1 ・ノンテンブテスターノックス+酒場
無理だった。無茶だった。無謀だった。
これまで何度挑み、何度敗北してきたのかは体が知っている。
毎日毎日やって来た彼女を私はしつこく追い返した。
だからこそ、彼女は諦めた。もう私に挑むことはなくなった。
最後に挑まれたのはいつのことだろう?
もう1ヶ月以上前の話かもしれない。1日前の話かもしれない。
夢の中の国はいつが朝でいつが夜なのかも分からないから、時間の感覚が定まらない。
それでも私にはこれだけはわかる。
あの日以降、誰も私に会いに来る者はいなかった。
いつもなら、私に会いに来る者は、夢の中の国を嫌っている者たちばかり。
それが途絶えたのである。
みんな、私の夢の中の国が好きになってくれたのか?
それなら、お供え物でも持ってきて欲しい~なんて考える。
次はいつになったら来てくれるのかな?
次はどんな人が来てくれるのかな?
そんな未来を夢見ながら、私は今日も下界を見下ろす。
今日も夢の中の国は変わらない。明日も夢の中の国は変わらないだろう。
なぜならここは理想郷。永遠なんて程遠い。不変の安らぎの国。誰もが夢を見て夢を叶えるユートピア。
私が夢見た理想の世界。そして彼を待つ世界。
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インテンブテスター・ノックス。
その町は白い霧に覆われていた。一寸先も見えにくいまま、ただ一軒のランプの光を頼りにたどり着く。
そのランプの光を頼りに店に入ってきたのは3人のお客様。
「よかった~建物~助かった」
「いやー、さすが私。無事にたどり着いたみたいですね」
「無事じゃないです。私とフレンドはさんざんだったんですがね!!」
それが僕らエリゴル御一行様である。
こうして、僕らがたどり着いた建物はどうやら酒場だったらしい。
お客さんが少なく静かではあるが、内装の構造がなんだかザ酒場というイメージなのだ。
中部劇などに出てくる酒場っぽい。
すると、僕の右隣にいたキユリーと僕の左隣にいたフレンドちゃんが僕が思った事と同じことを呟く。
「酒場ですね。中部劇っぽいです」
「でも、客も少ないですね」
店内にいる客はおそらく3人。カウンターにマスターらしき人物が1人。それ以外は誰もいない。
本当に静かな店内なのに、2人のお子さまは空気も気にせずはしゃいでいる。
「わーいご飯だー。キユリ先輩。何します?」
「私はマリトッツォがいいです!!」
マリトッツォなんて酒場にあるわけがない。
せめてメニューでも見ながら言ってくれ。
僕は心の中でそうツッコミながらも、2人の後に続いて席に座る。
「あっ」
ここで冷静になって考えてみたが、僕らは建物があったから酒場に入っただけで、酒場で何かを注文したりするつもりもなかった。
そもそもお金もないし、未成年なのだ。
「おい、どうしよう。キユリー&フレンドちゃん。お金ないんだわ」
「「えっ!?」」
静かな店内にキユリー&フレンドちゃんの腹のなる音が静かに響き渡る。
すると、その腹の音を合図に、僕らから一番離れた席に座っていたお客が声をあげた。
「うるせぇなぁァ。酒場はガキの来る場所じゃねぇんだぞ!!」
机を音を立てて叩き、そのまま立ち上がる。
そのお客の女性は酒ビンを手に取りながら、おぼつかない足でこちらへと歩いてきた。
彼女の座っていた机には酒ビンが6本も置かれており、既に空に4本が空になっている。
ずっとお酒を飲み続けていたのだろう。時間が許す限りずっと……。
ふと、横を見るとキユリーは怯えている。フレンドちゃんの方は僕をジッと見ている。
これは僕が対応しなければいけないのだろうか?
仕方がない。最年長の僕がキユリーたちを守らないといけない。
僕は席から立ち上がり、向かってくる女性と対面した。
「落ち着いてください。静かにしてないのは謝ります。だから、落ち着いてください」
「オレは落ち着いてるぜ。いつも通りだぜ。なんだ? オレは酔ってねぇぞ?」
その女は黒き布に赤い線の入った羽織を着て、肩まで伸びた黒く長い長髪、片目は髪で隠れているが、もう片目は獲物を狩る狩人のように少し尖っていた。その身長も僕より高く、180cm以上はあるのかもしれない。おそらく20代は到達してるくらいの大人の女性といった雰囲気を感じる。
そんな高身長年齢上の女性が僕を少し見下ろすかのような視線を向けてくるのだ。僕は正直恐怖を感じたのだが。
それでもキユリー&フレンドちゃんを危険な目に合わすまいと僕から退くことはないのだ。
こうして睨み合う2人。
「「…………」」
その2人の睨み合いを妨げたのは他の客人の一言であった。
「おいおい喧嘩か? やめとけ新参者。その女は狂ってるからな」
店の端の席でお酒を飲んでいる1人の男からの発言。
その発言が2人の睨み合いを終わらせたのである。
「…………オレが狂ってるだと?」
女性がそう呟いた瞬間、僕は目の前の光景が信じられなかった。
ほんの一瞬の出来事だ。彼女は銃を取り出し、狙いも定めずに男に発砲。銃声が響き渡り、頭を撃たれた男が倒れる。そして女性の笑い声。
「アハッ。アハッ。アハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!!!」
男の発言は真実だった。僕には目の前の女性が狂ってるように見えた。
いきなり撃ち殺すなんて、とても普通の精神とは思えない。
こいつ、いったい何者なんだ??




