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16 ・名で縛る+未 戦⑨

 神となった巫女=シトリー・バートリーは苦しんでいる。

それは自らの名を否定しなければ彼女は存在を保てないからだ。


「私は『神となった巫女』。名はない。だから、『シトリー・バートリー』なんて知らない。

だから、私を縛るな。名で縛るなァ!!」


名はその人を名付ける物である。名はその人を縛る物である。

シトリー・バートリーと神となった巫女は同じ人物であり違う人物だ。

シトリー・バートリーは人間だ。神となった巫女は神だ。

同一人物ではあるが、名で縛って役割を得ることによってシトリー・バートリーはシトリー・バートリーではなくなる。

神となった巫女と名乗ることで、シトリー・バートリーは神となった巫女としての役割を得る。

神となった巫女しか知らない人は、彼女を神となった巫女としか見ることができない。

だから、プルフラスは僕が必要だと言ったのだ。

僕は神となった巫女ではないシトリー・バートリーを知っている。おそらく、この中で唯一の人物だからだ。

そして今、シトリー・バートリーは神となった巫女という名を否定された。シトリー・バートリーとなった。

それは自らの名を明かすことであり、十二死の未を呑み込めていた理由も失くなってしまうのだ。

神となった巫女の存在が縛られて薄れていく。





 十二死の未も彼女が神となった巫女ではないことを知ったのだろう。


「嗚呼、嗚呼、ああ!!

力が。私の力がァ。十二死の未の力が!!」


シトリーの体からコブのような白い塊が飛び出てきて、それがどんどん大きくなっている。

それはやがて未のような姿になっていく。

だが、シトリーはその未の力を失いたくないので必死に抑え込もうとしている。

僕にはその姿が見るに耐えない。


「シトリー?」


僕はうずくまっているシトリーに近づく。瞳から放たれたビームで腹部は痛いが、横になっていないといけないくらいの重傷ではない。もちろん僕は青き短刀を持っている。

それは始末するためだ。


「私は神となった巫女。私は神となった巫女。私は神となった巫女」


そろそろシトリーの精神がまずい状況になりそうな気がする。

その前に僕が終わらせてあげないと……。


「シトリー・バートリー……」


僕のせいでもあるんだ。彼女がこんな風になってしまったのは、周囲の環境のせいであり、周囲の人のせいであり、そして僕のせいだ。

僕との出会いが彼女を苦しめたのだ。あのモルカナ国での出会いが彼女を助けて彼女を壊した。

だって、神となった巫女になっても彼女の性格は急変なんてしなかった。

誰かと一緒にいたい!!って願いは常に同じ。方法や手段は曲がっても願いは曲がっていなかった。


「僕を愛してくれてありがとう。僕を待っていてくれてありがとう。

君のシトリー・バートリーっていう名前。僕はけっこう好きだったよ」


一刀両断。

十二死の未とシトリー・バートリーとの繋がりを断ち切る。

シトリー・バートリーはその衝撃で倒れて気絶してしまい、十二死の未の姿は消えていた。

これで夢の中の国も終わりだ。夢から目覚める時間が近づいてきたのだ。




───────────


 さて、これで夢の中の国での戦いは終わりだ。あとはそれぞれの国に帰宅するだけ……。


「おいおい、そういえば、どうやって帰宅するんだこれ!?」


目的が神となった巫女を戦闘不能にするという事ばかりを聞かされてきたので、帰る方法をプルフラスから聞きそびれてしまってた。


「どうしよう。キユリーー」


「エリゴルさん。プルフラスを捜しましょう!!」


神社の境内にはいなさそうだ。やはり町にいるのだろうか。

一刻も早く、プルフラスを見つけなければいけない。

そんなことを考えていたその時、神社へと繋がる階段から声が聞こえてきた。


「誰か、天才の僕をお呼びかな?

もちろん準備万端さ」


「「その声は!!」」


僕とキユリーは現れたプルフラスの姿を見る。プルフラスの手に持っている杖が紫色の光を発しながら光っていた。


「ああ、これは魔法の杖さ。意識転移魔法を発動中なのさ。天才の僕は詠唱も動作もいらずに魔法を発動できるんだよ。この杖を取りに行くのが用だったってわけさ」


「へぇー、転移魔法を発動ねぇ。僕は知らなかったぞ。魔法なんてあるんだなぁ」

「すごいですねエリゴルさん。夢の中の国から意識を転移するんですって」


「町に意識を現実に転移させるゲートを作った。今すぐ行ってきなさい。そのゲートを潜れば帰れるからね。天才の僕はちょっと神社を修復しておくよ。十二死の未が悲しむかもだからね」


プルフラスはそう言って神社の境内を歩き回っている。

でも、よかった。これで目覚めることができる。いつも通りの生活を再び送ることができるんだ。


「なぁ、謎の高身長年齢上の女性」


「なんだ? 最後にオレとの別れが恋しいか?」


「それについては後で話すんだけど。シトリーを担いであげてくれない? 怪我人だしさ」


「…………ん」


僕はシトリーを見捨てられない。謎の高身長年齢上の女性に頼み、僕はシトリーも一緒に帰らせてあげたいと思ったのだ。

その意図を汲んでか、謎の高身長年齢上の女性はシトリーを担ぎ上げる。

一方、僕はキユリーの肩を借りながら神社から立ち去るという方法で下山するつもりだ。

さて、これで下山する準備は整った。


「───それじゃあ、プルフラス。先に町まで降りてるから。早くお前も来いよな。待ってるぞ!!」



────振り返ると、プルフラスは血を吐き出していた。


「は?」


大量の血がプルフラスの腹部から流れ落ちている。まるで中からグチャグチャに掻き回されたみたいに……。


「プルフラス!?!?!?」


「ああ……エリゴル君。すまないね。油断したよ……。神社にいるから早く逃げなさい……」


プルフラスはかろうじて立てている状態だ。だが、あれはもう重傷で間違いないくらいのひどい傷だ。これはヤバい。


「謎の高身長年齢上の女性!! 敵がいる。

まだ終わっちゃいなかった!! 神社にいる!!」


神社に来る前のプルフラスは怪我なんてしていなかった。つまり、敵は神社境内にいるのだ。

そして、その敵は姿を現した。

それは1人の青年。神社の本殿から現れたのは1人の青年で僕の会いたくない人物だった。


「アンビディオ以来かな。久しぶりだね。ぼくの事覚えているかい。こんな展開で登場するなんて、ぼくとしてはツラいんだ。決して君たちへの加害問題をしに来た訳じゃァない。仕事だからね。十二死の未と丑の回収さ。

さて、ぼくは犯罪組織【闇星】の幹部が1人水行の使者『フォカロル・ハーデス』。お久しぶり!!」


十二死の未。そして丑……?

本当は明日も1話分を更新する予定でしたが、多く書きすぎたので2つに分けて、12月31日は2話分を投稿させていただきます。ご理解のほどよろしくお願いいたします。

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今回の話もどうかあなたの暇潰しとして役にたちますように…。 気に入っていただけたら是非評価でもポチッと押していただけませんでしょうか。モチベーションに繋がりますので…。星1でも構いません!! ★これ以外の作品☆付喪神の力で闘う付喪人シリーズ
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