5➂・3人の証人+A級裁判
「良いですか皆様。ここにいるこのA級犯罪者の罪状は禁忌の森への侵入と人攫いにございます」
司会気分で検事役である『バティン・ゴエティーア』が僕を指差しながら発言する。
彼女は見物人たちに向けてのショーでも行っている気分なのだろうか。
冗談じゃない。人の命がかかっているのだぞ。
「はぁ!?
ちょっと待て、人攫いなんて僕はしてないぞ!!」
僕は無実であることを証明するために、声をあげる。無罪なのに罪になるなんて嫌なんだ。
だが、そんな僕を誰もが信じてはくれないようだった。
「静粛に!!」
その一声。家老『マルファス・ラ・ドラグ』からの一声に僕は口を塞ぐ。そして、周りが静かになった所でバティンが早速僕を有罪にするために動き出した。
「オホンッ…………。この『エリゴル・ヴァスター』。『シトリー・バートリー』という少女を誘拐し、更に禁忌の森への侵入という大罪を犯したのです。目撃証言が上がっております。
ただ今より3人の証言をお聞き願います」
「異議があります!!!」
バティンが証人を呼ぶ前に、キユリーは大声で手を上げた。
「……なんですか? まだ弁護する時間ではないのですが?」
呆れているように言ってもバティンはキユリーの異議を聞くつもりがあるらしい。
もしかしたら、本当にキユリーはすごい弁護を行ってくれるかもしれない。そんな期待を僕は抱く。
僕の味方はキユリーしかいないのだ。きっとキユリーなら僕を救ってくれる。僕はそう信じている。
「キユリー……たのむ」
もうキユリーが僕の最後の希望だ。期待の星だ。
そんな視線を浴びながらキユリーは口を開いた。
「一度このセリフ言ってみたかったんです……(最高のテレ顔)」
「すみません。こいつの処刑を僕にやらせてください!!」
キユリーの悪ふざけは終了し、ふたたび裁判は再開する。
「それでは証人の方々。さぁ、どうぞ前へ」
バティンがそう言うと、見物人たちの中から3人の女性が公事場へと歩き出した。
どうやら、彼女たちが僕の行動を見ていた証人らしい。
僕にはその彼女たちに見覚えがあった。
子供たちの母親だ。
彼女たちは僕が神話の読み聞かせをする時に集まる子供たちの母親の中の3人である。
僕は誘拐犯ではないのに、信用されていないみたいで少しショックな気分になってしまう。
「私が1人目の証人です……」
「あなたはこの男の何を見たのですか?」
「彼は毎朝神話の読み聞かせをしてくれる男性です。この方のお陰で息子が普段より速くに起きるようになって遅刻もなくスムーズに学校に行ってくれています。その節は大変ありがとうございます」
そう言って、1人目の証人は僕に感謝の気持ちを込めて頭を下げてきた。なので、僕もお辞儀を仕返す。しかし、どうやらこのままその女性が僕の無実を証明してくれるわけでもなく。彼女が見たという僕の行動を赤裸々に語り始めてしまった。
「しかし、先日、彼と同じ格好をした男が少女?を連れて、2人で楽しそうに『禁忌の森へ行く』などと言っていたのを見たんです。お互いに顔が見えなかったので分かりませんでしたが、少女が『性別確認されるか、裸を見られるか、全裸を見るか、選べよ。エッヘへ』というようなお願いを言われているのを聞こえた気がします。最初は間違いだと思ったのですが……その……あっ、ですがね。彼も彼でいい人」
その説明に一番驚いたのは他でもない僕である。
確かに、少女?はイコールでキユリーのことだ。まず、そこから第一証人は間違えている。
それに、『 』内は言わされているのではない。自分で自分の意思で自らの考えで彼女が口にしたことであって、僕はなにも強要などしていないのだ。
だが、バティンとしてはすぐに2人目の証言を見物人たちに聞かせたいらしく。
「なるほど!! ありがとうございました!!」
そう言って、まだ話し出そうとする第一証人をこの場からせっせと退出させる。
強制的に証言をカットしたのだ。
僕に対する悪いイメージを見物人に植え付けるために、バティンは必死なのだろう。よい印象を与えるような発言をさせたくないのだ。
僕を有罪にするために彼女は全力で僕たちに立ち向かって来ているのだ。
なんて、恐ろしい。本当にこいつが検事役で良かったのか。絶対、僕を死罪にするためだけに検事役を立候補していそうだ。
そう思いながら、この裁判を取り仕切る家老の方を見るが、彼は特になにも言わずに裁判の様子を見ていた。
まさか、こいつもグルなのだろうか。
2人して僕を死罪にさせるつもりなのだろうか。
────だが、心配いらない。
僕は無実だ。どんな証言が来ようとも、僕は身の潔白を証明できる。
例え、僕のイメージダウンを狙おうとしても、それは無駄な話だ。
先程の第一証人の証言はキユリーによる物。
僕が言ったわけでもないことだった。キユリーがいなければ起こらないことだった。
つまり、僕がこれ以上のイメージダウンになることは絶対100%完璧にあり得ない!!
「それでは2人目の方、あなたはこの男の何を見たのですか?」
バティンは2人目の証人をこの場に呼び寄せ、第二証人は自身が見た僕の怪しい行動について話し始める。
「何を見たといいますか。“ナニ”を見ました。ええ、ナニです。ふざけてませんよ。
私は路地裏にいる彼を見たんです。人気のない路地裏に若い女性を呼びつけて、自分の全裸を見せつけるような露出狂だったんです。もう全身……あらゆる布で隠すことなくです。そして、私は怖くなってそこから逃げ出したんです」
「なるほど!! ありがとうございました!!」
…………すいませんでした!!!!
第二証人による証言の効果は絶大なものであった。
「うわっ……」
「ヤバイやつだ……」
「気持ちワリィ」
2人目の証言を聞いた見物人たちが本当に僕がやったんじゃないかと疑い始めている。影でコソコソと僕の悪口を言うのはやめてほしい。
バティンの方はウキウキニヤニヤとした表情で第二証人へお礼を言いながら、彼女を立ち去らせる。
バティンはきっと嬉しいのだ。僕の印象を最悪にまで落としたことが……。
これで僕の信頼を失くならせて、反撃ができないようにするつもりなのだろう。
「そして、最後に3人目の方、あなたはこの男の何を見たのですか?」
すると、バティンは更に追い討ちをかけるかのごとく、3人目の証人を呼び寄せた。
最後の目撃証言として呼び出された女性は僕の怪しい行動について語り始める。
「私はこの男が少女と禁忌の森の前にいる所を見ました。手を繋いで怯える様子の女の子を無理やり、彼は片手で引っ張って森の中へと入っていきました。声をかけようと思ったのですが、一瞬目を離した隙にいなくなっていて……」
「なるほど!! ありがとうございました!!
…………以上が証人の証言でございます。どうです?
皆様。
彼が少女を誘拐したのは明らかです!!」
そう言って、バティンは第三の証人を帰らせつつ、見物人たちに語りかける。
このままでは僕の冤罪を疑う者が誰もいなくなってしまう。味方がいなくなってしまう。
味方……?
そうだ。忘れていた。
ここまで僕の印象を下に落とされたとしても、僕にはまだ1人だけ味方がいるじゃないか。
そのための弁護士じゃないか。
僕がその存在に気づき、キユリーに挽回を頼もうとする前にすでに彼女は動き出していた。
「まてまって、異議があります。印象操作はやめてください。
この彼が誘拐犯だというなら、その被害者の意見も聞かせてください。目撃証言だけじゃ証拠にもなりません!!
複数の別人と接していた可能性も否定はできないはずでしょ!!
被害者なら直接顔を見ているはずです」
わりとしっかりしている。キユリーは人力車屋なのに本当に弁護士みたいな気迫を感じる。まぁ、実際の弁護士を見たことがあるわけでもないが、迫力は感じる。
だが、そんな弁護士みたいだなんてキユリーに言ってしまえば、
「───人違いじゃないですか?
あっ、私の知人になら弁護士の人がいますよ。
松村さんという女性の人でどんな難事件もどんな買収された検事が相手でも、必ず真実を提示して解決してくれるんです。警察の目の届かない場所もくまなく見つけて解き明かすんですよ。真実の番人。最後の救世主。奥の手。なんて呼ばれていました。
そんな人が近所にいまして、よく遊びに行ったんですよ。
───ところでこのキユリーに何かご用でもあるんですか?」と言われるのがオチなのかもしれない。
おっと、そんな脱線したことを考えている暇があるわけがないのだ。集中集中。
さて、キユリーに被害者を連れてこいと言われたバティン。
そのバティンの口からはとんでもない言葉が飛び出てきた。
「被害者は行方不明だ」
「「えっ……?」」
僕もキユリーもその言葉に驚かされる。
被害者……シトリーが行方不明??
【今回の成果】
・禁忌の森への侵入と人攫いの罪だよ
・3人の証言だよ
・被害者シトリーが行方不明だったよ