1①・おはよう+異様な夢
夢を見た。
僕が小さな少女と優雅にお茶を嗜んでいる夢である。
小さな丘のような場所にポツンと置かれた椅子に僕たちは座り、机の上に置かれたカップを少女は飲んでいるのだ。
少女は僕に向かって嬉しそうに雑談を行ってくれるが、僕は何も答えない。
それでも少女は嬉しそうに笑っている。
丘の周囲は真っ赤に染まり、たくさんの人が倒れているのだから。
そして、僕の首も椅子から倒れるように地面に落ちていった。
そんな夢を見ていたのだ。
───────────
「イリリグッ…!?!?!?」
目覚めた瞬間に、僕が異世界生物みたいな変な声を出したのはうなされていたからではない。
確かに、先程の夢は異質というか、リアリティーがあって不安になったけれど……。
それだけで、こんな汚い悲鳴をあげて目覚めるわけがない。
「…………うわっ!?」とかいう悲鳴ならまだ分かる。うなされいたということはだいたい理解できる。
でも、さすがに「イリリグッ…!?」はないだろ。
絶対、夢からの帰還で出せる声じゃない。これは外部的攻撃だな!?
僕はそのことを悲鳴をあげて1秒で気づいた。
……っていつもなら思うだろう。
けれど、今日は違う。今日は僕の家族が起こしに来てくれたのだ。
「起きなよ。友達待たせてるよ!!」
僕を起こしに来てくれたのは僕の姉である。廊下から大声で僕を起こしてくれたのだ。
「……なんだよ年上。今日は登校日じゃないぞ?
高校1年生はなんか知らんが夏休みなのだー」
「あんた、姉のことを年上って言うなよ年下。あっ、両親は今日は仕事で遅くなるってさ」
「了解了解領解線」
友達を待たせているという言葉を思い出し、急いで自室のドアを閉める。
友達を待たせているのだ。さすがに急いで着替えを済ませなければ迷惑をかけてしまう。
「……ふぅ。自室?」
だが、なんだか違和感を感じる。いつも通りの部屋なのに、何かが違う気がする。
でも、それがなぜ違うのか、何が違和感の原因なのかが分からない。
勘違いなのだろうか……?
まぁ、考えても分からない事よりも今は友達を待たせている方が重要だ。
僕は十分間のうちにありとあらゆる準備を済ませて、「行ってきます年上」と姉に言ってから家を出た。
さいわい、友達は僕が家から出ることを待っていてくれた。なので、僕らはいつもの遊び場でだった空き地へと向かう。
僕が前を向きながら歩いていると、背後から友達が話しかけてくれた。
「今日はみんなでサッカーするらしいよ」
サッカー。
友達にサッカーがうまい人がいた気がしないので、遊びのサッカーなのだろう。
仮に試合だとしても僕の友達なら1チームくらいは作れる人数だから、相手チームと対戦するのかもしれない。
「楽しみだね。サッカー」
今日は珍しく、先程から光太郎も元気そうだ。光太郎というのは僕の隣にいる友達のことである。『大隈光太郎』。僕とは昔からの幼馴染みであり、家族ぐるみでも付き合いがあったので、彼とはいつも一緒に行動していた。
いや、行動していたのは光太郎の方である。
彼は僕が何かをしようとするといつも、僕の隣にくっついて来る。
それがずっと続いてきたから、僕らは親子みたいとかバカにされたこともあるくらいだ。
「ああ、天気もいいからな。久々に会う日にゃちょうどいい」
「そうだね。高校が違ってもこうして中学のみんなと集まれるのは素敵だよね」
「そうだよな~。てか、光太郎。お前、高校どんな感じなの?」
「うん……。少し大変だけど。でも、もう数ヶ月だし慣れてきたよ」
「そっか。もし何か嫌な事あったら僕か姉ちゃんにでも相談しろよな?」
光太郎は弱々しいイメージを感じさせる。それはどんなに成長しても幼稚園時代から変わらない。なんというか小動物感っていうやつだ。
幼稚園でも小学校でも中学校でも、光太郎は泣かされる事が多かった。
そんな時は、僕と姉ちゃんが嵐のごとく駆けつけて、問題解決(姉ちゃんの暴力)を行ってきたのである。
だから、光太郎が新天地として通っている高校ではどんな感じなのかを確認ながらにも聞きたかったのだが。
「大丈夫。嫌な事なんてないよ?」
と言われてしまったので、僕は何も聞き返すことなく、この話題を終える。
「そういえば、お姉さんで思い出したけど。県大会出場だって? すごいね!!」
「よく知ってるな光太郎」
「ちょっとね。しっかし懐かしいね。昔はいつも3人で競争してた。懐かしいな~」
「あっ、それじゃあ空き地まで競争しようぜ光太郎。
勝った方がジュースを奢るのさ!!」
「えっ…? うん。いいけどって速ッ!?」
光太郎の返事を合図に僕らは走り出す。
絶対、ジュースをおごらせてもらうために。
空き地へと先にたどり着いたのは僕だ。勝者:僕!!
これで光太郎にジュースをおごらせることが出来る。そんな風に喜んでいたのだが。
先に空き地にいた友達たちの様子がおかしい。
「誰だよこいつ呼んだの?」
「どこの子だ?」
空き地にいた人数は10人。僕らは9人。どうやら知らない誰かが紛れ込んでいるらしい。
僕も光太郎も彼らの輪の中に入っていき、知らない誰かの顔を見る。
それは見たこともない少女だった。
和服を来ていて肌は今にも消えそうなほど白く、そして飲み込まれそうな真紅の瞳に黒髪のショートヘアーの女の子。
まるで過去の時代からやって来た村娘みたい。もちろん、こんな少女の事を僕は知らない。
だが、どうやら少女は僕の事が気になるようで、ジーッと僕を見つめてくる。
「ジーッ」
「初めまして……?」
なんで、僕は知らない少女から睨み付けられているのだろう。
「初めまして……とはひどいですね。
───人違いをしているのではないですよ?
私はあなたに用があるのです。仲良くしてくださいねエリゴルさん。
いや、違うか。失礼。名前は間違えましたが本当に人違いではないのですよ。フレンド。
それより、ここはどこですか?
夢の中にしてはリアルでヤバめ。あっ、もしや過去の記憶を夢にしてる?
へー、ここはどんな過去の記憶なんでしょうね。
───ところでこの私を思い出してはくれました?」
知らない。本当に見知らぬ少女だ。
それに普通に怪しい。
なにより、キユリーのようでキユリーとは違う文章を使っている点が怪しすぎる。
───というか。キユリーって誰だっけ?




