3②・高校の屋上+夢の現れ
入ってはいけない屋上に、僕と姉の2人きり。姉はどうやら僕の事を探していたらしく、しかもドアを蹴壊すほど焦っていたらしかった。
「早く、聞かせなさいよ!!」
姉は僕からの返答を待っている。
だが、僕には彼女が何を聞きたいのかさっぱりわからない。
もしかして、フレンドちゃんのことがバレたのだろうか?
あれだけ、フレンドちゃんとは校内での会話を控えていたはずなのだけど……。
「なんの話だよ年上」
一応、過去と同じ返答をしてみた。というか過去と同じ返答しかできない。
そういえば、過去の人物とは過去のやり取りしかできないみたいな事をフレンドちゃんが言っていた。
「だから、会ったんでしょ? 大隈ちゃんに」
「うん、会ったけど。そういえばなんか元気無さそうだった。てか、なんで知ってるの?」
「大隈ちゃんに聞いたの」
なるほど、光太郎と姉は今日の朝にすれ違っていたということか。
僕がすれ違ったくらいだし、姉だってすれ違うだろう。
そういえば、2人は僕の知り合い同士だということでよく遊んでいたな。
最近は会っていないんだろうけど。今朝の再会時に何かあったんだろうな~。
……ってその時の僕は考えていたのだ。
「そっか。やっぱなんか悩みでもあるのかな?」
「まぁ、そうみたいね。そういうことならあんたも知らずか。そうだ。あんた放課後に訪ねてあげたら?」
「訪ねる……僕が?」
「どうせ帰宅部だしいいじゃない。昔の馴染みで。あたしは大会前だから行けないけどさ」
「でもさ、急に訪ねたら相手にも悪くないか?」
「連絡すればいいじゃん」
「あいつの携帯はないからな。まぁ、家に連絡するっていう手もあるけどさ。家族が出たら色々と話が深刻化しちゃいそうだろ?
昔は姉ちゃ……年上があいつの姉と連絡を繋げてくれてたし」
勘違いされたくないので、言っておくけれど、行きたくないからベラベラと僕は言い訳を考えているわけではない。
本心で、大隈光太郎の悩み事が深刻化しないように気を配りたかったのである。
あいつが僕に助けを求めてこなかったとしても、僕はあいつが助けを求めてきた時のために配慮をしておくのだ。
何でもかんでも力で解決(制圧)してきた僕の姉とは違い、僕は平穏主義者なのである。
しかし、僕がここで考えてこんでしまい会話が一時的に間を生んでしまった事で、お互いに考える時間ができた。
そのわずか数秒で姉は何かに勘づいたような表情を浮かべながら、僕に尋ねてくる。
「それは変ね。……ん? って今何て言った?」
僕の発言に姉は気になる箇所でもあったのかもしれない。しっかしそれはどこなのだろう?
「年上があいつの姉と連絡を繋げてくれてたし……のとこ?」
「その前よ!!」
「姉ちゃ……年上?」
「そうそこ!!」
僕がつい会話の中で油断していた所だ。嫌な場所を姉に聞かれてしまっていた。そこは失言だった場所である。
「なんだよ……年上。何か文句でもあるの?」
「いやー、反抗期のあんたからお前と年上以外の言葉が聞けるなんて~。
今日は星座占い1位だったっけ?
いや、何かの記念日?」
「知らねぇよ!!」
「そっか。まさかハロウィンか。ハロウィーン!!
トリック・オア・トリートのトリートね!!」
「今は8月31日だよ!!」
この時期の僕はプチ反抗期の真っ只中。
両親とも衝突することはしばしば。姉とはたまに衝突するくらい(3分の2で僕が負ける)。
しかし、姉を心底嫌っているわけではない。
そんな時期の僕だから、姉の事を何と呼べばいいか決められずに、姉の事は『年上』と呼んでいたのだが。
大隈光太郎の事を考えていたので、つい意識していなかったのである。
しかし、このまま年上についての話題に移られては僕が困る。
これ以上、口を滑らせないように、大隈光太郎の話に戻らなければならないのだ。
「いや、年上。僕も口が滑りかけたけど話を戻させてよ」
「はいはい。それで?」
「昔は連絡を年上の友達であるあいつの姉と繋いでくれてたけど。あいつの姉はもう上京してるしさ」
「連絡手段が皆無って訳ね?
まぁ、いいじゃん凸れば!!」
「そっか。凸るか」
という流れでちょうど昼休みの終了を告げるチャイムがなったのである。
さて、放課後。
姉からの提案の通りに僕は大隈光太郎に会いに行くという目的を持って、校門を通りすぎた。
「それで大隈光太郎の家に向かうんですか?
やめておいた方がいいんじゃないですか?」
誰とも会話をする場面ではなくなったので、僕が自由に会話を行える時間だ。
それを時間ぴったりに話しかけてきたのが、いつの間にか僕の隣にいたフレンドちゃんである。
「ん? ああ、僕もそう思うよ。でもさ、これは逃れられないんだよね?
結局、僕はこの過去の世界を夢として見届ける必要があるんだろう?」
「もう一度見る気はあるんですね」
「うん。実際に当時の僕があの出来事を理解して、どれ程の気持ちになったかを再現できる感情はないけどね。今の僕にとっては切り捨てた出来事だから……」
「でも、過去のフレンドはその出来事でかなり傷ついたようですもんね。高校生活どんな感じでした?」
「楽しかった。みんな優しかった。
ただ、心には必ず穴が開いてたみたいな感情は消えなかった。“相棒”って言葉が嫌いになったかな」
そう言って僕はフレンドちゃんから視線をそらす。
今から向かうのは大隈光太郎の家…………ではない。
大隈光太郎の通っている高校と大隈光太郎の家の中間付近にある“とある公園”である。




