2②・『プルフラス』+神の鐘
キユリーが発砲した。
謎の女性の囁きと大福の恨みによって僕に向けられた銃口。食べ物の恨み恐るべし……。
とにかく、銃声が酒場に鳴り響いたのである。
「…………ッあれ?」
僕は閉じていた目を見開き、自分の体を見渡す。
痛みもないし血も流れ落ちていない。
キユリーによって銃弾を受けたはずだ。それなのに、体は無傷の状態を保っている。
僕は不思議に思いながらも視線をあげたのだが、そこでキユリーと目があってしまった。
目と目が合う。キユリーの瞳は僕を狙い定める銃口のように動かない。
しかし、キユリーの腕は僕ではない方に動かされていた。
フェイントだ。
キユリーの狙いは僕ではなかったのだ。キユリーは視線を向けずに謎の女性に向かって発砲していたのだ。
「…………アハッ。アハッ!!
アハハハハハハハハハハッッッッ!!!」
しかし、キユリーに銃を撃たれた謎の女性は笑っていた。
謎の女性の体に傷はない。彼女はキユリーの発射した銃弾を手で握りしめている。
恐ろしい反応速度だ。酔っぱらっている状態なのにキユリーのフェイントにも対応するなんて……。
「若い新参者、オレはお前が気に入ったぞ!!」
「それはありがとうございます。でも、怒らないでくださいね?」
キユリーを気に入ったのか。その例の謎の女性はキユリーの頭をナデナデと撫で回している。
撫でられながら、キユリーは力が抜けたかのように銃を床に落とした。
その時!!
遥か遠くの方角から鐘の音が鳴り響いてきたのだ。
「おっ。新参者ども。聴こえてくるぞ」
鈍い重い……ゴォーンという音がまるで呻き声のように響いてくる。
これが謎の女性が言っていた“神の鐘”。全てを元通りにするという鐘の音。
「なんだこの音」
「なんか嫌な音です……」
「気味が悪い音ですね」
この鐘の音に新参者組(僕とキユリーとフレンドちゃん)は不快な印象を抱いた。だが、その他の人物たちはこの音には慣れているらしく。
「その感覚は大事にしてな。ここに慣れれば慣れるほど、この音の不快感が失くなっちゃうのさ。オレはもうあんまり不快感が感じないんだ……」
店の中にいた者たちはみんな悲しそうな表情で鐘の音を聴いていた。
この不快感を感じる鐘の音は、3分間ほど鳴り響き続けていた。
鐘の音が鳴り響いてきた後。
「たっくひどい目にあったぜ」
そう言いながら、先程まで謎の女性に射殺された死体だったはずの男が頭を抱えながら起き上がった。
いや、それだけではない。店の奥からも数人の人間がやって来る。
入った時には本当に静かで客もほとんどいなかった酒場だったのに、鐘の音が鳴り響いてからは大繁盛と化したのだ。
「こりゃマジかよ」
想像もしていなかった。本当に銃殺された人物が生き返り、店が大繁盛へと変貌したのである。
僕もキユリーもその繁盛ぶりにはビックリして周囲をキョロキョロと見渡しまくっていた。一方、フレンドちゃんは逆に興味もなさそうだった。
それほど賑わい始めた中で、「おーい」と僕らに声をかけてくる者がいた。
「いや~助かったよ。この夢の中の国のルールのお陰だね。君たち、感謝しなよ。この謎のお姉さんは君たちが来る前にここら辺の奴らを銃殺しきったんだからね」
その男?は白いフードを被っており、隙間からわずかに見えるアホ毛から髪の色は薄紫のような淡藤色だと分かる。その瞳は蒼く。顔立ちは少しクールな感じ。
まるで子供のような身長ではあるが、それでも年上オーラを感じざるを得ない。
そして何より特徴的なのは顔は笑顔でも目が笑っていないことだ。
しかもその顔からではそいつの性別が判断できない。キユリーとキャラかぶりだ。
この怪しい低身長人間はもちろん僕の知人ではない。こんなキユリー擬きに会うのは初めてだ。
「どなたでしょうか?」
とりあえず尋ねてみる。だが、キユリーとキャラかぶり低身長人間は僕の話など聞いていないらしい。僕の質問には答えずに会話を続け始めた。
「それでね。天才の僕はここで新参者が嫌われてるとは知らなくてさ。入って早々、数十人との殺し合い騒ぎに巻き込まれたんだよ。最初は些細な乱闘から殺し合いだもん。ビックリさ!!
実は天才の僕は弱いからね。すぐに死んじゃったけど。こうして生き返れてHAPPYさ」
「話を聞いてくれ!!」
さすがにちょっとだけ勢いをつけて声をかけた。
このままでは一向に話が落ち着かないまま、永遠にキユリーのキャラかぶりさんの話を聞かなければならなくなると思ったからだ。
すると、キユリーのキャラかぶりさんは僕の顔をチラ見する。そして、一瞬でも黙ってくれるかと思ったが、話題を変えただけでそのまま話し始めた。
「天才の僕がわざわざ伝言まで用意して会いに来てあげたんだ。天才のボクが少しくらい話をしてもいいだろう?」
「少しが多いんですよ。誰なんだよあんたは!!」
「……これは失礼した。確かに天才の僕が自己紹介をする必要はないけど、天才の僕を知らない人もいるもんね。
それでは改めて、自己紹介だ。天才の僕の名前は長ったらしいからファーストネームだけ。『プルフラス』。天才の僕の名前はプルフラスだよ。そしてそこの子に伝言を頼んだ張本人さ」
キユリーに伝言を頼んだ張本人プルフラス。
なるほど、どうりで会話の一文一文が長ったらしかったわけだ。




