3・特別+英雄
プルフラスと酒場で出会った僕とキユリーとフレンドちゃんは彼に着いていくまま、とある宿にたどり着いた。
プルフラスが「酒場を出よう」と言ったからである。
その提案に僕らは反対することもなく、彼に着いていったのだ。
ただ、あれほど喋っていたプルフラスが、「酒場を出よう」と言ったのを最後に、無言を貫くとは思わなかった……。
そして、とある宿の一室に無事に入室すると、プルフラスは部屋のドアの鍵を閉める。
「……これでヨシ。それじゃあ全員揃ってるね」
そう言って僕らを見渡すプルフラス。それに合わせて僕も人数確認を行う。
この部屋にいるのは5人。
キユリー、僕、フレンドちゃん、プルフラス、そして……。
「そして、なんであんたがここにいるのさ?」
「良いではないか。オレだってこの自称天才に用があるのさ」
この部屋にはもう1人、酒場で出会った謎の高身長年齢上の女性がいたのだ。
「なにするつもりなんだよ。次はあの自称天才でも殺すのか?
なぁ自称天才。やめとけこいつは。平気で人を撃ち殺した奴だぞ?」
「貴様は知る必要もなし。自称天才、お前はなんでこの新参者どもをこの場に連れてきた?
今すぐ棄てるべきだ」
僕を含めた2人からの圧に自称天才は……。
「まず自称天才というのをやめてくれないかい。天才の僕は自称ではない。そこを理解した上で2人には聞いてほしいのだよ」
と自称天才プルフラスは自分が本当に天才であると主張しつつ、2人のどちらも大事だという発言を行ったのである。
いつの間にか外でキユリーとフレンドちゃんが遊んでいる。プルフラスもあの2人は大事ではないようで、とにかく僕と謎の高身長年齢上の女性がいればそれで良いらしい。
外では季節違いの雪が降っていて、キユリーとフレンドちゃんは雪遊びをしていた。
その光景を窓から羨ましそうにチラ見しながら、僕はプルフラスの話を聞くことになる。
「まず君ら2人の目的は一致している。どちらもこの夢の中の国から脱出したいと願っているのだからね。その点では君たちはこれから同志だということさ。仲良くしなよ?」
「「仲良くねぇ……」」
正直、仲良くできるなんてお互いに思っていないはずだろう。だが、これからの同志だということならば仲良くはしないといけないのかな?
そんなことを考えながら、握手でもしようと手を前に出す。
「あっ……」
すると、どうやら謎の高身長年齢上の女性も同じことを考えていたようで、同じく手を前に出そうとしていた。
だが、お互いの握手を遮るようにして、すぐにプルフラスは語り始めてしまう。本当に空気くらい読んでほしい喋りたがりだ。
僕と謎の高身長年齢上の女性の握手には興味もない様子でプルフラスは本題をさらっと言ってしまった。
「さて、本題に入ろう。簡潔に言うと脱出する方法は“神となった巫女を再起不能にする”ことだ。そうすれば出口は開かれる。簡単だろ?」
ニコニコと笑みを浮かべながら気楽な様子で本題を語り終えるプルフラス。
そんな彼の態度が謎の高身長女性には気にくわなかったようだ。
「簡単だと……!?
プルフラス、貴様は忘れているのではあるまいな。
オレでさえ数年かかっても倒せないあのクソガキだぞ!!」
「知ってるさ。心折れるまで挑んでいた君も、ついに酒浸りになる君も……。天才の僕は知ってるさ」
「貴様ッ…………」
苛立ちを抑え込んでいる。さすがに謎の高身長女性でもプルフラスをすぐに殺そうとはしていなかった。短気な彼女はギリギリで苛立ちを抑え込んでいるみたいだ。
「君1人には無理だって初めから忠告してただろ。それなのに君は『待ってる奴がいる。あいつらが心配しちゃうからな』と心折れるまで……。
美しいほどに自業自得だね。
現実じゃ実力はあるかもだが、ここは夢の中の世界。君の実力は通用しないんだ」
「……そうか。まさか、こいつか?
こいつがいないからオレはあのクソガキに勝てないのか?」
僕を睨みながら、謎の高身長年齢上の女性はプルフラスに問う。
「あっ、うん。そうだよ。エリゴル君がどうしても必要な武器だったのさ」
僕が必要な武器?
その言葉に耳を疑うが、それよりも謎の高身長年齢上の女性に視線が向いてしまう。
謎の高身長年齢上の女性はおそらくこれまでに今回の適切と何度も何度も闘い、敗北を重ねてきたのだろう。
それなのに僕が来ただけで一気に勝利へと繋がる。嬉しくもありムカつくのだろう。
そうなるように仕向けているのはプルフラス。
プルフラスはわざと彼女を苛立たせているのだ。
「……こいつが特別なのか?」
「そうだとも。エリゴル君が来てくれたから計画を実行できるのさ。ありがとうエリゴル君。君が来てくれたお陰なんだよ。君は英雄だ。夢の中の国を元通りにする特別な存在だ。君には本当に感謝しているとも」
「グッ……!!」
僕はここまで声を発することができなかった。2人のやり取りをただ見ていただけだ。
謎の高身長年齢上の女性の怒りが爆発しそうなのをただ見ていただけだった。
そして、彼女の歯を食い縛るような声が聞こえた時、既に時は来たのだと確信した。
堪忍袋の緒が切れたのだと理解した。
だが……。
「……プルフラス。オレは少し外へ出る」
「あら? ああ、行ってらっしゃい」
謎の高身長年齢上の女性は暴れることもなく、静かに部屋から立ち去っていった。




