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5 ・過去の記憶+一歩は踏み出すもの

 僕があの事件について語り終えると一呼吸、そして目の前で映る世界を眺める。

まるで時が止まったみたいに……。あの時の申し訳なさそうな表情の姉の顔。


「……これで終わりだよ。あの事件については」


「なんというか……言っていいのか。この事件がキッカケで大隈光太郎と縁切りしたんですよね?

なぜ男子高校生グループではなく大隈光太郎と?」


フレンドちゃんが不思議そうに結果を尋ねてくる。

そりゃそうだろう。普通に冷静になって考えてみれば、大隈光太郎は責められるべき相手ではないはずだ。

今の僕にだってそれは分かっている。だが、当時の僕ではそれを認めることができなかったのである。


「僕はできなかったんだよ」


ちょうど、その時に記憶は途絶えた。幕が下ろされたように真っ暗闇だ。

その真っ暗闇の中に僕らは佇んでいる。


「大隈光太郎は悪くない。でも、当時の僕には“僕という存在”と同じくらい大隈光太郎という相棒を許してあげることができなかったんだ」


当時の僕は彼を被害者だからと……親友だからと、彼を許すことができなかったのである。

そして、一番許せなかったのは僕の弱さだ。

僕は僕自身のことも許すことができなかった。


「あの時、ああすればこうすれば……。それを思わない日はないさ」


「後悔してるんですか?」


「後悔はしてる。でも、お陰で後悔しないように生きようと決めたのさ」




 さて、これにて僕が思い出したくない嫌な記憶の上位は終了である。

あとはこの真っ暗闇の空間でフレンドちゃんと2人きりの状況をどうにかしなければならない。


「……さて、これで終わりだよ。そろそろ目覚めたいんだけど?」


僕はフレンドちゃんに頼み込むように視線を向ける。

対するフレンドちゃんは口笛をピューピュー吹きながら、そっぽを向いている。

僕に顔を合わせてはくれない。


「そうですよね。次はどうしましょうか。過去の夢は終わっちゃいましたし。まだまだ過去を振り返ってみます?」


「やっぱフレンドちゃんが原因かよ……」


今回の過去の記憶夢旅を企画した元凶に対して、僕は呆れたようにため息をついた。

正直、元凶の正体は夢と認め始めてからは気づいていたのだ。

僕の過去の夢で自由気ままに動いているから、疑う材料には充分すぎるものであったから。


「すみません。フレンドが元の世界懐かしいな~って思えるように楽しい記憶を捜したんですが。今回の記憶が邪魔してきて……」


「それで失敗したと?

元の世界を懐かしむ機会をくれたのはありがとう。

だけど、悪いね。元の世界に帰る気はないよ。

僕は元の世界を夢見る男ではないのさ~」


少しだけフレンドちゃんに対してカッコつけてみた。

『元の世界を夢見る男ではないのさ~という台詞には元の世界に帰る気はないという男と、さっきまで元の世界を夢見てた』って意味が込めている。

それに気づくか? フレンドちゃん。

君はどう反応してくれるのかな?

ツッコミをいれてくれるのかな?

格好いいと言ってくれるのかな?


「…………」


だが、僕が予想していた返答とは違い、フレンドちゃんはいつになく真面目な表情で黙っていた。

いつものように不気味な笑顔も嘲笑うかのような笑顔も存在しない。

まるで表情の欠片もない人形のような表情である。


「えっ? いや、その……フレンドちゃん?」


元の世界の夢内でも、同じような事を聞かれた。

その時も同じように『やることがあるからまだ帰らない』と言ったのだけれど。その時の彼女の表情とはやはり異なっていた。


「帰る気はないのですか?」


「うん……」


「寂しくはないのですか?」


「まぁ、確かに家族に会えないのは寂しくはあるけどさ。

今は僕の力が頼られてる。僕はこの世界に居続ける理由があるッ!!」


僕の力はマルバスたちに頼られているはずだ。それにキユリーだって僕がいなくなってしまうと悲しんでしまうだろう。

元の世界は少し恋しいけれど、僕はここで必要とされている。

だから、僕はあの世界……大陸にいなければいけないんだ。

マルバスの目標の手伝いやナベリウスさんの言っていた争いのなくなった大陸の風景を見なければいけないのだから。




 さて、僕の返答を聞いたフレンドちゃんはというと……。

彼女はなんだか納得ができないといった表情でこちらを睨んできたけど、すぐに諦めたようにため息をついてしまった。


「そうですか。あなたは本当に“逃避しない”人間なのですね……」


逃避しない?

自分では分からなかったが言われてみれば確かに僕は逃避しない性格なのだろう。

今までだって、どんな困難にも逃げずに立ち向かってきた。どんなに勝てない戦いでも逃げるつもりはないのだ。

我ながらすばらしい性格なのかもしれない。


「急に褒めるなよ~照れるぞフレンドちゃん」


「…………さて、そろそろ目覚めましょうね」


そう言ってフレンドちゃんが僕の手を握ると、そのまま走り始める。

フレンドちゃんと僕が向かう先には一筋の光。

真っ暗闇に差し込む微かな輝き。

もう目を覚まさないといけない時間だ……。

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今回の話もどうかあなたの暇潰しとして役にたちますように…。 気に入っていただけたら是非評価でもポチッと押していただけませんでしょうか。モチベーションに繋がりますので…。星1でも構いません!! ★これ以外の作品☆付喪神の力で闘う付喪人シリーズ
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