4・ プルフラス+魂の魔法使い
結局、部屋にはプルフラスと僕だけになった。
「なぁ、プルフラス。出会ったばかりのお前に言うことじゃないかもしれない。でも、言ってもいいか?」
「なんだい、エリゴル君。天才の僕は今から君にとっておきの物語を聞かせてあげようと思っていたんだけど」
「……とっておきの物語?」
「暇潰しに物語でも聞いていかないかい?
さまざまな別世界のさまざまな英雄たちのお話さ。分かりやすく言うと平行世界のお話って言うのかな?
その別世界の英雄たちの人生を教えてあげようと思っていたのさ。
おや、なぜそんな話をできるのか?って顔だね」
そんな顔をしていないし、思ってもいない。
正直、このままプルフラスと話していると一向に僕の本題を聞いてくれなくなってしまいそうだ。
そう思うと、すぐにでもプルフラスの話を中断するように仕向けなければいけない。
…と思った僕だが、話し始めたプルフラスの勢いは止まらなかった。
「いいかい、エリゴル君。天才の僕は別名【魂の魔法使い】と言うんだ。
【魂の魔法使い】はあらゆる世界を鑑賞し、魂を導くお手伝いをするのさ。
いわゆる魂のスペシャリストってわけだ」
「天才の僕はずっと魂のスペシャリストだった。人間だった頃からずっとね。
魂のスペシャリストは常に魂が見える状態なのさ。生きし物・死し物など全てが見える。
天才の僕はその魂の見た目だけでその魂の人生の全てを知れる。魂の過去も未来も現在も分かるんだ」
「だからこそ、天才の僕はさまざまな英雄を知っている。別世界を観測する事で様々な英雄たちの終わりを観れている。
彼らのバッドエンドもハッピーエンドも……そして君のエンドもね」
僕の終わりを知っていると言うことだろうか。
正直、プルフラスが相手でなければその話を詳しく聞きたいところだけど。
今すぐにでも本題に入らないとプルフラスはこのまま話を続けてしまう。
それだけは避けたい。本題を言えないまま数時間も聞き役に徹するなんて冗談じゃない。
僕はあの謎の高身長年齢上の女性との事についてちゃんと言っておきたい事があるのだ。
「なぁ、その前に言いたいんだけど。お前、少しあの人にきつく言い過ぎだ。
あの人の心境がわかるって訳じゃないけど、さすがにさっきのは言い過ぎだぞ。あの人がかわいそうだ」
「あッ、うむ……。天才の僕は真実を述べただけのつもりだったのだがね。意地悪だったのかもしれないね」
言葉ではそんなことを言っているプルフラスだが、表情としてはまったく反省している様子でもない。
プルフラスは普段どおりの表情で次はいつ喋り始めようかなどとでも考えているのだろう。
彼女がプルフラスのせいで苛ついていた事も既に忘れてしまったかのように、表情に変化がない。
もしかしたら、プルフラスはあの人の事が嫌いなのだろうか?
だから、わざと彼女を煽るような発言で責め立てていたのかもしれない。
「なぁ、プルフラス。あんたはあの人の事が嫌いなのか?
嫌いだから、ああやって責めるように」
とりあえず尋ねてみる。尋ねることでなにかが変わるわけでもないが、僕はプルフラスに聞いてみた。
だが、その質問にプルフラスは何を聞いてきているのかさっぱり分からない様子だ。
「嫌い? 天才の僕が? あの人を? なぜ?」
「なぜって……。彼女を煽って苛立たせてただろうが」
そこまで言ってみたが、プルフラスは身に覚えがないみたいな様子でキョトンと首を傾げている。
「さっきも言ったとおりだろう。真実を述べたつもりだった。だから、嫌いも何も真実を述べただけなんだよ。天才の僕はただ彼女の真実を述べただけだ」
「は…………」
「そんなことより。
英雄たちの物語を聞かせてあげよう。まずは……付喪人も勇者もいない世界の超能力者のお話からだ」
こうして、プルフラスの英雄たちの物語の読み聞かせが始まったのだ。
僕の不愉快な気持ちを無視して……。
そこからのプルフラスの話は、本当に摩訶不思議な英雄たちの物語だった。
この世界の常識どころか、自分の常識さえも疑いたくなるくらい。本当にいろいろな英雄たちの物語をプルフラスは語ってくれた。
そして、僕もそんな英雄たちのようになれるとプルフラスは言ってくれた。
だが、僕にはプルフラスの言葉が響いてこない。
英雄たちの物語は確かに本当に凄いと思えるような物ばかりだった。
だが、プルフラスがそれを語ると……なんだか違和感を抱いてしまうのだ。
その違和感の正体は分かる。プルフラスが語るの口調には心がなかった。
心がこもっていない。まるで人の心が無いようだ。人への心が存在していない。
そして、他人どころか別の生き物について話すように話している。
なんだか、プルフラスの語る物語は面白いのにプルフラス自身が不気味だという印象である。
「……とまぁ。こういうわけで彼の世界は平和になったとさ」
こうして物語を語る途中でプルフラスは休憩を取った。
プルフラスはどこからか取り出したコップに水を注ぎ、それを飲もうとする。
さすがに休憩なしで語り続けたので喉が乾いたのだろう。
「プルフラス……」
そこで僕はプルフラスに声をかける。
すると、プルフラスはそれを無視してまだまだ話はたくさんあるといった様子で、僕に語り始めようとする。
「さて、次の話だが」
しかし、これ以上はさすがに僕も我慢できない。
プルフラスが語る物は、様々な別世界の英雄たちの物語・謎の高身長年齢上の女性の件も全て同じ感想だった。
「……プルフラス。お前はかわいそうだよ。お前、天才なのに人への心ってのを知らないんだ」
それだけ言い残し、僕はプルフラスを置いて部屋を後にする。
プルフラスは僕を呼び止めなかった。
こうして、プルフラスとの4時間は幕を閉じたのである。




