6 ・目覚め+伝言
「イリリグッ…!?!?!?」
目覚めた瞬間に、オレが異世界生物みたいな変な声を出したのはうなされていたからではない。
確かに、先程の夢は異質というか、リアリティーがあって不安になったけれど……。
それだけで、こんな汚い悲鳴をあげて目覚めるわけがない。
「…………うわっ!?」とかいう悲鳴ならまだ分かる。うなされいたということはだいたい理解できる。
でも、さすがに「イリリグッ…!?」はないだろ。
絶対、夢からの帰還で出せる声じゃない。これは外部的攻撃だよな!?
オレはそのことを悲鳴をあげて1秒で気づいた。
「……今日という今日は許さないかんな!!」
今日の僕はひと味違う。
いつもなら来訪客に先手を取らせる僕だが、今日は先に先手を打つ。
これまではずっと受け身で起こされてきたが、今回は自己紹介の間も台詞の間も与える隙を見せるつもりもなかったのである。
しかし、現実は予想通りにうまくいく物ではなかった。
「ってギャアアアアアアア!?!?!?」
僕が怒声を発しながら目覚めると、視界に入ってきていたのは飛んできた無数の石ころ。
「痛て。痛てて。ごめん投げないで。怪我するから。洒落にならないからさぁあ」
普通の人だったら大ケガだろう。大問題になりかねない。だから、僕は犯人の正体を確かめようと目を細める。
「あっ、ヤバっ。フレンドが起きやがったっすよキユリ先輩」
「私は知りませんから。あなたが一足先に起きて提案したんでしょ!!」
どうやら犯人は2人いるらしい。
性別不明が1人、和服少女が1人。
彼女らが僕に石を投げてきた張本人であり、今回の起こし当番だったのだ。
一応、紹介。
性別不明とはキユリーという人間のことである。モルカナ国で出会った性別不明であり、モルカナとネゴーティウムでお世話になった。
僕のお気に入りだ。大好き。
「お気に入りってなんですか?
私はあんたの人形ですか!?」
一方、和服少女とはフレンドちゃんという人間のことである。ネゴーティウムとアンビディオでお世話になった。
怪しい異様な少女だ。
「怪しい少女とはひどい言い方ですね。フレンド。
先程までも私は大人しく接しているつもりだったのですが」
一応、紹介終わり。
今の状況は僕の周りに和服少女と性別不明がいるってこと。
こうして、紹介を終えた所で改めて、周囲を見渡してみる。どうやら見知らぬ場所だ。
「でっ。ここはどこなんだフレンドちゃん?」
「私はあなたと過去の記憶を辿っていたはずですよ。聞くならキユリ先輩に」
「それじゃあキユリーは?」
「知りません!!(バーンッ)」
「じゃあ仕方がない。地道に調べていくか。ん?」
ふと見上げると空がピンクだったことに気づく。まるでこの世ではないみたい。
「ここはあの大陸じゃなさそうだし、あの世じゃないよな?」
「「それはないない」」
2人から普通に否定されてしまう。
そういえば、2人はいつの間に仲良しになったのだろうか?
フレンドちゃんが僕よりも早く目覚めたとしても数分前。
その期間だけで協力して僕に石を投げてくるほどの仲間意識が芽生えるものなのだろうか?
そんな考え事をしていると、横にいたキユリーが「あっ」と何かを思い出したように呟いた。
「そう言えば、エリゴルさん。私あなたを待ってるって伝言を」
「伝言? 誰から?」
「名前は聞いてません。ただ、あなた達がここで倒れていると教えてくれたのもその男性なんですい」
「ふーん。どんな伝言なのさ?」
「えっと……ちょっと長いんですけど良いですか?」
長い伝言……。
おそらく、僕を待ってる謎の男だって言うから、集合場所の説明でもキユリーに聞かせたのだろう。
集合場所が説明しにくい迷いやすい場所だとか?
よく分からないが、行動に移せるのなら僕はその男に会うべきなのだ。
キユリーには苦労をかけるが、長い伝言文とやらを聞かせてもらわないと……。
「お願いするよキユリー」
さて、僕らはどこに向かえばいいのかな?
「そのまま真似しますね?
『さて、言おうか。君たちが今いるこの国は国ではあるけれど、国として認められていない。
地図に載っていないんだ。ボヌムノクテムなんて国名もあの大陸にはどこにもない。想像された国なのさ。妄想の国、夢中の国。
それがボヌムノクテムなんだよ。
夢中の国なんて言うと面白い国だと思われるから、夢の中の国と言おうか。
なぜ、この夢の中の国がこの大陸にあるのかと言うと、やはり十二死案件だ。
【十二死の未】。
それが夢の中の国に巣くっている。夢の中の国の本来の主だ。
十二死の未の特性としては【夢を操って嘘で人の心を揺るがすこと】。偽御告や悪魔の囁きみたいなものだね。
だから、十二死としては即効的な滅亡ではない。
でも、今回は未が被害者側だ。
君も知っているように、十二死には契約者がいる。
十二死は契約者の願望を叶えつつ、人々に災難を与える存在だからね。
そして、今回も十二死には契約者がいた。
だが、未が選んだ契約者が問題だったんだ。
その契約者は前から既に十二死という存在を知っていた。
おそらく、十二死の被害者が再び別の十二死に出会ったのだろう。
十二死がどういう存在なのかを知っていた。
そして、未は利用されたんだ。未は契約で願望を得ようとしたが逆に契約ごと未が呑まれたんだ。
だから、お願いだ。あの女を助けに行ってくれ。
詳しいことは会って話そう。“インテンブテスター・ノックス”という町で……』終わり」
「伝言の意味ねぇーーー!!!」
長い。長すぎる。ほとんど本題だった。
2行で終わる内容が本題で埋め尽くされている。
大切な本題を伝言で伝えてきやがった。
かといって用無しになるというわけではないが、僕らは向かわないといけないらしい。
謎の男が待っているインテンブテスター・ノックスという町へ。




