10 ・夢のまた夢+未 戦③
謎の高身長年齢上の女性が射殺されてしまった。
あまりにも一瞬の出来事で、僕にはいったいどういう理由で決着がついてしまったのかがわからない。
それは謎の高身長年齢上の女性が増救生銃と呼んでいた武器を巫女に向けて放とうとした時である。
謎の高身長年齢上の女性は武器を放つことなく、まるで時が止まったかのように動きが止まってしまったのだ。
そして、神となった巫女はゆっくりと謎の高身長年齢上の女性に近づき、武器を奪い取って射殺したのである。
「ヤバい。ヤバいです。このままではヤバいですよ」
キユリーが焦っている声が聞こえてくる。
~~~~~~
確かにキユリーの言う通りだ。さすがにこのままでは僕らは全滅してしまうかもしれない。
せめて、巫女の注意を謎の高身長年齢上の女性から逸らして、その隙にキユリーを逃がしてあげなければならない。
僕は小声で後ろにいたキユリーに囁く。
「キユリー……。僕が時間を稼ぐ。だから逃げろ」
「でも、それは………………わかりました」
この話は巫女には聞かれていないはずだ。
巫女の注意を逸らし、キユリーだけでも逃がしてあげるのだ。
僕は今キユリーとの約束を守ることができなかった。謎の高身長年齢上の女性を守るという約束だ。
その償いとして今度こそはキユリーを守る。
キユリーのために玉砕する覚悟で神となった巫女と対面する覚悟はできた。
「巫女ッ!!
僕はお前を許さない!!」
僕は青い短刀をしっかりと握りしめる。
そして、僕は神となった巫女に短刀を突き刺すように刃先を向けて突進していく。
「アラ、新規さんね?」
だが、神となった巫女は青い短刀の刃先を2本の指だけで抑えてしまった。全力で突進していったにも関わらず、指2本で止められた。
「なッ!?」
慌てて僕は掴まれた短刀を引き抜こうとする。
しかし、掴まれた短刀は引き抜こうにもまったく抜けない。
「ダメよ? プレゼントの受け取りはしてないの。握手ならしてあげれるけどね」
巫女は僕から青い短刀を奪い取ると、片手で刃先を掴み、もう片方の手で僕の手を握り締めて握手をしてきた。
「……えっ?」
巫女は僕との握手が終わると、青い短刀を返し、そのまま僕の横を通りすぎていく。
「???」
どこの怪我もしていない。何も奪われてはいない。ただ握手をされただけだ。
握手をされるというのは珍しい経験ではあるが、それでも戦闘中とは思えないくらい出来事だ。
「はっ!?」
しまった。僕はキユリーを逃がしてあげなければいけないのだ。
神となった巫女が僕を無視して移動したのもキユリーの後を追ったのだろう。キユリーのことが心配だ。
神となった巫女と握手をして既に10秒ほどの時間も経っている。
「キユリー!!!!」
既に神社の境内に、キユリーも神となった巫女もいない。
2人とも山を下るために階段を降りているのだろう。
僕は神社の鳥居を潜り、山の頂上から下を見る。
キユリーの姿はすぐに見つかった。キユリーはバランスを崩さないように急いで階段を降りている。
しかし、一方、神となった巫女はゆっくりと階段を降りている。
あの距離感ならすぐにキユリーに追い付かれることはないだろう。
少し安堵した。キユリーは無事だ。
だが、神となった巫女はなぜゆっくりと階段を降りているのだろう?
いや、考えている暇はない。僕はキユリーを逃がすために巫女を抑えなければいけないのだ。
「巫女ーー!! 逃げるな!!」
僕が大声で叫ぶと、巫女は無視することなく僕の方を見る。その瞳が僕を見てくる。
しかし、巫女の瞳に写ったのは僕の姿だけではない。
僕は巫女に向かって青い短刀を投げつけたのだ。
青い短刀は巫女に向かって山頂から斜めに落ちていく。勢いが落ちることなく、巫女に向かって落ちていく。
「…………ふーん」
だが、神となった巫女に向けて投げ落とされた青い短刀は巫女を守る“神の羊毛”に防がれてしまった。
「くそ……」
もしかしたらと思って投げてみたが失敗だった。
巫女の周囲を守るように羊毛が現れてそれが巫女を守る盾となったのである。
そのせいで巫女には傷1つできなかった。
「くそッ……もう手が思い付かない」
それでも諦めるわけにはいかない。
青い短刀という武器もない。仲間もいない。
そんな打つ手なしの状況だが、僕はキユリーを逃がさなければならないのだ。
考えろ、考えろ、考えろ。
「君にはあの子が大事なんだね?」
巫女の声で僕は意識を巫女の動きに集中させた。
巫女はキユリーを狙っているのかもしれない。
それだけはさせてはならない。
「巫女!!!!」
頭よりも先に足が動いた。
僕は山頂から飛び降りる勢いで階段を降りるつもりだったのだ。キユリーを巫女の魔の手から守るために、僕は山頂から足を踏み出した。
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境内。
「は?」
おかしい。おかしい。
僕は神社の境内から階段を降りていくつもりだった。足を一歩踏み出した。
それなのに、僕は今神社の境内にいるのだ。




