顔は笑顔だった。

その後のことは僕は知らない。プルフラスとキユリーがどうなったかはわからない。

───夢の中の国での出来事はこうして幕を閉じたのである。




────────────



 神社の境内には3人。キユリーとプルフラス、そしてフォカロル・ハーデスの計3人だ。


「すまないね。十二死の丑。介護を頼むよ」


「プルフラス……我らがご主人様。私の名前はキユリーです」


「ああ、すまない。気を付けるよ」


「我らがご主人様。まだゲートを開いたままでいられますか?」


「ああ、もちろん。天才の僕にできないことはない。まだ死ぬわけにはいかないからね。命尽きるまで粘ってみるさ」


「それはよかったです。あなたはゲートに集中してください。私が出来るだけあいつを足止めします」


今にも倒れそうになりながらも立てているプルフラスの体をキユリーは支える。プルフラスは口から出てきた血を袖で拭き取る。

そして、2人はフォカロルの姿を見た。


「おいおい、ただの丑風情がぼくに敵うと?

プルフラスを瀕死に追い込んだぼくにお前ら十二死程度が?」


フォカロルはすでに戦闘準備を整えていた。宙に浮いた水の足場を利用して、彼は上空にいる。彼の背後には水で作った竜が5匹。そして巨大な水珠。

明らかに、プルフラスとキユリーを殺すつもりなのが見てとれる。

そんな危機的な状況でも、キユリーは命乞いをするような奴ではない。キユリーは命の危機に瀕しても、言いたいことを言う奴なのだ。


「不意打ち・細工・内臓破壊・さらにはゲートに関する魔力の集中消費・あちらとこちらの世界を渡った負担……。これを1日で受けている。そりゃ誰でも瀕死にはなりますよ。

我らがご主人様は悪くない。

それよりも私はあなたみたいな卑怯者が嫌いです」



「ふん。卑怯者で結構!!

勝てばいいだけ。勝った者が全て。貴様ら過去の遺産どもは、ぼくらに利用されて朽ち果てろ!!

これで丑の刻は終わりだ!!」



「来るよキユリー。天才の僕の体を頼む。今ゲートを閉じるわけにはいかない。

みんなが逃げるまでの間だけでいい。

天才の僕の体を護ってくれ」


「はい!! このキユリーにおまかせください」


水行の使者フォカロルとキユリー&プルフラスがぶつかる。

その闘いの結果を知る者はこの夢の中の国には1人としていない。




──────────


 目が覚めた。目を開けるといつも通りベッドの上だった。

元の世界のベッドの上でも、夢の中の国でもない。

戻ってこれたんだ。モルカナ国に。僕らの国に。


「エリゴル様もマルバス様も目覚めた。みんなーー!!」


姉メイドちゃんがなにやら嬉しそうに城内を駆け回っている。

だが、安心したのもつかの間の時間。


「……キユリー!?」


僕はベッドから飛び起きる。

キユリーを捜すためだ。きっとこの城内のどこかにいるはずだ。

そして、城内を汲まなく捜してみた。キユリーの部屋も中庭も食堂もトイレも城下町も。

1日かけてひたすら捜し続けた。人に尋ね続けた。

しかし、キユリーはどこにもいない。キユリーはこの国では見つからない。


「キユリー。バカ野郎……」


この日から僕がキユリーの姿を見ることはなかった。

あれから数日たっても。

キユリーは今日も帰ってこない……。

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今回の話もどうかあなたの暇潰しとして役にたちますように…。 気に入っていただけたら是非評価でもポチッと押していただけませんでしょうか。モチベーションに繋がりますので…。星1でも構いません!! ★これ以外の作品☆付喪神の力で闘う付喪人シリーズ
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