17①・★+丑の刻の終わり
プルフラスを倒した青年。最後の最後で十二死の未をかっさらおうという魂胆なのだろう。
彼は細身の体つきで、ボサボサでもかといって整えられてもいないような水色の髪、雰囲気はイケメンでもなく不細工でもない凡人のようで、服装も豪華でもなく。唯一の特徴と言えば赤い木の実のようなピアスを両耳に着けているか、右目の下に小さなほくろがあるくらい。どこにでもいそうなただの平凡な僕みたいな男であった。
その青年の名前は『フォカロル・ハーデス』。
犯罪組織【闇星】水行の使者を名乗る男である。
アンビディオでは僕の仲間の妹メイドさんを襲った。憎らしい相手だ。
それよりも今はプルフラスがヤバい。プルフラスの腹部からは大量の血が流れ落ちている。倒れてもおかしくないほどの重傷なのに、プルフラスは立ち続けた。
すると、フォカロルは指を銃の形にしてプルフラスに向ける。そこから水滴が銃弾のように放たれて、プルフラスの肉体を貫通した。
「さて、不意打ちは卑怯だと言わないでくれよ。これも戦術だ。あんたには不意打ちでもしないと勝てないしね」
「てめえ!! フォカロル。なんでここに来やがった」
「やァエリゴル。久しぶりだね」
「お前、なんで僕の名を!?」
「金行の使者『シャックス・ウルペース』が情報を売ってくれたんだよ」
あの野郎!!
金行の使者も僕の敵だが、一時は共闘?した仲ではあったがそれが裏目に出た。
次会ったら金行の使者をぶん殴ってやらなければいけない。
いや、そんなことはどうでもいい。この場にいない金行の使者は忘れよう。
それよりもなぜフォカロルがこの場にいるかが重要だ。
「さて、ぼくの目的は分かるだろう?
此度の大仕事。十二死の回収さ。この場にいる未と丑をいただくよ。一網打尽だ。
シャックスの仕事を横取りしてやる!!」
十二死の回収。未と丑?
未は消えたし丑なんていないはずだ。丑なんて一度も現れたことがない。
「はぁ? 丑?
そんな奴はこの場にいない。他を当たればいいさ」
「ハハハッ。『十二死の丑』はいるよ。君が気づいていないだけ。君は知らなかったんだよね?
なぁ、よく何ヵ月も騙してきたってもんだ。演技派かな。まさにお見事だねぇ。君は演者かな?
心は痛まなかったのかい?
君たちは知り合いだって聞いたよ。君が言わないならぼくが言ってやろうか?
十二死の丑。うまく人間に擬態してきたようだが、君は『十二死の子』よりは上手くない。擬態して人間として生きてきたんだろう。ひっそりとバレないようにと……。でも、君は人間じゃァない。なぁ、おいお前だよ!!」
そう言ってフォカロルは僕の方を指差す。
僕が十二死の丑の契約者であるとでも言うのだろうか。
「────お前のことだよ『セーレ・キユリー』!!!」
────────
『セーレ・キユリー』。こいつは僕の親友だ。この大陸で初めて心を通わせられる大事な友達で、性別が死ぬほど気になる相手で、大好きな存在だ。
そいつが十二死の丑?
いやいや、まさかそんなはずがない。
「おい、まさか。冗談だよな。あいつおかしいこと言ってるぞ。なぁ言ってやれよキユリー。お前は人間なんだって。お前とR18ギリギリのスキンシップを取っていた僕が言うんだ。お前は人間だもんな」
「…………謎の高身長年齢上の女性さん。エリゴルさんのことは頼みます」
「なぁ、キユリー。あいつはたぶん間違えてるんだ。お前を十二死の丑だと思い込んでる。アホだよあいつは。
だってお前、ちゃんと人間だもん。変身したのを見たこともないしな」
「エリゴルさん。シトリーのことは頼みます。私の代わりと言っちゃなんですが、守ってあげてくださいね」
「いやいや、キユリーはただの性別不明な人力車屋だからな。お前は十二死でもなんでもないキユリーだ。
逃げよう。このまま、ここにいたら殺されちゃう」
「いえ、そうはいきません。さて、ゲートとプルフラスはお任せください。このキユリーがフォカロルなんかメッタメッタにしてやりますよ!!」
「おい、キユリー。お前どうしちまったんだよ。なぁ!!
───どうして。否定してくれないんだよ…………」
キユリーが十二死であることを否定してはくれない。確かに、妙な点はあったかもしれない。
十二死の毒に効く毒草を見つけてこれたらしいし、性別不明だし……。いや、それだけじゃん。
それ以外の怪しい点はなかったはずだ。
僕の前では普通の人間として生きていたとか?
普通と言えば少し前に感じていた違和感を思い出した。
そういえば、僕はキユリーについての情報を知らなすぎている。キユリーは僕に自分の情報を教えようとはあまりしてこなかった。
「キユリー……?」
「───えへへ、なんでバレちゃったんでしょうね。最悪です」
キユリーは苦笑いを浮かべながらため息をついていた。




