23②・事後+アンビディオ
城を突き破り、女帝だった物は城から吹き飛んで城下町へと落ちていく。
炎上事件で国民が混乱している状況下で、すべての国民が城から吹き飛ばされてしまった女帝の姿を目にしていた。
バサッ…………ドサッ!!
「化物だ!!」
「いや、待て。姿が変わってい……」
「女帝様?
オイオイオイ、女帝様!?」
城から吹き飛ばされた巨大な妖狐の正体は国民にバレてしまう。
それが国中に広がるのはもはや確定してしまうことであった。
────そしてモルカナ一行が国を後にする時刻。
女帝はようやく目を覚ます。
「…………なんじゃ。今何があっている?」
見慣れない部屋。いや、そこは牢屋。
国の広場にポツンと置かれた牢屋の中に女帝はいたのだ。
その姿は全身を鎖で縛られて身動きも取れない芋虫のようである。
「なぜこんな場所に妾が?
おい、そこの人よ。なぜ妾はここにおるのじゃ?」
女帝はオリの前を通りかかった男に尋ねてみる。
「…………」
男は女帝の声に一瞬足を止めかけるが、無視するように急いでその場所を後にしてしまった。
「これは牢屋? わけがわからぬ。
妾は一刻も早くあのガキどもに復讐せねばならぬのじゃが……」
この状況が妖狐にとっては意味のわからない状況であった。しかし、こんな状況下でも女帝はまだモルカナ一行への復讐を諦めていたわけではない。
こんな野外牢屋なんてサッサと壊して……。
カーンカーンカーンカーン!!
その時、鐘が鳴らされる。
そしてすぐさま鐘の音に気づいた国民が数分も経たないうちに広場に集まり始めた。
国民たちが広場に集まり始めた。鐘の音に誘われるようにたくさんの国民たちが広場に集まってくる。
集まってきた国民に女帝は声を張り上げてお言葉を下し始めた。
「みんな。いいか? この牢屋から妾を脱出させてくれ。
此度の元凶はすべてモルカナ国の連中の仕業である。妾は急ぎモルカナを崩壊の業火で焼き尽くさねば。全てをまた新しく始めねばならぬのじゃ!!」
女帝はホッと一安心。
これだけの国民たちが自分を助けに来てくれている。
そりゃそうだ。女帝はこれまでにたくさんの贈り物を国民にあげてきた。
国民たちも毎日毎日女帝に感謝してくれていた。
中には女帝のためにこの国や周辺を守る騎士団に立候補してくれた人々もいる。
子供たちも楽しんで暮らしていた。
まさに女帝が思い描く人間にとっての理想郷だった。
これまで治めてきた国々の中で一番平和を国民にあげてきた自覚だってある。
愛される女帝。異国民をも受け入れる慈愛。治安が悪そうだが平穏な国。
───それがこの国アンビディオ。
だが、ザワザワと国民たちの間でざわめきが起こり始める。
そして、1人の国民が女帝に返事を返した。
「───いやだ」
「は?」
驚き、頭が真っ白になってしまった女帝。
そんな彼女に次々と罵倒する声が浴びせられ始める。
「人間じゃないお前に聞く耳もない」
「お前のお城はもうないぞ。お前の家来はもういないぞ」
「そうだとも、お前に居場所なんてない」
「私たちを騙していたのね!!」
「化物め!!」
「お前なんて死刑だ!!」
「我らの恩人面しやがって!!」
「【蝕の集合体】も本当はあんたの仕業じゃないのか?
自作自演で恩を売っていただけじゃないのか?」
「よくも東の町を!!」
「お前は女帝なんかの器でもない。ただの人でなしだ!!」
「お城に住めるのは選ばれた【選択者】だけ?
ふざけないで。私たちにもお城で働く権利はあったはずでしょ!!」
「お前のせいでホールにいた私の孫が死んだ!! 出世式で焼け死んだ!!」
「階級……そんな制度なんてクソ食らえ」
「俺たちを騙してきやがった化物め」
「この国の汚点め。害獣に居場所なんてねぇんだよ!!」
「狐ごときが人間を支配するなんて!!」
「人間様をこけにしやがって!!」
「妖怪が居続けたらこの国は終わりだ!!」
ざわめきと共に女帝を罵倒する声が広場中に響き渡る。
「消えろ」
「消えろ」
「消えろ」
「消えろ」
「消えろ!!」
「消えろ!!」
「消えろ!!」
「消えろ!!」
声はやまない。物が飛んでくる。石が飛んでくる。
「違うのじゃ。妾は違うのじゃ」
「消えろ」「消えろ」「消えろ」「消えろ」
女帝は牢屋の中で自分への不満をぶつけ続ける国民たちに対する感情がかき消されていた。
「…………貴様ら」
もう女帝は国民に対して想う感情は何もない。
恨みも憎しみも悲しさも喜びも慈悲も……。
何一つ国民たちに対する感情を出すことができなかった。
まるで道端に落ちている砂利くらいの価値に感じていた。
「裏切りやがって!!」
あれだけ努力して国を守ってきたのに。
蝕の集合体から必死に逃れてきた国外の者を住まわせてあげていたのに。
蝕の集合体を必死になって倒してきたのに。
国の中で問題が起きないように住みやすい国作りを目指してきたのに。
─────またいつも通り。
女帝の頭の上から音が聴こえてくる。
何人かが野外牢屋の上を歩いている。
そして静かになったと思われたその時。
──グサッ!!
「ウグッ……!?!?」
野外牢屋の上から突然突き刺された2本の槍。
2本の槍は女帝の体をも貫通してしまう。
その槍は行動を封じる槍。
女帝が反撃を行う手段を封じるために女帝の体に突き刺されたのだ。
これで女帝はもう身動きすら取れない。念には念をいれた国民たちの執行である。
───ポタポタッ
刺された箇所から血が流れ落ちる。
それは女帝が流せなくなった涙の代わりのように止まることはなかった。




