15 ・正体判明+未 戦⑧
“神の鐘”。全てを元通りにするという鐘の音。
神となった巫女が鳴らす鐘の音は夢の中の国中に響き渡った。
「さぁて、これでいいわね」
巫女は鐘から手を離す。これで運命の人が甦ると考えると、巫女は心の底から嬉しいと思えるのだった。
だが、その嬉しさを味わえたのは一瞬。
先程まで壊れていた神社の本殿をさらに壊すようにして、神の鐘を貫くように割って入ってきた物があった。
───それは槍。
神の鐘に異様な槍が突き刺さる。
おそらくその槍の狙いは巫女の顔面に突き刺さることだったのだろう。
巫女の顔面すれすれの位置に槍が刺さった。巫女の目と槍の距離はほんとうに近い。
それでも助かっている。巫女の幸運故に生き延びたのだ。
「ァ。危ッない」
防御すら行うこともできなかったのは、巫女が油断をしていたからである。
巫女は槍の飛んできた方角を見て、そして全身の血を滾らせた。
本殿が吹き飛ぶ。神社の本殿が吹き飛ばされた。この光景は見慣れている。
その中では怒りに満ち溢れたような巫女が立っていた。髪の毛を逆立てた巫女の姿はまるで荒ぶる神のごとき。
「なんで……ッ!?」
巫女が僕らの姿を不思議そうに眺めている。
そんな巫女に見られた謎の高身長年齢上の女性とキユリーからのコメント。それがこちらである。
「おいおい、神の鐘の効果を忘れたか? クソガキめ。
エリゴルどころか、オレらまで生き返らせるとは。他の物には目がいかなかったか?」
「えっ!? 私死んでたの?
死ぬってあんな感じなんですか。うわぁ、私で初めて死んじゃった。日記に書いとこ……」
どうやら神となった巫女は彼女にとっての邪魔者2人も蘇らせてしまったらしい。
僕だけを蘇らせるつもりだったようだが、失敗したみたいだ。
さて、神となった巫女と僕らのご対面。
しかし、巫女にとってはそんなの問題にも入らないらしい。
彼女は先程まで怒りに満ちた表情だったが、運命の人の顔を見るとすぐに笑い始めた。
「アハハハハ。失敗だったわ。うっかりしてた。
でも、いっか。また殺せばいいんだもんね。そしたら今度は間違えない。次は気を付ける。今度こそ私は運命の人と2人だけの世界を過ごしてみせる……!!」
ただ、一度失敗しただけ。神となった巫女にとってはやることが増えただけだ。
僕にとって今の状況がピンチなのは代わりない。
だからこそ、僕にできることは1つだけだ。
「────いいや、次はないぞ。『シトリー・バートリー』」
その名を聞いた神となった巫女は一瞬時が止まったかのように動かなくなっていた。
動かずにこちらをジーッと目を見開いて見てきたのだ。
「何それ? 私は神となった巫女」
「いいや、お前はシトリー・バートリー。
最初の頃、モルカナ国の禁忌の森で十二死の亥に襲われていた。あの時の少女。
シトリー・バートリー、それがお前の本名だ。神となった巫女なんて名前じゃない。お前の正体はシトリー・バートリーだ!!」
「……ッッッ!!!!」
神となった巫女に僕は彼女の名を告げる。
すると、巫女はこれまでに見せたこともないような焦りと怒りの表情を浮かべた。
神となった巫女は自らその足で走る。
拳を握りしめ、僕に向かって走ってくる。
その行動に謎の高身長年齢上の女性もキユリーも反応することができない。
少しだけ距離が離れていたので反応が遅れてしまったのだろう。
僕は神となった巫女に殺されてしまう。僕もキユリーも謎の高身長年齢上の女性もそう思った。
僕の行動が神となった巫女の地雷を踏んでしまったのだ。
だが、僕は生きている。痛みはあるが生きている。
神となった巫女=シトリーは超常的な能力を使うこともせず武器を取り出すこともせず。
自らの拳を使って僕の顔を殴り付けてきたのだ。
「貴様ッ!!! その名を口にするな!!」
その両手で僕の顔を殴ってくる。
だが、痛みに耐えられないというほどの威力ではない。口の中が少し切れたくらいだ。
僕はその放たれた拳を握りしめて、防ぐ。
シトリーはその手から逃れるためにもう片方の手で僕の指を離そうとする。
しかし、その隙に僕は彼女に告げる。
「シトリー・バートリー。お前は自分の名を捨てたのか!!」
すると、神となった巫女は僕の手を無理矢理にでも払い、そして頭を抱え始めた。
神となった巫女は立っていられなくなる。彼女は崩れるように地面に膝をつけながら頭を抱えてその名を否定している。
「嗚呼、違う違う違う違う違う違う違う!!!
私はシトリー・バートリーじゃない。私はシトリー・バートリーじゃない。私はシトリー・バートリーじゃない」
「いいや、僕にはわかる。お前はあの時に僕が禁忌の森で出会ったシトリーだ。神となった巫女なんかじゃない。お前はシトリー・バートリーだ!!!!」
「やめろ。やめろ!!
その名を口にするなッ!!!!」
突如、神となった巫女の瞳から放たれたビームが僕の腹部を貫いた。
「グッ……!?」
痛い。僕は傷口を押さえながら、シトリーの様子を伺う。
シトリー・バートリーはその後攻撃してくることはなかった。
だが、彼女は必死に自身の名を否定し続けるために独り言を呟いている。
彼女は自身の名を否定するために自問自答を行っているのだ。




