11 ・今宵の夢のような時間+未 戦④
「キユリー!?」
周囲にはキユリーも謎の高身長年齢上の女性もいない。
まさか階段の辺りで巫女に……!?
僕は階段を見に行くために、動こうとしたのだが。
「あっ」
巫女が神社の本殿の屋根の上にいたのを目撃したのである。
「フフフ。ようやく2人きりね。新規さん。
最後にその顔を私に見せてくれないかしら?」
巫女は側に横たわって雑に置かれている2つの肉体を撫でながら、僕の顔を見定めるように見つめてくる。あそこに倒れている肉体は、キユリーと謎の高身長年齢上の女性だろうか?
「…………」
「あなたのフード付きのローブ。不思議ね。どこの物なの? 誰から貰ったの?
顔がまったく判別できないのよ。不思議なローブだわ」
「どうしてだ?」
「私はね。とある王子さまを待ってるの。待ち望んでいる人物かどうかを確かめる前に、殺すのは惜しいでしょ?」
「そんなことはどうでもいい。質問に答えろ。てめえ……何しやがった」
「どうでもいいなんて酷いわ。私は愛の話をしているのよ。
今宵はきっと運命の日になるかもしれないでしょ?」
「そうか。だったら僕を確かめるがいいさ!!
だが、キユリーだ。あいつは無事なんだろうな!!!!」
「ん? いや?」
は?
「当たり前でしょ?
私が待っているのは運命の王子さまだけなの。それ以外はいらないし」
は?
「それじゃあ、早速あなたのフードを取って私に見せてくれるかしら?」
は?
キユリーが殺された?
「安心して。もしもあなたが運命の人だったら。
私が愛してあげる。愛をあげる。愛して愛して愛して愛して愛して全ての愛を捧げる。全ての愛し方であなたを愛するわ。無限にある愛で無限にある現し方で永遠の永劫に運命の人に愛を捧げるわ」
キユリーが殺された……?
~~~
なぜだろう。頭よりも先に足が動いた。
僕の体は全速力で巫女を殺すために動いていた。頭では殺せないくらいレベルが違うなんて分かっている。けれど、殺さないといけない。
キユリーを一度でも殺した巫女を殺さなければいけない。
「仇討ち? 素敵っ」
完全無敵の防御である『神の羊毛』。
巫女をどんな攻撃からも守ってしまう最強の盾。
謎の高身長年齢上の女性の使っていた特別な武器の合成技でも突破できなかった難関である。
僕が何度も何度も何度も何度も何度も青い短刀で攻撃を繰り返しても神の羊毛は破れない。
「まったく……無駄なことしないで早く顔を見せてよね~。まぁいっか。楽しみは後に取っておいてあげようかしら~」
正面がダメなら移動する。
そこもダメならまた別の場所。全身の筋肉を使い、命を燃やし尽くす勢いで僕は攻撃の手をやめない。
「もぉ~いい加減にしておきなさいな。人間が十二死には勝てるかもしれない。でも、十二死を超越した神となった巫女の私には勝てないのよ」
“左目が疼く”……。
未来予知の力も最大限に活用し、未来で巫女の隙が生まれる箇所も把握しながらの攻撃。
何度も攻撃し何度も未来を予知する。一旦距離を取ることも許されない。ここで退くわけにはいかない。
そう思いながら僕は青き短刀を振るうのをやめなかった。だが、しばらくすると僕の視界に異変が生じ始める。左目の力を長時間使い続けてきたからだろう。未来予知の力を使っていると左目から血が流れ落ちてきた。
だが、それがどうした。左目から血が出てくるほどの苦痛を伴いながらも、それでも僕は攻撃の手を緩めない。例え、失明しても僕は左目に負荷をかけて未来予知の能力を使い続けるつもりだった。
「はぁぁ、しつこい」
とうとう十二死の巫女が根を上げる。
そして、『神の羊毛』に守られた状態で彼女は何かの合図のように左手を上げた。
巫女が何かをしかけるように左手を上げた。
その時、足に激痛が走る。
前に倒れそうになる。反動で青き短刀を手から離してしまった。短刀は宙を舞いながら、地面に突き刺さる。
そして、体はそのまま地面に倒れてしまった。
「ねぇ、あなた無理してるでしょ?
ダメよ。もしも運命の人だったら傷ついちゃ。無理しちゃダメだから。これはお仕置き。
でも、安心して。後でこの足は元に戻してあげるわ」
神となった巫女は、切断された足を手にもっている。
あれは足だ。どうやら巫女が左手をあげた際に、切り落とされたのだろう。
「さて、そろそろ顔を見せてもらうわね」
神となった巫女の手が僕のフードを剥ぎ取り、僕の顔が公になってしまう。
巫女は見た。フードの奥底に隠された人物の正体を……。
それは巫女にとって運命の……。
「ザマー見ろっす」
「女ッ!?」
巫女は慌てて背後に気配を感じ、振り返る。
足音が聞こえてくる。その人物は地面に突き刺さった青い短刀を握りしめる。
これまでの怒り憎しみ恨みを堪えて耐えた。耐え抜いた。その人物がついに巫女への一撃をくらわせようと、チャンスを掴んだのである。
「まさか囮を!?」
「ッ!!!」
僕は走る。隠れていた姿を現し、青き短刀を拾い上げ、巫女に一撃をくらわすために。
すべてはこの時のためだった。
僕のために囮を買ってくれたフレンドちゃん。僕という存在を完璧に演技してくれたフレンドちゃん。
その誠意に答えるために、巫女への一撃をくらわせよう。
巫女は逃げることができない。足を取られてはいるがフレンドちゃんは気合いで巫女の体を逃がさないように取り押さえている。
「バカな。私が間違えるなんて……」
僕は青き短刀の刃先を巫女の体に向けて差し込んでいた。
~~~~~
「なーんてね」
クスクスと笑い声が聞こえてきて、それを聞いている僕は地面に倒れている。仰向けの状態で僕は空を眺めていた。
巫女は優雅にお茶を嗜んでいる。
小さな丘のような場所にポツンと置かれた椅子に巫女は座り、机の上に置かれたカップを少女は飲んでいるのだ。
「お目覚めかしら。ひどく魘されていたわ。私の運命の人……」
「僕は? みんなは?」
「フフフ……どうしたの? 夢でも見ていたのね」
「いつから」
いつからが真実なのだろう。
今は現実なのか? それとも幻なのか?
現実はいつなんだ。現実はどこなんだ。現実はどうなっているんだ。
前は夢か現実か。後は夢か現実か。いつになったら理解できるのだろう。
「フフフ、おかしな人ね」
真実はどっちだ。夢はどっちだ。僕は今どっち側の人間なのだ。




